元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

解雇の意思表示は相手に到達してはじめてその効果を生じるが、行方不明に対しては?

2013-06-22 17:50:55 | 社会保険労務士
就業規則の中で、退職事由に「行方不明で1か月以上連絡が取れない場合」を定めれば・・・
 

 民法上、契約の申し込みや撤回等の意思表示は、相手に到達してはじめてその効果を生じることになっていますが、これを、「到達主義」といいます。(民法97条、隔地者に対する意思表示) これに対して、例えば、消費者を保護している諸法律で規定する、いわゆる「クーリングオフ」(冷静になって頭を冷やす意味であって、訪問販売等であまり考えずに一定の物を買った場合に、無条件解除できる制度で、消費者は一定の期間内に書面により契約の解除等を申し出ることが可能)については、契約解除等の通知を発信した時に、その効果を生じることになっています。これは、消費者保護の面からの、例外措置であって、これを「発信主義」といっています。

 
 解雇の意思表示については、当然のこと、民法の一般原則にのっとった「到達主義」であり、解雇の意思表示が相手=労働者に伝えられて、はじめて「解雇」が効力を生じることになります。ところが、労働者が行方不明の場合は、その相手がどこにいるか分からないわけであるから、困ってしまうことになります。こういう場合に、民法は「公示による意思表示」(相手に届かなくても、裁判所の掲示と官報の掲載により、届いたとみなすこと)を用意しているが、簡易裁判所に公示送達の申し立てをしなければならなくなり、手続きが面倒なことになります。

 
 そこで、就業規則で「行方不明による欠勤が、〇日継続したときは、自動退職する。」といった規定を作り、それによって、退職させることは可能でしょうか。一定期間の休職を続けたときは、当該事実の発生によってなんらの意思表示をすることなく、雇用契約終了の効果を生じる(昭和30.9.22東京地裁決定、電機学園事件)と同じように、行方不明という事実発生に基ずく「一定期間の経過」という「契約終了事由の成就」による退職制度も有効であるとしている見解があります。(採用から退職までの法律知識、安西弁護士、中央経済社)、なお、継続期間は、30日から60日であれば、不合理ではないとしているところです。


 就業規則の例として、リスク回避型就業規則・諸規定作成マニュアル(日本法令、森・岩崎共著、第53条解説)では、「従業員の行方が不明となり、1か月以上連絡が取れない場合」を退職事由に定め、これを周知しておけば、本人の意思表示がなくても退職が有効に成立すると考えられます  としているところです。
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退職願を提出しても真意でないことを会社が知っていたならば無効!!

2013-06-15 15:24:30 | 社会保険労務士
解雇をおそれ反省の意思を示すために退職の意思なくして退職願いを提出した裁判例

 
 いくらで売る、買う、代金はいつ支払う、この契約を解除するなどのいろんな意思表示があり、相手方はそれに対応して、自分の態度を決めることになる。後になって、あれは冗談だったと、それをないものとすることは、誰も安心しては取引はできない。このような、うそ、冗談など、意思表示をする者の「真意」と「表現」が食い違い、その者がその食い違いを自覚しているものを「心裡留保」といいいますが、意思表示を行った者はそれがうそであっても、自分の言ったものについては責任をもつというのが民法の原則である。うそ・冗談であっても、そのために無効とはならず、そのとおりの効力を生じることになるのである。ただし、相手方がうそを知っていた場合や、普通ならうそや冗談だとわかる場合は、無効となる。(口語民法全書、自由国民社、山川一陽他著、民法93条解説から)

 
 解雇をおそれ反省の意思を示すために退職の意思なくして提出された退職願いの効力が争われたことがありました。(昭和女子大学事件、東京地裁平4.2.6) そのまま受け取るなら、会社の言うように、退職する意思がなくても退職願を出した以上は、心裡留保の原則に立って、そのとおりの効力を生じますから、退職は認められるところです。

 
 しかし、会社側が本人の本当の意思は「辞めるつもりはない」、ウソだと知っていた場合は、無効となり、ここで但し書きの規定が適用になります。

 
 先の事件では、従業員は、業務上取引先とトラブルを引き起こし、調査の際に、謝罪を述べたものの、自分の正当性を主張し、代表者はその従業員に反省の態度はないとみて、「辞めてもらうしかないが、勤めを続けたいのなら、それなりの文書を提出しろ」と言ったものです。

 
 そこで、従業員は退職願を出したものですが、(1)退職願いは、代表者の先の発言を受けて、代表者の指示に従い提出されたものであること (2)退職願いを提出した際に、代表者には、「十分に反省しているので、勤務の機会を与えてほしい」といって、継続勤務の意思を表明していること から、但し書きの規定により、会社は辞めるつもりはないことを十分知っていたことになり、退職願の効力は無効となり、会社側の主張は認められません。

 
 心裡留保の但し書きは、形式だけを整えて、退職願を出させても、無効となるので、会社側は注意をしなければなりませんし、従業員としては、退職願を出したとしても、本意でないことを会社が知っていた時は、無効となるので、あきらめることはないことを示唆しています。

 
 しかし、心理留保は、このように従業員の「主観」の問題であり、客観的事情から推察するしかありません。そこで、以下の要素があげられています。
 1 従業員が退職願いを提出した契機
 2 従業員が退出願いを提出するときの言動
 3 退職届を受けとる際の、代表者の言動
 4 退職願いを提出した後の従業員の言動

  
 (参考、一部引用)ビジネスガイド2012.5月号 P60 弁護士木原康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
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職場に起因しないメンタル疾患、労働できないときは、無情にも契約解除は可能。

2013-06-09 04:53:08 | 社会保険労務士
 しかし、メンタル的疾患は、少なからず職場にその原因があることが多く・・・
 

 従業員がメンタル面での病気にかかった場合は、全く職場にその原因がない場合でも、会社は休業措置やその後の軽作業と職場復帰の方法を行っていくのが原則であると思っている人もいるが、そうでもない。メンタルヘルスが叫ばれ、厚生労働省が「労働者の心の健康保持増進のための指針」を出すなど積極的対策に乗り出したことから、そう思われているふしがある。その動きを否定する者でもないし、せっかく育てて企業に貢献しているような従業員をすぐに手放すことは企業にも損失であり、回復するまで企業が面倒をみるということは、日本の古来の温情的経営の上では、流れとしては当然のところであろう。しかし、大企業はともかく中小企業にとっては、そこまで余裕がないというのが実態であろう。

 原則にかえってみれば、労働契約も契約である以上、労働することが長期にわたってできない場合は、契約で約束した労働がなされていないことになり、契約の解除も已むをえないことになる。労働します、賃金を払いますという約束の上で、労働契約を結ぶのであるから、その約束が果たされない以上、使用者は契約解除できるというのが原則であるからである。

 ということは、従業員が重度のメンタル疾患に陥り、長期の休業を取らざるをえないときは、会社は無情にも従業員を解雇することは可能だといえる。

 ただし、ここで注意しなければならないのは、メンタル的疾患は、家庭、地域だけでなく、そこに主な原因がある場合でも、職場に原因が少なからず存在することがあります。職場、家庭、地域、生活が総合的に影響し合ってメンタル的疾患になることが多いからです。というよりも、大半は、職場の人間関係、仕事の質、量などの職場環境がストレスの大きな原因になっているからです。

 労働契約法では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮」をしなければなりません。「身体等の安全」には、メンタル面の含まれ、メンタル面の病気にかからないよう気を使って、仕事をさせなければなりません。そうでなければ、労働災害の問題になりますし、損害賠償の問題も発生してくることになります。

 以上に注意した上で、繰り返しますが仕事関連でメンタル疾患になったのでなけれなければ、、契約の原則に立ち返り、仕事がまったくできない以上は、使用者側が契約を解除しても全く問題はないことになります。ただし、仕事ができないというのは、これまた、どの程度までか問題になります。軽度の場合で契約解除することは、合理的な理由があるとは考えられず、認められないからです。
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