元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

従業員は退職後も秘密保持義務を有しなければならないか??

2016-05-28 17:52:18 | 社会保険労務士
 退職時労使の合意による特約によって秘密保持義務を有するとするのが良いと考える!!

 会社において、在職中の秘密保持義務は、労働契約において、特段の合意がない場合であっても、労働契約を締結しているかぎりで信義則上の義務として、認められます。ただ、公務員のように法律上明示されてはいないので、就業規則上、どのようなことを秘密保持とするか具体的に定めるべきでしょう。

 さて、今回のテーマは、退職してからも秘密保持義務があるかどうかです。公務員の場合は、退職後も同様とするとしていますので、秘密保持義務があることは明らかですが、民間の場合は、労働契約が終了するわけですから、そのまま終了することになるというのが普通の考え方です。確かに、秘密保持義務については、労働契約が終了しても信義則上存続するという考え方もあるにはありますが、労働者と会社の間で、退職時に秘密保持に関する特別の合意をすることにより初めて、秘密保持義務が労働契約後も存続するいう見解を取っていた方が無難です。ここでは、秘密保持義務は労働者の自由を制約する可能性のある事項となるので、退職後も秘密保持義務が存続することを契約文書で明確に定め、それを労働者・使用者が合意することによって、労働者に秘密保持義務があるという特約を成立(誓約書等)させておくべきです。このような特約の有効性は、「その秘密の性質・範囲、価値、労働者の退職前の地位に照らし、合理性が認められるときは、公序良俗に反」せずに有効であるとされます。(ダイオーズサービシーズ事件・東京地判平成14年8月30日)

 問題は就業規則において、退職後の秘密保持義務を定めた場合に、これが労働者を拘束するかです。就業規則は労働契約の内容を規律するものであり、先の考え方により退職によって労働契約が終了するという考えからは、退職後をも秘密保持義務が存続すると考えるのは困難です。したがって、退職後の権利義務関係については、就業規則とは区別された、先の特約による個別の合意によるべきです。

 ただ、就業規則において、退職後も同様に労働者に秘密保持義務があることを記載してはいけないということではありません。労働契約法(第7条・第10条)でいう「労働条件」には退職後のものも含むという考え方もありますし、労働者に対して拘束力はなくともモラルとして守るべしとの要請にはなるはずですので、就業規則上「退職後も同様とする」などの1条項は入れておいた方が良いと考えられます。また、突然、労働者にとって退職の時に特約を結べといわれても困るということになりますので、その旨の記載を就業規則に乗せておくことにより、在職中からの一つの布石となるはずです。

 この特約による秘密保持義務に違反することになると、会社は労働者に対し、債務不履行(民法415条)又は不法行為(民法709条)を理由に損害賠償することができます。また、秘密保持義務それ自体の履行も請求することも出来ますので、場合によっては差し止めを請求することも可能です。
 
 特約の例<秘密保持に関する誓約書>としては、「懲戒権行使の法律実務」(石嵜信憲編 中央経済社)の参考資料<その一部=一般職について>から、引用されていただきます。

<退職時 一般職>             秘密保持に関する誓約書
 私は、平成〇年〇月〇日付にて、一身上の都合により、貴社を退社しますが、貴社企業秘密に関して、下記の事項を順守することを誓約します。
(秘密保持の確認)
第1条 私は貴社を退職するにあたり、次に示される貴社の企業秘密に関する資料一切について、原本はもちろん、そのコピー及び関係資料等を、貴社に返還し、自ら保有しないことを確認します。
 1 略
 2 略
 3 略
 ・・・
 ・・・ 
(退職後の秘密保持の誓約)
第2条 前号各号の企業秘密を、貴社退社後においても、不正に開示又は不正に使用しないことを約束します。
(企業秘密の帰属)
第3条 第1条各号の企業秘密は貴社に帰属することを確認します。また当該企業秘密に関し私に帰属する一切の権利を貴社に譲渡し、貴社に対し当該秘密が私に属している旨の主張を行いません。
(損害賠償)
第4条 前2条に違反して、第1条各号の企業秘密を不正に開示又は不正に使用した場合、法的な責任を負担するものであることを確認し、これにより貴社が被った一切の被害を賠償することを約束します。
(退職金の減額・没収)
第5条 本契約の違反行為が存する場合には、貴社の損害を賠償するほか、本来有する退職金の半額につき受給資格を有しないことを認めます。また、退職金が既に支払われている場合には、支払われた退職金の半額を貴社に対し返還します。
2 前項に加えて、貴社の定める懲戒解雇に事由がある場合は、貴社の損害を賠償するほか、本来有する退職金の全額につき受給資格を有しないことを認めます。また、退職金が既に支払われている場合には、支払われた退職金の全額を貴社に対し返還します。
                                                          以上
 平成 年 月 日
 株式会社
 代表取締役社長殿                                    住所
                                             氏名            印

 参考 労働法実務講義 大内伸哉著 日本法令
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

辞職は自由だが完全月給制は翌月につき当月の前半に、年俸は3か月、これ以外は2週間の予告必要!

2016-05-21 16:25:58 | 社会保険労務士
 労働者からの労働契約解約は民法627条の規定によるが、完全月給制・年俸を除いて予告期間2週間なのに留意

 労働者が辞任するときは、原則民法627条1項の規定により、辞任の申し入れから2週間経過すると、辞めることができる(=労働契約は終了する。)と一般にいわれているが、これには、2・3項の規定の例外があり、完全月給制と年俸の場合は、この予告期間が違っていることに留意しなければならない。

初めから説明します。労働契約の解約については、使用者が一方的な意思表示による解約を行う場合はいわゆる「解雇」とよばれ、民法の特例法である労働基準法による規制があって、この場合、使用者が労働者を解雇する場合については、30日前に予告を行うか、30日分の平均賃金を支払わなければならないとされています。

 これに対し、労働者が一方的な意思表示による解約を行うに当たっては、これをいわゆる「辞職」と呼び、これは労働基準法には規定はありませんので、民法の一般規定に戻ることになります。民法627条1項の規定<*後記>を見ると、有期労働契約でない、ずーと雇ってもらえるような期間の定めのない契約を前提としていますが、この場合においては、「いつでも」=理由を要せずに、契約を解約できるとあります。ただ、2週間の予告期間が必要となっています。使用者の解雇は労基法によって、30日の予告期間等が必要なのに対し、労働者が辞める場合には、これより短く、民法の原則に戻って2週間の予告期間でいい事になっています。また、この予告期間については「この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。」となっており、解約申し日から2週間を経過すると、労働契約は期間経過によって必ず終了することになります。

 ただし、同627条2項には、「期間によって報酬を定めた場合」の規定があり、労働基準法によって賃金の支払いは、少なくとも1か月ごとには支払わなければならないので、この「期間によって報酬を定めた場合」とは一般的には月給制の支払いのことを言っているとよいともさしつかえないと思われます。ただ、「期間によって報酬を定めた場合」といっていますので、単に月給制であればよいということではなく、いわゆる「日給月給」=遅刻や欠勤によって月給の額が控除されるようなものは含めません。ここでは完全な月給制を指します。この完全なる月給制の場合は、解約は「翌月以降に対してのみ行うことができるのであって、しかも当月の前半においてその予告をしなければならない」となっています。例を挙げると、毎月末日締めの翌月5日払いの場合、現在平成28年5月1日であるとすると、平成28年5月15日(登記の前半)まで使用者に対し、労働契約の解約申し入れを行うことによって、平成28年5月末日をもって労働契約は終了することになります。

 また、同627条3項には、「6か月以上の期間によって報酬を定めた場合」とあり、これは「6か月以上」とありますが、一般的に考えられるのは、年での報酬を定める「年俸」が該当するところです。この場合には「解約の申し入れは、3か月前にしなければならない」とされているところであって、1年間の年俸制の労働契約を締結した場合には、退職予定日の3か月前までに申し入れを行う必要があるということです。

 まとめると、労働者の辞職は、予告期間を置かなければなりませんが、いつでも制限なく可能であって、ただ、予告期間は、給料の支払い期間によって、予告期間の長さが違い、完全月給制の場合は「解約は翌月以降に対して、しかも当月の前半に予告」するということであり、年俸制の場合は、「解約申し入れを3か月前まで」、それ以外のものについて、はじめて「解約申し入れを2週間前まで」にしなければならないとされているわけです。

 ところで、実際には、事務の引継ぎなど普通は一か月以上を要し、一般的には、2週間の予告期間をもって辞められては使用者は困ることになりますので、就業規則等で1か月の予告期間が規定されているところが多いようです。このような規定が有効かどうかは民法627条が強行規定であるかにかかってきますが、少なくとも、就業規則の規定による場合は、退職の自由の保障という観点から、「合理性」がなく、就業規則に「拘束力がない」と考えられます。(労働契約法7条) ただし、退職に伴い必要となる引き継ぎ等の業務について、企業の指示に従って行う「信義則上の義務」はあるところですが、引継ぎが終わらないからといっても、退職時の延長を強制することはできまいということになります。そこで、この予告期間については、予告期間の拘束力うんぬんではなく、早めの申し出を行うように、労使双方がお互いにうまくやっていかざるを得ないというのが現状でしょう。

 今まで説明してきたものは、一方的に解約を行う場合であって、両方の意思が合致する「合意解約」の場合には、当事者の解約の意思表示がとにかく合えばよいので、この予告期間の概念そのものはありません。

 なお、議論の前提が期間の定めのない労働契約でしたが、期間の定めのある有期労働契約の場合には、その労働契約期間中は、労働者にも「止むを得ない事由」がある場合にしか解約を認めていませんので、注意が必要です。(民法628条)

  <民法条文627条>
627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、時期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3か月前にしなければならない。

参考 労働法     菅野和夫著
   労働法実務講義 大内伸哉著 日本法令
   民法講義録   新井誠 岡伸浩編著 日本評論社
    
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

懲戒でなく業務命令による出勤停止・自宅待機・休業(≠休職)はありうる!!

2016-05-13 18:28:20 | 社会保険労務士
  就業規則上記載がなくても「出勤停止・自宅待機・休業」ができる場合があります!!
ただし、使用者に実質的な理由がない限り、賃金の支払いは免れない!!

 休職とか自宅謹慎といえば、休職処分であるが、同じような措置であっても、単なる業務命令による出勤停止・自宅待機・休業の措置があります。

 これを説明する前に、「懲戒」について、概要をおさらいします。会社の中の懲戒処分は、その企業における秩序をみだした(企業秩序違反行為)者に対する特別の制裁措置であるから、国家の法秩序としての刑法と同じように、罪刑法定主義に類する原則が妥当します。そこで、就業規則上、どんな場合に懲戒できるかといった懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が明示されていなければなりません。

 就業規則に記載される懲戒処分は、一般的には、けん責・戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇などがあり、大体において、懲戒の程度としては、けん責・戒告が軽く、懲戒解雇は職がなくなることからもっとも重いものとされています。このうち、出勤停止については、いわゆる「自宅謹慎」とか「懲戒休職」と呼ばれるものです。この出勤停止・自宅謹慎・懲戒休職については、再度繰り返しますが、これは懲戒処分ですので、就業規則の上に記載されて、どの程度の行為等を行えば、この処分を受けるかが記載されていなければなりません。

 ところが、全く就業規則に記載されてなくても、出勤停止・自宅待機等ができる場合があります。これは、どういう場合かというと、解雇や懲戒解雇をするかどうかという時に、その調査や審議決定するまでの期間について、就業を禁止する出勤停止や、また企業が従業員を出社させるのは不適当というときに行われる出勤停止・自宅待機・休業の措置があります。これは、懲戒処分の範疇ではなく、単なる業務命令によって行うものです。

 どういうことかというと、労働契約が締結されていますので、労働者は労務の提供を行い、使用者は賃金を支払うのが原則です。しかし、使用者は、賃金を支払っていれば、提供された労働力を実際に使用するかは自由であって、その労働力の受領の義務はないとされております。すなわち、労働者に労働の義務はあるものの、必ずしも使用者は、その労働を受領する義務はなく、逆に労働者からいえば、労働者に労働の義務はあるが、労働する権利まではないというのが一般的な考え方です。(これを労働者には「就労請求権」はないと言います。)

 整理すると、使用者は、賃金を払っている限りにおいて、使用者の責任を果たしているといってよく、就業規則にこの出勤停止・自宅待機・休業の措置の規定の根拠はなくても、業務命令によって、その労働を受領しない自由があるということができます。ただし、業務命令の濫用とされないためには、それ相応の事由が存在することが必要です。
 
 それでは、もうひとつ疑問がでてきます。労働していないから、ノーワークノーペイの原則によって、賃金を支払わなくてもいいのではないかということです。これについては、「使用者の責めに帰すべき事由によって、労働することができなくなったときは、労働者は、賃金を受ける権利をうける権利を失わない」(民536→債権者=使用者、債務者=労働者、反対給付=賃金として、読み替えをしています。)とされていますので、使用者が労働を拒絶した限りは、使用者の責任が問われることになり、賃金支払いは免れません。
 (ただし、その労働者の就労を受け入れないことについて、使用者に、事故発生、不正行為の再発の恐れなどの実質的な理由が認められる場合は、この限りではないと考えられます。)

 したがって、使用者は、労働契約の履行を前提に、賃金支払いをしながら、一方で労働の受け取りを拒絶するという、すなわち業務命令による出勤停止・自宅待機・休業の措置が可能というわけです。

 *ことばとしては、懲戒は、自宅謹慎、休職という用語であって、業務命令は、自宅待機、休業という用語を使用しているのに、留意。

 参考:労働法 菅野和夫著 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

派遣労働者に対して派遣先は契約期間中に就業場所の変更をかってにはできない!!

2016-05-07 18:31:14 | 社会保険労務士
 出張や訪問販売が主体の業務の場合は、就業場所の変更(派遣契約違反)といえるのか

 かって、私が病院の医事係長だった頃、医事業務のコンピューター化を行うということで、その入力作業人員が足りないということになり、派遣法による派遣職員を派遣してもらいました。「もらいました」と表現は、人事担当の総務課が派遣法の手続きをした上、当時は労働者派遣法が出来たばっかりの時代で、自分は業務に忙しく、派遣職員がどういうものかわからずに(勉強しなかった言い訳ですが・・・)、その派遣された職員を使用するという事態になったのです。

 確かに、派遣法の本質は、雇用と指揮命令の分離であり、派遣された部署で、派遣職員が派遣された担当係である医事係長の業務命令に従っている間は、派遣法の範囲であり、今考えてみても、特段問題はなかったようです。

 今思えば、派遣法も知らず、まさに冷汗ものです。私、医事係長本人は、全く病院の職員と同様に、働いてもらっていましたが、それは派遣された職場内でのことで、総務課の職員にとっては、法的手続き等違ったものになっていたのでしょう。

 病院の職員と同様に働いてもらうといいましたが、指揮命令は、派遣先に属しますから、問題ないのですが、それ以外のものになると話は別です。

 例えば、病院の一般職員は、就業規則に就業場所の変更有との一行があれば、簡単に配置転換ができますが、派遣職員は派遣元の職員であって、病院の一般職員と同様に簡単には異動させることは、例え仕事の内容は同じであっても、できません。はじめから整理すると、派遣職員は、派遣元の職員であり、その派遣職員は派遣元と派遣先である病院の派遣契約によって派遣されているところであり、その派遣契約の締結に際し、次のような事項を定めるとされています。(派遣法26条)
 
 <派遣に関して>業務の内容、事業所の名称、所在地、派遣就業の場所、直接指揮命令する者に関する事、就業の開始・終業の時刻・休憩時間、苦情処理に関する事など
 
 そうです、派遣の際の派遣契約で就業の場所は決まっているわけですし、かってに派遣先である病院の都合で変更することはできないことになります。さらに、派遣元としては、この派遣契約で決まった事項について、派遣労働者に対して、派遣する際に、明示しなければなりません。(派遣法34条)その中に、当然、就業の場所も含まれています。

 さらに、派遣先が派遣契約を変更することなしに、就業場所を変更することは、派遣契約違反となり、派遣元は合法的に解約できることになっています。(派遣法28条)
 
 では派遣先である病院側はどうすればいいのかですが、就業場所の変更について、派遣元との合意により派遣契約を変更した上で、派遣元から派遣労働者に伝えて、異動してもらうことになります。

 それでは、派遣労働者に出張してもらうとか、派遣業務の内容が訪問販売などの場合は、就業場所の変更になり、派遣契約の違反となるのでしょうか。出張や訪問販売が派遣業務の範囲に含まれていることを明示すれば、行ってもらう業務の中に付随するものと考えられますので、可能であると考えられます。そこで、派遣契約の中に、業務の内容として含まれることを、明確に記しておけば良いことになります。


 参考 「最新版 改正労働者派遣法がわかる本」 大槻哲也監修 著者加藤利明 発行所成実堂出版 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする