元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

労基法4条はなぜ賃金のみの男女差別禁止なのか?

2016-06-25 17:54:01 | 社会保険労務士
 労基法は女性保護規定があり男女平等の原則を謳えず雇用均等法の成立を待たねばならなかった!!

 労基法4条は、賃金についてだけ男女の差別の禁止になっているのでしょうか。ほかの募集・採用や配置・昇進等についての差別を禁止してもよさそうですが、こちらは男女均等法のほうで禁止され、法律によりすみわけがなされています。

 この疑問に答えるためには、法律が制定された歴史的経緯・沿革を見てみると謎が解明されそうです。

 労働基準法は、戦後間もなく、1947年(=昭和22年)4月に制定された法律です。明治時代の工場法を引き継ぎ、まだ女性の長時間労働と職場の安全衛生管理の確保という規制がこの労働基準法にも色濃く残っており、女性保護の主な規制として、純然たる母性保護規定だけではなく、つぎのように時間外労働の制限及び休日労働の禁止や深夜労働の禁止があったのです。

 (労働時間及び休日)
 第64条の2 使用者は、満18歳以上の女子で1号から5号までの事業(工業的業種)に従事する者については、第36条の協定による場合についても、1週間について6時間、1年について150時間を超えて時間外労働をさせ、又は休日に労働させてはならない。ただし、(決算期について)・・・1週間について6時間の制限にかかわらず、2週間について12時間を超えない範囲内で時間外労働をさせることができる。
 2 満18歳以上の女子で前項の事業以外の事業(非工業的業種)に従事する者については、第36条の協定による場合についても、・・(この非工業的業種については、1項の工業的業種よりは弾力的規制になっている。)・・を超えて時間外労働をさせ、又は休日に労働させてはならない。
 
 (深夜業)
 第64条の3 使用者は、満18歳以上の女子を午前10時から午前5時までの間において使用してはならない。ただし、次の各号の一に該当する者については、この限りではない。
 ・・・・・・
 ・・・・・・
 男女差別禁止の対象となっていたのが、賃金についてのみ(労基法4条)であって、均等待遇の原則(労基法3条・労働条件の差別的取り扱いの禁止)についても、国籍、信条、社会的身分を理由とするものであって、ここにも男女差別を理由とするものはありませんでした。これは、労働時間・休日・深夜業等において、述べてきたように女性労働者を保護する規定があるため、一般的な平等取扱い原則には合わず、法上の規制が一貫しないからでした。

 賃金以外の他の性差別の平等原則は、1985年の男女雇用均等法が成立するまで待たなければなりませんでした。この法律は、女性の雇用上の地位向上をめざしたもので、募集・採用・配置・昇進の他多くの労働条件について、均等待遇の確保や差別的取り扱いの禁止が規定されました。2度にわたる大きな改正(1997年、2006年)を経て、今では男女を問わない性差別禁止法となり、平等原則が推し進められています。
 
 一方、労働基準法はどうなったかというと、主な差別規定あった時間外労働の制限、休日労働の禁止、深夜労働の禁止については、1997年の改正(1999年施行)により撤廃され、その意味では、今では男女共通の規制基準となっています。ただし、危険有害業務の就業禁止や産前・産後の休業等の女性に特有の母性保護規定は、当然維持されています。
 
 このように、労働基準法においては、最初は女性を保護しようという色彩が強く、男女平等の概念からは遠く離れたものであったのが、男女雇用均等法の成立に伴い、労働基準法は母性保護を除く女性の保護規定を撤廃することとなったわけで、もともとあった男女の賃金差別禁止がそのまま残り、賃金のみが労働基準法で規制することになり、その他の労働条件は男女雇用均等法の規制と言う形で、役割分担することになったわけです。

 参考:労働法実務講義第3版・大内伸哉著、日本法令出版

 

 
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労働契約・賃金は親が代わって締結・請求不可のため本人締結等となるが、子役乳児の意思能力なしはどうする?!!

2016-06-18 17:02:22 | 社会保険労務士
  親と会社との「労働契約」でもない、無名契約と考えられる!!

 未成年者の一般的な契約については、親等<*1>が代理して契約を締結することができる(民法824条1項)とされていますが、たとえ子の同意(民法824条2項)を得たとしても、労働契約においては、親等が代わって契約を締結することはできません。(労基法58条1項)そこで、未成年者の労働契約は、親等の法定代理人の同意の下で、未成年者本人が契約を締結することになります。(民法5条1項)<*1>

 また、賃金についても親等は代わって受け取ってはならず、未成年者は、この場合には、全く「独立して」賃金を請求できることになっています。(労基法59条)

 ところで、年齢的には、原則は満15歳に達した後の3月31日が過ぎなければ、使用者はこれらの児童を労働者として使用できないことになっていますが、非工業的業種については、健康・福祉に有害でなく軽易な労働という条件で、行政官庁の許可を受けて、満13歳以上の児童についても修学時間外に使用することができるとされております。映画の製作や演劇の子役については、満13歳未満であっても、同様に行政官庁の許可を受ければ使用できることになっています。(労基法56条1項・2項)すなわち、いわゆる子役については、年齢制限はないことになり、必要であれば子役として0歳から使用できることになります。

 しかし、この場合に、労働基準法からいえば、親等の同意を必要するとはいえ、基本的には、未成年者本人が労働契約を締結し、賃金を請求することが基本となっているところ、子役といえども年齢は様々で、二桁代の年齢<*3>(11歳~)になれば、意思表示は可能で労働契約を結ぶことも可能と思われますが、いわゆる幼児や乳児などが本人自ら労働契約を結ぶことができるでしょうか。例えば極端に言えば、生まれてあまり経ってない赤子が子役(?子役なの)で出演していますが、そこまでいかなくても乳児や幼児の子役については、もともと意思能力がないとされていますので、契約を結ぶ能力もないとされているところです。となれば、これらの乳児・幼児が本人自ら労働契約を結び、本人が独自に賃金を請求すること(労基法58条、59条)は不可能です。

 これら乳児・幼児については、意思表示ができないのですから、労働契約は締結できず、上記の労基法58条、59条は適用されないと解すべきでしょう。

 これら乳児・幼児の出演契約は、親等と会社との間の特別な契約=無名契約とみるべきでしょう。<労働法実務講義第3版P737・大内著>

 とすれば、この契約は「労働契約ではなく」、これら乳児・幼児については、労働者ともいえないところですが、乳児・幼児についても少なくても(準)使用従属的な立場にはあると考えられますので、労働者の保護として規定されている他の労働基準法の規定は、準用又は適用することになるのでしょう。

<*1>以下、親または未成年者後見人を併せて「親等」としている。

<*2>この場合、未成年者については、職業自体を営むために親等の親権者の許可がなければなりません(民法823条1項)ので、まず職業についての親等の許可を得たうえで、さらに親等の同意の下で労働契約を締結することになります。もし親等の同意がなければ、その労働契約は、親等か未成年者本人が取り消すことができます。(民法5条2項)

<*3>意思能力があるとされるのは、7歳~10歳以上からとされるが、事案によって具体的には判断される。なお、児童福祉法では、1歳未満を乳児、1歳以上小学校入学前の未就学児(満6歳未満)を幼児と呼んでいる。

 参考:労働法実務講義第3版・大内伸哉著、日本法令出版
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僧侶、力士、プロ野球選手は労働者か?!

2016-06-11 17:00:22 | 社会保険労務士
 労働者であれば、労働基準法等の保護を受けられる大きなメリット!!

 労働基準法で定義する労働者に該当すれば、他の最低賃金法や労働安全衛生法、労働災害保険法、雇用保険法等の労働者にも該当することになります。そこで、労働者であるかそれとも労働者として認められないかは、労基法の割増賃金が請求できるか、就労中に負傷をした場合に労災保険が適用になるか、合理性等としての「解雇」の正当性が必要になるのか、就業規則の規定する退職金や賞与等の対象となるのかなど、これは大きな判断の分かれ目となります。

 労働者に該当するかといったこの「労働者性」の問題は、使用者に指揮監督されているかどうかを重要な判断要素としたうえで、他の総合的な考慮を含めて判断されています。個人で事業を行っているものでも、この労働者性が問題となり、例えば、最近問題のあったバイク便等メッセンジャーについては、通達では労働者性が肯定されたところですが(平成19年9月27日基発0927004号)、裁判では労働者性が否定されて、これにより当該契約の解除は、労働契約法の「解雇ではない」とされています(ソクハイ事件・東京地判平成25年)。このように、委託等の契約について、裁判例は、後を絶たないところです。

 その中で、興味ある特殊なところを取り上げたいと思います。

 1、宗教法人と僧侶の関係は、雇用関係にあり、破門は「解雇」であるとした例→そして、解雇の理由に正当性があるとした。(妙應事件、東京地判平成22年)
 2、幕内以下の力士(力士養成員)と日本相撲協会との契約は、労働契約ではなく、準委任類似の契約であるとした例(日本相撲協会事件、東京地決平成23年)
 3、幕内力士(力士)と日本相撲協会との契約は、雇用契約・準委任契約としてみることは困難であって、有償双務契約には違いないが私法上の無名契約(=民法上規定されている典型契約とは違う契約)であるとした例(日本相撲協会事件、東京地判平成25年)

 まだ記憶に新しいと思われますが、日本プロ野球選手会が、労働組合上の労働組合としての資格認定を受けたことが話題に上りました。(東京都労働委員会1985年認定、日本プロフェッショナル野球組織事件=東京高決平成16年) これはプロ野球選手が労働組合上の労働者であることを前提とした判断ですが、これはある程度独立性がある就労形態であっても、事業組織の中に組み込まれて、企業等の指揮命令下で就労するという実態があれば、使用者に対峙しなければならないという意味で、労働者として認めたものということができます。ここでいう組合法の労働者とは、労働基準法等とは若干違ったもの(労働基準法上の労働者かどうかは疑問)ではありますが、少なくとも企業等に「使用従属する」労働者(=交渉の面からみれば弱い立場)という大きな意味では、軌を一にする同様の概念であることは間違いありません。

 なお、シルバー人材センターは、実質、就業機会の提供等を行っていますが、高年齢法によって、ここでは労働法規の適用は除外されており、「労働者」ではないという解釈になっています。

 参考 労働法実務講義 大内伸哉著 日本法令
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法に定めのある休暇等→法に有給の定めはなく、ノーワークノーペイにより無給と解される

2016-06-04 17:51:48 | 社会保険労務士
 就業規則等により与えられた休暇等→無給・有給は就業規則等によるが、会社に帰責事由がある場合は払う必要も

 ノーワーク・ノーペイの原則=労働契約を結んでいても、労働者は働かなからければ賃金をもらう権利なし、むつかしく言うと、労務を提供しなければ賃金請求権がないというのが、明文の規定はありませんが、これが大原則です。

1、法に定めのある休暇等→有給・無給の定めはなく、ノーワークノーペイにより無給と解される

例として、労働基準法の産前産後の休業や生理日の休暇、あるいは育児休業法の育児・介護休暇については、労働契約そのものは解消はされてはいないのですが、労働契約上の義務が消滅していることとなって(これを「労働契約の中断」と呼ぶこととします)、労働者から言わせると、労働の義務のない状態になります。これは、先に述べた「労務を提供しなければ賃金請求権も発生していない」、いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用されることとなり、使用者の賃金支払い義務は消滅していることとなります。

 したがって、産前産後休業・生理日休暇や育児休業休暇については、その権利を法律で認められたものではありますが、これら休みの間の賃金については、これらの法律で特に有給であるとの規定はない以上、ノーワークノーペイに原則によって、無給と解されています。このように、労働契約の中断については、これらの他にも、休暇等が法律上権利として認められるものがありますが、同様に<*1>賃金についてはなんら規定がなく(=有給か無給かの規定がない)、そのため、無給とされています。

 ただし、労働基準法は最低の基準を定めていることなどから、休んでもうちの会社では給料をあげるよといっても、それはそれで結構なことで、就業規則や労働協約で有給としている会社もあります。

2、就業規則・労働協約により与えられた休暇等→無給・有給の取り扱いは就業規則等によるが、会社に帰責事由がある場合は払う必要がある場合も

 法に定めのない慶弔休暇や会社の創立記念日、リフレッシュ休暇などの就業規則や労働協約で規定されている休暇については、賃金の有無の取り扱いもその就業規則等に従うことになります。

 ここで注意しなければならないのは、労働契約の中断が会社に帰責事由がある場合です。民法536条2項で、使用者の責めに帰すべき事由によって労務を提供することが出来なくなったときは、労働者は反対給付(=給料)を受ける権利を失わないとあります。労働者の個人的な事故等の業務と無関係な事情が原因の場合は問題はありませんが、会社側にその原因がある場合は、使用者の責めに帰すべき事由があってということになりますので、この場合は、労働者はまだ賃金請求権があることになります。

 この規定は、任意規定とされていますので、就業規則等でこの場合でも賃金を支払わないことを規定すれば支払わないよと言うことはできます。

 ただし、その場合でも、このように使用者に帰責がある場合<*2>は、労基法の「休業手当」は必ず支払わなくてはなりませんので、就業規則等の内容がどうであれ、平均賃金の6割以上は休業手当として、労働者に支払わなければなりません。(労基法13条)

 これに対し、会社に帰責がない場合は、有給か無給かを、全く自由に、会社の判断でどちらでも選ぶことができます。

 参考 労働法実務講義 大内伸哉著 日本法令



 <*1>例外は、年次有給休暇といってもよく、文字どおり、有給で休暇を取ることができる労働者に認められた権利です。
 <*2>民法536条2項と労基法の休業手当に規定する「使用者の帰責」は、労基法の帰責の方が経営上の障害も含まれており範囲が広くなっており、民法の帰責に該当すれば労基法の休業手当に該当する可能性は高いので、民法の帰責に当たれば、休業手当は支払わなければならないと思われる。
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