元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

懲戒処分の大原則ー罪刑法定・不可及・一事不再理等の原則<刑法の考え>

2021-11-28 08:57:34 | 社会保険労務士
 懲戒処分を行う際に考えておかなければならない大原則

  従業員が就業規則に規定する定めに違反した場合に、その制裁措置として懲戒処分をすることができます。しかし、就業規則にその理由・種類・程度を具体的に定めていなければ、この懲戒処分はできません。

 ここらは、労基法に減給制裁規定などがありよく議論されるところですが、懲戒処分の前提となる「どんな場合に懲戒処分を行うことができるか」といった大原則は、労基法自体に規定はなく、この点の議論はあまり行われない傾向にあるようです。この大原則はかって公務員を管理する人事院において、7つの原則が提示されていました。(※注意※) これらは、同じ処罰を行う刑法を扱う際の考え方から来ているところです。以下に、この7つの原則について示します。これは懲戒処分する場合に、必ずチェックしなければならない大原則ですので、これらに留意しながら行わなけれなりません。

 ・罪刑法定主義 文頭の最初に議論の対象となったものですが、就業規則に懲戒の理由・種類・程度が明記されていなければなりません
 ・不可及の原則 規定を設ける前の違反について、さかのぼって懲戒を行うことはできない。
 ・一事不再理  1つの違反について、何回も懲戒を行うことはできない。
 ・平等取り扱いの原則 先に同様の事案があった場合には、その当時の処分との均衡を考慮しなければならない。
 ・相当性の原則 懲戒の内容は、違反の種類・程度・その他の事情に照らして、妥当なものでなければならない。
 ・個人責任の原則 別の労働者の違反に対し、連帯責任で懲戒を行うことはできない。
 ・適正手続きの原則 規則などで定められた適正な手続きによって懲戒を行わなければならない。

 最近、サスペンスドラマなどでよく出てくる一事不再理ですが、他にも罪刑法定主義や不可及の原則など当然勘案すべきものを原則化した7原則です。この原則を踏まえ、適正に運用すべき重要なものといえます。この原則は、会社で決定権限をもつ経営者にとって、懲戒処分を行う際に、これが恣意的にならぬよう戒める大原則ともいえます。

(※注意※)人事院「懲戒処分の指針について(通知)」H12.3.31 公務員の懲戒については、世論を踏まえ処分内容は厳しくなる傾向にあるようですが、ここでいう大原則自体は民間でも変わらないと思われる。(ただし改正版では見受けられません。)

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フレックスタイム制における遅刻・早退・欠勤の概念とは!!

2021-11-20 16:24:46 | 社会保険労務士
 フレックスタイムは出退社が自由だが一定のルールはあるので遅刻等は人事管理の対象に!!

 フレックスタイム制とは、従業員が出社及び退社時間を自由にできる制度のことで、 分かり安く2月の28日の日数の例を取ると、その1か月の間に、一定の労働時間(ここでは法定の最大限の労働時間とする。)の週40時間×4週=160時間働けばいいということで、そうすればちゃんと1か月の分の給料はもらえるということになります。ただし、あまりかってきままに、いつ出退社してもいいとなると統制がとれなくなり、例えば、夜中出社する輩も出てくるかもしれません。一般には、出退社が自由にできる幅のある時間と(これを「フレキシブル時間」と呼びます)逆に必ず出社していなければいけない時間帯を設ける(これを「コア時間」と言います。)ことが多いようです。例えば、
  8:00       11:00=========15:00       20:00
  ⇐ フレキシブルタイム ⇒⇐    コアタイム  ⇒⇐ フレキシブルタイム ⇒     のようにします。

 このフレックスタイム制は、2019年4月以降は、ある期間内に一定の労働時間働けば(例としてあげた2月の28日の場合は160時間)良しとするところの、この当該期間(これを「精算期間」と呼んでいます。)が1か月から3か月まで拡張されましたので、例えばお子さんのいる家庭で夏休み期間にこどもと一緒に過ごす時間を取れるように調整することが可能となり、従業員には十分使いやすくなりました。また、出勤や退社時間をずらすことによって、最近問題となる密になることを避けることができます。このように、フレックス時間を活用すると従業員に喜ばれることができますので、管理者としては一度検討する余地はありそうです。

 さて、このフレックスタイムは、一般にいう「遅刻」や「早退」という概念はあるのでしょうか。一般には、遅刻・早退をした場合には、その働かなかった時間は賃金から差し引かれる対象となるでしょう。しかし、フレキシブルタイムの場合は、フレックスタイム中に出社すればいいわけですから、この時間の遅刻はありえませんが、コアタイムにいなかったらこれは普通にいう「遅刻」となります。コアタイムには、出てこなければならない時間にいないわけですから、これは遅刻でしょう。ただ、その時間にいなくても、1か月に働いた時間の総数が160時間(2月の28日の場合)であれば、給料差し引きはないわけです。

 ここでなんでコアタイムを設けるかと言うとその間に皆が出てきて、相談したり、係で打ち合わせをしたり、会議をしたりする時間のために設けていることになります。そういったことができなくなり、ルール違反のそしりは免れません。上司としては注意・指導することになります。また、これが続くようであれば、昇給・賞与やはたまた昇格に響いても文句はいえないでしょう。

 では一般にいう「欠勤」はどうでしょう。1か月の間に160時間(2月の場合の例)働けばいいわけで、1日に働く時間を多くすれば、出勤しない日があっても、十分に1か月に働かなけばならない時間160時間は確保できることになります。しかしながら、これも出勤・退社する時間が自由に決められるということだけであり、就労日であれば全く出てこないことはあり得ません。やはり、打ち合わせ等のために、就労日に全く出勤しないことはありえないわけでして、これも遅刻や早退同様ルール違反であり、「欠勤」として、人事管理の対象となってもやむをえないことになります。
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経験・感情・思考を受け入れやすい言葉(小説・法話)として伝える<瀬戸内寂聴の功績>

2021-11-14 09:00:13 | 第2の人生・老後・趣味と勉強
 寂聴さんは言葉伝達の使命があるゆえに様々な体験を重ねたのでは!<愛した、書いた、祈った>

 瀬戸内寂聴さんの訃報に接して、今いろんな場面で彼女の功績について論じている。文学的素養もなく宗教家でもない私が述べるのは、はばかれるところであるが、人生の終盤に差し掛かり「人生の探究者」として、彼女の存在の意義について書いてみたい。

 瀬戸内さんを知ったのは、若いころ、人生や心の持ち様などについて、いろんな作家やエッセイストが書いた雑誌に寄稿されていたのを見た頃からであるように思う。驚いたのは、仏門に入り頭を丸め、現生とは隔絶するのかと思った時だった。しかし、そうではなく、小説家としてまた僧侶として、その後も精力的に活躍されたのはご存じのとおりである。

 仏門に入ったのも許されぬ恋からの脱却であるというのも驚いたが、それほどまでに様々な体験をしてきた方である。経験によって感情の起伏を覚え、そしてそこから考え・思考する。だれでも人生を生きる以上、多かれ少なかれ、この経験・感情・思考というのは必ずある。しかし、彼女の才能というか偉大さは、そこにとどまらずに、ことばとして書き、ことばとして伝えたことにある。いいかえると、小説にして書き、法話としてみんなに伝えたことではないだろうか。そして、皆とそれを共有して、共に泣き笑い寄り添うことにより、その共感により救われた方が、また幸福に満たされた方が数知れずいるはずである。平凡な私の人生に比べれば、彼女の場合は、何倍もいろんな体験があるように思う。それは、言葉の才能を持った瀬戸内寂聴であればこそ、彼女に与えらえた「使命」だったように思うのである。我々一般人は、言葉にすれば嘘くさくなるし、思ったこととはちょっと違うこともあり、うまく表現できないもどかしさを感じる。彼女の場合は、きわどい言葉であっても、何となく受け入れられる表現だったのである。

 人は社会の一般常識というもので縛られ、ルールに従うように強制される世の中である。若い時ほど情熱が多く、踏み外す人生もある。同じように人生を体験した瀬戸内さんだから、そして言葉の才能を持った彼女だから、伝えられる言葉があった。児童に日本各地を訪ねたかを問われ、答えはイエスで、実際にそこに行って「見て、触って、そして食べ物は食べなきゃおいしいかは分からない」といい、経験の大切さを伝えた。

 自分の体験をもとに、言葉で人への思いやり・人とのつながりを自然体で伝えるという、人への影響ははかり知れないものがあった。本当に「すてきな人」をなくしたように思う。ただ、今は、技術も進み、本や音声で彼女に会おうと思えばいつでもできる世の中になったので、その偉功を十分味わっていきたい。
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遅刻により1日8時間超の労働でなくても時間外?<労基法は8時間超に割増賃金発生>

2021-11-07 08:59:31 | 社会保険労務士
 就業規則と異なる労使慣行の成立があれば破棄は困難だが判例は基本はその成立について慎重姿勢

  従業員が午前中遅刻して、結局昼から出勤。こんな場合に給与計算はどうされているだろうか。午前中の遅刻を頭に入れていないと時間外が発生することにもなります。

 たとえば、その会社が9時から18時までの就業時間として、うち昼12時から13時が休憩とします。昼から出勤し遅刻した分を取り戻そうとしてたとして、13時から働いていつもの定時終了の18時までに(ここまで5時間就業)加え、18時から1時間の休憩を取って、19時から再度働き午前中働いていなかった3時間をさらに働いて、結局22時に仕事を終了したとします。これでも一日働いた労働時間は8時間です。

 いわゆる残業の割増賃金は、法律上は一日8時間を超えた場合に支給されます。ところが遅刻したことを頭に入れていないと、18時以降働いた分を残業と捉え、これに1・25増しの賃金を払うことが考えられます。18時まではまだ5時間しか働いていないのにかかわらずです。ここで、労働基準法は、あくまでも通常一日8時間、週40時間を超えたときに割増しを支払うとなっている点です。

 ところが給与計算上面倒なことなどから、就業規則で18時以降の就業を時間外として払うこともあり得ます。それはそれで会社としては、労働者に有利に働くので、最低基準を定める労働基準法ではむしろOKということになります。

 しかしながら、就業規則上は、労働基準法どおり一日8時間超の労働を残業手当を支払い対象としていた場合に、「給与係」が就業規則の規定を知ってか知らずか割増賃金を払っていた場合には、どうなるのでしょう。給与係のちょっとしたミスによりちょっとの間だけ、そういった支払いをしていた場合には、就業規則どおり支払えばいいことになります。しかし、これが長期間続いていた場合は、どうでしょう。

 就業規則をあまり見ていないと、就業規則に定めているものより労働者側にとって都合の良いルールが行われて、会社内でいつの間にか定着していることがあります。こんな労働条件やルールが会社と従業員の間で当然のことと受け入れられているのを「労使慣行」といいます。労使慣行が成立するのは、①そういった事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと ②労使双方が明示的にこれを排除・排斥をしていないこと ③この労使慣行が労働条件にその決定権限を持つ労使双方の模範意識によって支えられていること この3つを満足した場合に初めて成立するこことされています。結構、厳格な成立要素が必要です。
 よくある労使慣行例  ・長期間に渡り、当たり前のように賞与を〇か月分支給
            ・遅刻しても賃金から控除していない。
            ・休憩時間を就業規則より多くとっている。
            ・就業規則で定年を定めているのに、定年年齢を超えても再雇用ではなく、
             今までどおり働く続けている。
 (以上の例は、労働基準法・労働契約法実務ハンドブック セルバ出版 人事労務編著 より)

 この労使慣行として成立している場合は、就業規則と違っていても、簡単にこの労使慣行を破棄することはできません。就業規則によりこれを変更する場合は、その変更の必要性や合理性などの就業規則を変更する場合と同様の考え方と労働者にそれを周知をしなければ、破棄できないことになります。(契約法9・10条)

 ただし、労働者との合意により労働契約は変更できることになっています。ゆえに、就業規則の変更ではなくて、個々の労働者と協議・同意を得るという「個々の労働者の合意」により契約の変更は可能なことから、使用者と個々の労働者との合意により労使慣行は破棄できることになると考えます。(契約法8条)

 なお、ここまで書いて何なんですが、就業規則に抵触する労使慣行が成立する可能性は、就業規則が労使のルールとして明文化されていることの重要性に対して、不文の形での労使協定成立を認めるどうかという点から、判例は慎重な態度を取っていることを付け加えます。
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