元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

本人への直接払の原則により賃金債権譲渡が有効になされても譲受人には支払うことができず!!

2016-10-29 18:28:10 | 社会保険労務士
 賃金の直接払の原則には例外なし=弁護士等に委任されていてもダメ

 労基法24条は、直接労働者に賃金を支払うことを義務付けており(直接払の原則)、違反した使用者には30万円以下の罰則が科されている。このような原則があるのは、賃金が第三者の手を介して支払われることになると、途中で中間搾取される恐れが生じるからです。そのため、労働者が未成年者である場合に、その親権者や後見人等の法定代理人さえも賃金を代理で受領できないことになっています。(「未成年者は、独立して賃金を請求できる」との別規定があり、ここでさらに「親権者又は後見人は、未成年の賃金を代わって受け取ってはならない」との確認規定があります。労基法59条)

 これは、弁護士も同様で、たとえ代理受領が弁護士さんに委任されていてもダメなものはダメ(社労士試験問題として出題済み)ですので、雇用主はここで弁護士さんに支払うと罰則が科されますので要注意です。もちろん、弁護士でない第三者や近親者であっても、いくら代理人としての証明書をそろえてもだめです。ただし、例えば本人が病気で奥さんが本人と同一視することができる「使者」として、単に給料を受け取りに来ただけというような場合は、その支払いは可能です。(しかし、最近は給料振込みになっていますので、本人の口座に振りこみをするというのが一般的なケースで、この場合は問題となるようなことはないと思われます。)

 いずれにしても、賃金は直接支払うことを義務付けており、代理人には支払うことはできないことになっています。

 では、賃金債権を譲渡した場合はどうでしょうか。一般に民法で債権の譲渡は認められており(民法466条1項)、賃金債権についても同様に譲渡は認めれているはずです。そこで労働者が賃金債権を第三者に譲渡した場合には、その譲り渡された譲受人が賃金債権を有していることになりますので、民法上は譲受人に支払わなければならないことになります。しかし、労基法は本人に直接支払わなければならないとしておりますので、賃金支払人である雇用主は困ってしまいます。

 しかし、日常的に、そもそも、賃金債権を譲り渡すというようなことが一般的に起こり得るでしょうか。月の給料のようなものでは普通には起こりにくいかも知れませんが、次のような裁判事案がありました。
 労働者が退職手当の一部の「賃金債権」を酩酊中に暴行した弁償金として第三者に譲渡して、その旨の通知が(民法467条)雇用主になされて完全に譲渡の手続きを終えた場合でも、雇用主はその第三者にその退職手当を支払うことができないのかという事案です。
 
 この場合は、考え方としては、賃金債権としては、労基法が特別法になりますので、労基法の規定が優先するというのが本来の考え方でしょう。裁判でも、この考え方に沿って、賃金債権の譲渡自体は有効であるが、雇用主が譲受人に支払うことは直接払いの原則に反することになるので、違法かつ無効として、譲受人は雇用主に支払いを求めることはできないとされました。(電電公社小倉電話局事件・最判昭和43年3月12日)これは、国家公務員の退職手当の例ですが、同じ頃続けて、民間の退職金でも同様の判決が出たのです。(住友化学工業事件 最判昭43年5月28日) この場合、退職手当の例になっていますが、「賃金」の直接払いの原則は、退職手当はもちろん、月払いの給料や年俸、日給においても「賃金」であることには変わりなく、これら「賃金」である限り適用になります。

 債権譲渡という形ではなく、労働者が賃金から自分の債務の弁済として、第三者に対しての支払いを雇用主に委任した場合(債務弁済委任)でも、直接労働者に支払うことにはならないので、直接払の原則に違反します。

 直接払いの原則は、いかなる例外も認められてはいないのです。
 
 しかし菅野著労働法では、これらの債権譲渡や債務弁済委任に基づく退職手当の第三者への支払いは、労働者の過半数を組織する組合又は過半数を代表する者との協定において賃金の一部として明示されれば、全額払の原則の例外として、協定に基づく控除の一種として、適法と認めるべきであるとしています。(菅野著労働法、大内著労働法実務講義も同旨=賃金債権について)

 なお、民事執行法の手続きにより、生活費等として賃金の一定の額は差し押さえてはならないとされているが、この一定額を除き同法により賃金が差し押さえられたものついては、この直接払の原則に違反しないので、差し押さえられた賃金については、差押え債権者に支払わなければならないとされます。国税・地方税についても同様である。
 
 参考 労働法11版 菅野著 弘文堂 P434
    労働紛争解決実務講義第3版 河本毅著 日本法令 P64     
    労働法実務講義第3版 大内伸哉著 日本法令 P302~303
    労働法第2版 林弘子 法律文化社 P68
 
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違う事業主の下で働いたら時間外労働(割増賃金)はどうなるのか??<古くて新しい問題!!>

2016-10-22 17:56:46 | 社会保険労務士
 事業所を異にする場合は、事業主を同じくする場合のみならず違う事業主でも労働時間は通算する!!<通達等による> 

 特にパートタイマーの場合、2つの事業所を掛け持ちで働くことも多い。例えば、一日にA事業所で5時間働き、次にB事業所で5時間働くとする。この場合は、法定労働時間は1日8時間となっているので、8時間を超える2時間については、時間外として割増賃金を払わなくてはならないことになるのか。

 労基法38条1項は「労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」となっている。確かに、事業所を異にしていても、労働時間は通算しなくてはならず、8時間超については時間外賃金を払わなくてはならないのである。そしてここからであるが、通達は、「事業主を異にする場合を含む」とされ、同じ事業主のみならず、別の事業主の下で事業所を異にする場合も含むとされているのである。(昭和23.5.14基発769号、行政実例あり、通達等は一貫して初めからこの考え方である。)従って、A事業所とB事業所の事業主が違っても、労働時間は合計して計算しなければならないことになる。この場合に、割増賃金は、A事業主、B事業主のどちらが払うのか。法定時間に使用した事業主が、割増賃金は払うとされているので、一日のうち後で働かせるB事業主になる。(昭和23.10.14基収2117号)結局、設例の答えは、B事業主が2時間分の残業代について、割増賃金を支払わなければならないことになる。

 法的にはそういうことになろうが、現実に戻って考えたらどうだろうか。現実には、労働時間算定に当たって、雇用主が違った場合は、それを通算することは、次のように相当困難と思われる。
 労働者は、B事業所で働かないといけないとしたら、B事業所には、A事業所で4時間働いていることは告げないのが普通ではないだろうか。B事業所は割増賃金を支払わなければならないのだし、そういう人をあえて採用するとは思えないから、労働者はB事業所にはだまっていることになるのではないか。B事業所としては、法上の割増賃金支払の話を知らなかったとしても、複数働いていることは、秘密保持等からいってもマイナスに働くことはありうることで、労働者としては、採用の段階では、いずれにしても雇用主にあまり積極的に言いたくないところであろう。割増賃金をBから支給されることよりは、採用段階ではそのことよりは、まずは採用されることが先であろう。かくて、B事業所は、労働者の方から言いださない限り、割増賃金なしの賃金を支払うことになることが多いと思われる。

 しかし、この労基法38条1項の条文を見る限り、同じ雇用主の下での通算だけなのか、それとも違う事業主の下での通算を含むのかついては、どちらにも取れるところである。菅野著労働法には次のような主旨のことが書かれている。労基法は、それぞれ事業所単位の適用を原則としている関係から、38条の規定では、同じ労働者であれば事業所が違っても通算しますよという確認規定であると解釈してもよかったとしている。そう解釈すれば、この規定は同じ雇用主の場合の通算規定であって、違う雇用主の基での通算はないということになる。さらに、行政解釈としても、使用者が当該労働者の別使用者の事業場における労働を知らない場合には、労働時間の通算による法違反は故意がないために不成立になるとしている。(菅野著労働法第11版P464)

 <ここからは蛇足である。通算の問題点と起こり得る現実として> 違う雇用主で後ろの雇用主が割増賃金を支払わなければならないとすれば、後ろの雇用主はその労働者の採用自体を拒否する可能性が強く、労働者を超過労働から保護するということからすると意味はあるが、時間外労働を制限するためという割増賃金の制度としては、全く働かせないのではB事業所にとり意味はないことになる。それでは、労働者としても、あと少しだけでも働きたいという希望には添えないことになるし、また、後ろの事業主が割増賃金を払わなければならないとすると、前の雇用主との不公平感が私にはどうしてもぬぐえない。

 通達に反し解釈として、違う雇用主では労働時間を通算せず(ゆえに割増賃金は設例では発生しない)、また、具体的には雇用主間の情報の共有がなされず通算が困難ということになれば、現在では使用者に対して、時間外労働の制限を割増賃金によりセーブしていることから考えると、ある意味全く超過労働の制限がなくなることになり、長時間労働による過労死等に発展する可能性がある。労働者が自分で労働時間を制限管理しなければ、基本的にこの問題が起きることになるが、働きたい労働者にとっては、そこを本人自身の自己管理責任に帰すのは困難であろう。「多様な働き方」を推進していく中で、パートの掛け持ちのみならず正職員の兼業・副職等労働時間の算定の問題は当然出てくる話であり、政府(国会か)として、ここは是非とも立法論として解決していただきたいところである。

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有期労働契約での途中解約は「やむを得ない」場合にしか認められない<労働者の過失は損害賠償も!!>

2016-10-15 18:09:31 | 社会保険労務士
 ただし労働契約期間が1年を経過すれば自由にいつでも労働契約の解約が可能!

 使用者からの労働契約の解除については、これを「解雇」と呼び、容易に解約はできないようになっている。というのも、多くの労働者にとっては、賃金は生活の糧であり、それがなくなれば、明日からの収入が保障されないからである。

 これに対して、労働者からの一方的な解約すなわち退職とか辞職と呼ばれるものであるが、労働者からの2週間の予告によっていつでも解約<*注1>ができることになっている。(民法627条1項) しかし、これは、「期間の定めのない雇用契約」の場合が前提となっている。少なくとも期間の定めのない契約であって、一応と言うのもおかしいが、期限なしで働く場合を想定している。すなわち、有期雇用でないことが前提となっている。

 有期雇用契約の場合は、「雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、・・・直ちに契約の解除をすることができる。」(民法628条前段)とされ、「やむを得ない事由」があれば、契約の途中であっても、即座に契約を解約することが可能なのである。しつこいようであるが、あくまでも、契約の途中であるから、お互い契約を続けることが原則なのであって、途中の即座の契約解約については、やむを得ない事由があるということが前提となっているのである。

 というのも、労働者がやめる理由が、正当な理由なく、労働者の過失によって生じたものであるときは、使用者に対し損害賠償の責任を負うとされているからである。(民法628条後段) そこで、たとえアルバイトであっても、この条文からいうと、労働者の過失によって、期間途中でやめる場合には、損害賠償を請求される可能性があるのである。

 いいや、かってに辞めたけどそんなことはなかったという方がいるかもしれないけど、会社側は損害賠償請求よりは次の雇用をどうするかということに頭を悩ますことで手一杯であり、損害賠償をする余裕がないというか、辞めて行った者へ請求しても労力の損といった諦めの心境というのが実情でしょう。労働契約の建前からいうと、ちゃんと契約期間の間は働くというのが社会のルールということであり、労働者としても契約期間の途中で辞めるのは、やむを得ない場合にのみ解約はゆるされているということでしょう。<*注2>

 損害賠償請求事案としては派遣労働者の場合ですが、「派遣元と有期労働契約を締結している派遣労働者が一斉に中途辞職をして、別企業の派遣労働者として引き継き同じ派遣先で勤務を継続していたという事案で、派遣労働者は民法の「やむを得ない事由」を立証できていないとして、派遣元から派遣労働者への損害賠償請求を認めた裁判例」がありますが、これは労働者もちょっと少なくとも良心的とはいえない事案かもしれません。(エイジェック事件・東京地判平成24年11月29日労判1065号93ページ)<「 」書きは、労働法実務講義第3版・大内著P527より> 
 
 ただし、有期労働契約の契約期間は、基本的には最大で3年まで許されていないところ(労基法14条)<*注3>であるが、契約期間が1年を経過した時点から、いつでも自由に解約できることになっている。一年を経過した労働契約は、全く「やむを得ない事由」があるなしにかかわらず、自由に解約できることになっているのである。(労基法137条)

 ところで、前どこかで述べたように、労働基準法の条文だけからは、全体の流れがわかりにくく、民法とのつながりがあって初めて全体の展開がはっきりする。今回の場合は、民法の「已む得ない事由があるときは即座に解約」から始まって、労基法の「労働契約の3年制限」を経て「1年経過でいつでも解約」できるという流れであって、民法から労基法への展開である。
 
 参考 労働法<第2版> 林弘子著 法律文化社






*注1 ただし、完全月給制の場合は、2週間の予告より長くなり、月の前半に退職を申し出た場合は当月末に、月の後半に申し出た場合には、翌月末に退職が成立する。(民法627条2項)
*注2 では、「やむ得ない事由」がないときはどうしたらいいのか。トラブルなしに辞めるためには、一方的に辞めるのではなく、合意解約をお勧めする。
*注3 ただし、例外的に5年まで認められている契約(専門的な知識・技術・経験等を有する労働者や満60歳以上の労働者との契約)や一定の事業の完了に必要な期間を定める契約は、この1年経過からは外されている、適用しないとされている。(1年経過しても自由に契約解約はできない)
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未成年労働契約は労基法と民法のつながりで理解<未成年者による法定代理人同意の契約のみ認める>

2016-10-07 17:38:59 | 社会保険労務士
 未成年者の労働契約は、不利と認められる場合は、親権者等によって解約可能!!

労働基準法の条文を勉強していても、全体の流れが分かりにくいことがある。民法とのつながりがあって初めて全体の展開がはっきりするものがある。未成年者の労働契約においては、特にそうである。以下に順を追って説明したい。

 一般には、父母等の親権者や後見人という法定代理人にあっては、未成年者本人に代わって、当然のごとく契約を締結できるが、労働契約だけにあっては、(1)労基法58条1項において、これら親権者や後見人(=法定代理人)が、未成年者に代わり契約を結ぶことは禁じられている。
 
 一般的な契約にあっては、未成年者にとって、法定代理人(親権者・後見人)が契約を締結することはありがたいこととなるが、これが労働契約で禁じられているのは、親等が子を食いものとすることがないとは限らないからである。

 では、法定代理人の代理が認められないとすると、あと残された締結方法は、未成年者本人が労働契約を締結することになる。労働基準法で法定代理人が労働契約を締結するのはダメというのであれば、未成年者本人が契約締結すれば、そのまますんなり認められるかというとそうではない。

 ここで(2)民法の5条1項の規定が出てきて、未成年者が契約を結ぶときには、その法定代理人(親権者・後見人)の同意を得なければならないことになっているのである。「契約」を結ぶときはとあるように、「労働契約」だけではなくて、家主と賃貸契約を結ぶとか、ありとあらゆる契約一般である。契約一般について、法定代理人の同意を得なければならないことになる。しつこいようであるが、労働契約においても、法定代理人(親権者・後見人)の同意を得なければならないことになる。未成年者の意思だけでは、完全な契約はできないということである。
 そこで、未成年者が法定代理人(親権者・後見人)の同意を得ないでした契約は、完全な契約ではないので、(3)民法5条2項の規定があり、未成年者本人または法定代理人(親権者・後見人)によって取り消すことができる。

 これが未成年者の労働契約の全体展開ということになる。しかし、これだけではない。(4)労働基準法58条2項の規定である。
 「親権者もしくは後見人または労働基準監督署は、未成年者が使用者と締結した労働契約が、未成年者に不利と認められる場合においては、将来に向かって解約することができる」とある。

 ここでは、解約権を持つ者として、労働基準監督署という登場人物がもう一人出てくる。親権者・後見人にあっては、すでに契約締結のときに、契約の内容に同意した者であるはずではあるが、実際に具体的に動かしてみて労働契約の内容が未成年者に不利な内容であると分かったときには、その時点で将来に向かって解約できることになる。労働契約においては、未成年者にとっては、2重に保護されていることになる。

 参考;労働法(第2版) 林弘子 法律文化社
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労働者退職の申し入れは2週間経過により解約となるがその2か月前に申し入れさせたい??

2016-10-01 17:52:38 | 社会保険労務士
 2週間経過解約は強行規定ですので、就業規則に努力義務としての定めを!!

 使用者が行う「解雇」については、労働基準法上、30日前の解雇予告が義務付けられています。一方、労働者の退職については、労働基準法では何も規定されていませんので、民法の一般原則にかえって見ると、期間の定めのない契約については、いつでも解約の申しれが可能で、解約の効果は申し入れ後2週間経過することによって生じるとされています。(民法627条1項) 
 
(ただし、欠勤によって給料が差し引かれない完全月給の場合は、給与の計算期間の前半において、次の期以後に解約することについて、当該解約の申し入れができるとなっていますので、さらにちょっと長めの期間の余裕をもって申し出ることが必要です。以下の設定においては、申し入れは、使用者の就業規則をどうするかということですので、短めの期間2週間が経過すれば、月給者の場合も労働契約は終了するということで、労働者に有利な契約で一応設定します。)

 そこで、一般的な就業規則においては、次のように、2週間の申し入れ期間を置くのが一般的です。
 ◎ 従業員が次の何れかに該当するときは、退職とする。
 (1) 本人の都合により退職を願い出て会社の承認のあったとき、または、退職願の提出後14日を経過したとき
 (2)・・・・・・
   前段は、合意解約の規定、 後段が2週間の申し入れ期間をおいた規定です。

 しかし、これでは、ほとんどの会社においては、後任者の補充も間に合わず、また、事務の引継ぎ等では何もする余裕がないというのが実情でしょう。少なくても1か月、会社によっては2か月の期間が必要というところもあるでしょう。特に何かトラブル等があって退職するのであれば、労働者にとって事務の引継ぎなんてなんのそのでしょう。

 そこで、従業員が退職するときに「少なくとも30日前に届け出」を必要とするとした場合はどうでしょう。民法627条1項の規定する「労働者の解約権」は、長期の契約の拘束を排除して、退職の自由を確保する強行規定であると考えられていますので(平和運送事件、大阪地判昭58.11.22)、30日前の届け出の就業規則の規定は無効となり、届け出2週間の経過により退職は認められてしまいます。それでも、従業員に余裕をもって届け出をするように、あえてこの規定を就業規則に載せておくという会社もあるかもしれません。あえて、その方法を取るのでしたら、何もいいませんが、少なくとも今はインターネットを見れば、「2週間経過すれば退職は可能」というような記事がみられますので、従業員からそれを言われたら、会社側としては反論はできないところです。

 そこで、義務としての定めではなく、努力義務として定めるのです。
 例1
  ◎原則として2か月前までに申し出るようにしなければならない。ただし、やむを得ない事情がある場合は2週間前までに申し出ることができる。(労働基準法の実務相談、社労士連合会)
 例2
  ◎従業員が自己の都合により退職しようとするときは、原則として1か月前、少なくとも2週間前までに所属長に退職願を提出しなければならない。
   (就業規則モデル条文 中山慈夫著)
 例3
  ◎北村庄吾・桑原和弘共著の「就業規則」においては、長文になるので直接の引用はしないが、強制であることをうまく避けた規定になっている。
   ● 退職希望日の2か月前までに退職の予告、30日前までに退職届け出の提出を行えば会社の承諾により合意解約、30日後であっても事情により同合意解約の措置(労働者からのの一方的な解約ではなく合意解約の形になっている点に注意)、退職の日までは業務上の会社からの指示に従い引継ぎ等での退職日前2週間は現実に就労を義務づけ、これに違反した場合は退職金の減額があることをうたっている。(詳しくは、「御社の「就業規則」ここが問題です!北村庄吾・桑原和弘共著、実務教育出版)

 いずれにしても、ここでは強制的に書くのではなくて、1・2か月前はあくまでもお願いなのです。使用者としては、業務に支障を生じないように早めの申し入れを行うよう「勧奨」しましょう。しかし、労働者にとっても、事務の引継ぎ等退職に伴い「日常業務以外に行うべき業務」についても、労働契約がまだ活きている限り、会社の指示に従って行うべき信義則上の義務があることを忘れてはなりません。お互いの協力を得て円滑に最後の業務を終了するのが原則です。

 参考・一部引用 労働基準法の実務相談、社労士連合会
         就業規則モデル条文(第2版) 中山慈夫著 日本経団連出版
         労働法実務講義(第3版)   大内伸哉著 日本法令  P526
         「御社の「就業規則」ここが問題です! 北村庄吾・桑原和弘共著、実務教育出版 p55
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