元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

消費者契約と新入社員にとっての就業規則の「約款」(機能)の拘束性<拘束要件:周知と合理性で共通>

2016-07-30 16:27:56 | 社会保険労務士
 約款「多数の取引を処理するために予め契約内容として定型的に作成されている契約条項」現在多数企業が利用!!

 企業と消費者間の商品の売買としての消費者契約については、これも「約款」の形が多く、あらかじめ企業側の方で決まった契約内容を一方的に作成しており、顧客は契約内容の一つひとつの条文について、交渉する自由を持っていないのが一般的な形である。この商品の取り引きにおいては、消費者は画一的に定められている定型的な契約条項を受け入れ、後はその総括的な契約条項としての売買契約に、印鑑を押すか押さないか(=この商品を買うか買わないか)の自由しか残されていないのである。本筋から外れるが、元消費者相談に係わった者として、指摘しておきたいのは、消費者にとって、細かい文字で契約書が読みづらいということがいわれているが、消費者が内容を理解してこそ、契約するかしないかを判断できるということは指摘しておきたい。

 一方、会社に採用される社員については、特に正社員においては、労働契約書で詳しく書かれているのはそう多くはなく、多くに企業においては、むしろ就業規則の内容が重要な機能を有している。すなわち、企業の採用においては、労働条件について採用される社員と詳しい個別の契約を交わすのはほとんど行われず、就業規則に定められた定型的な労働条件をもって労働契約が締結されることが多いのである。会社に入る場合に、会社の就業規則を労働契約の条項として、労働者は認めるか認めないか、認めないのであれば、会社に入ることはまかりならんということであろう。ここでも就業規則は、労働契約を締結し労働条件を決めるにあって、約款としての機能を果たしているのである。

 この消費者約款にあっても、労働契約の役割を果たす就業規則にあっても、共通するのは、一方的に契約内容を書く企業ではなく、了解する側の消費者、労働者が、その内容がたとえ自分の意に沿わないものであっても、契約した以上は、その契約内容を強制される点である。

 ここで、労働契約と就業規則の関係について整理しておくが、会社に採用される場合に、労働契約の条項にあまり規定がなく、就業規則において詳しい内容があった場合は、この就業規則にしかその労働条件の内容がないというが多くなるが、その場合の就業規則の定めは、労働者を拘束するのかということを規定してあるのが、労働契約法の7条である。就業規則は使用者が集団的な規律として決めてあるものであり、今から入社する者を、その就業規則がいかに拘束するかを規定しているのである。

 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させている場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。(労働契約法第7条)

 新入社員にとって、労働者への周知と内容の合理性を要件として、就業規則の規定する内容が労働契約の内容になることを規定している。

 実はこの条文は、もともとは、判例の積み重ねによる判例法理が先に出来上がり、そのあとで労働契約法の中に条文として成文化されたものである。その判例法理の成立過程の中で、約款として拘束力を持つ要件として「事前の開示(周知)」と「内容の合理性」が必要との理論があり、これと同様にあてはめて、就業規則の拘束の要件として「労働者への周知」と「内容の合理性」を持ってきたという経緯があるといわれている。

 消費者契約でいわれる約款、就業規則の労働契約の内容としての約款の機能も、交渉力や情報力等において劣る立場の消費者・労働者という観点から見ると、拘束の要件が同じであることには、以上のような理由があると考えられる。

  参考 労働法(第6版)水町勇一郎 有斐閣 P87、p91~92 
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チェックオフは労働協約によっても組合員が使用者に支払委任解除を申し出ればできない!!

2016-07-23 16:18:06 | 社会保険労務士
 組合費を使用者に労働組合は取立委任・組合員は支払委任・労使協定を締結することがチェックオフの適法な手続き!!
 
 労働組合が組合員から組合費を確実に徴収するための制度として、チェック・オフというのがある。このチェックオフというのは、簡単にいうと、使用者に組合員の給料から組合費を控除してもらい、それを組合に納入してもらうという方法である。

 チェックオフが法律的に適性に行われるためには、
 1、労働組合が使用者に組合費の取立依頼をするという、労働組合と使用者の間で取立委任契約を結ぶこと(チェックオフ協定)
 2、組合員が使用者に対して、給料の中から組合費分を控除してそれを労働組合に支払ってもらうという、組合員と使用者の間で組合費の支払委任契約を結ぶこと
 3、当該事業場において、使用者と過半数労働組合(又はその過半数労働者の代表者。以下「過半数労働組合」という。)との間で、チェックオフについての労使協定を締結する必要があること
という3つの関係があることが必要で、どれが欠けても、このチェックオフは適法ではない。 

 まず1、2はセットであり、労働組合と使用者と組合員との三者契約であるので、労働組合から使用者への取立委任契約だけでは足りず、組合員から使用者へ組合費の支払委任契約という2つの委任契約があって初めて、チェックオフの民事上の委任関係が完全に成立することになる。

 では、3、はなにかと言うと、給料については、賃金全額払いの原則(労働者の経済生活の安定を確保するために労働者に全額の賃金を確実に受領させることが必要で、給料からの控除はしてはならないという原則。労基法24条1項)があるので、給料から組合費を適法に控除するためには、チェックオフについて過半数労働組合等と使用者の間で労使協定を締結しなければならないからである。(全額払いの「労使協定」による例外。労基法24条1項) これは、違反すれば罰則になるのであるが、この労使協定によって、30万円以下の罰金から逃れることになるのである。

 1、2、3、そろって民事・刑事(=労基法)の両方で、適法になることになる。

 ある組合員が組合費の会計に疑惑を抱き、一時組合費を納入するのを止めたいと思った場合は、2、の支払委任契約をやめることを使用者に申し出ればよい。いつでも委任契約については、解除できることになっているからである。(民法651条)
 
 ちょっと考えると、3、で使用者と過半数労働組合等との間で労使協定を結んでいるので、一(いち)組合員である者が、2の組合費支払委任契約の解除はできないように思えます。しかし、3の労使協定は、あくまでも先に説明したように、賃金全額払いの例外の「免罰」としての労使協定であって、2の組合費委任契約以上のそれに勝る民事上の意味を持つものではありません。

 また、この労使協定が「労働協約」(労働組合と使用者等との書面による正式に確認したもの)として結ばれていた場合はどうでしょう。一般的には、労働協約は組合員には労働契約としての効力(規範的効力)を持ちますので、組合員はその労働協約に従わなければならないことになります。(労組法16条) しかし、組合員に対して上記の規範的効力を持つ場合とは、「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」に該当する協約を結んだ場合ですが、チェックオフ制度は、この待遇に関する基準に当たらないとされています。したがって、労働協約であっても、チェックオフに関しては使用者と労働者を拘束する規範的効力は持たないとされています。(判例支持)
 
 したがって、労働組合等と使用者の労使協定であっても、さらにはそれが労働協約で締結されていたとしても、2.の一(いち)組合員の意思が組合費の支払委任契約の解除となります。一組合員が自分の組合費の支払いをやめることを使用者に申し出ればよいことになるのです。

 2の一(いち)組合員の委任契約解除は、組合にとっっても厳しいものであるとはいえ、組合財政健全化に関する観点からは、組合にとって必要なものとも考えられるのです。

 参考:労働法 水町勇一郎 有斐閣
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年休の発生する出勤率は休業日の種類によって2つの計算法!!(1全労働日に入らない、2出勤したとみなす)

2016-07-16 17:10:14 | 社会保険労務士
 社労士試験では「欠勤したが出勤日に含める日」と「労働義務のない日」のそれぞれの休業日等を覚えなければなりませんが(覚え方は?)

 年休権の発生については、労基法に次のような記述があります。

 使用者は、雇い入れの日から6か月以上継続勤務(=労働関係が実質的に存続していればよく、労働契約の更新や合併・在籍出向であっても継続とされる)し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し又は分割した10労働日以上の有給休暇を与えなければならない。そしてその後は、勤務年数を増すにしたがって、その日数は20労働日まで加算される。

 この「全労働日の8割以上出勤」の計算方法(出勤率)であるが、出勤率=出勤日数/全労働日で計算される。休業日の種類によって、2つの計算方法があって、1、例えば、使用者側に起因する経営・管理上の障害による休業日のように、「全労働日」の中に入らない日 2、業務上障害により療養のために休業した期間のように、「出勤したとみなす」(=出勤日数に含む取り扱い)ものがある。1、は分母の「全労働日」の中に含めないのであるから、当然分子の「出勤日数」にも含めない。2は、出勤したとみなすのであるから、「出勤日数」に含めるともに、当然分母の「全労働日」にもカウントしなければおかしくなる。

 <ここで、ちょっと横道にそれるが、この1「全労働日に入らない」場合の範囲と2「出勤したとみなす」の範囲の事由の区分が、社労士試験に出されるが、なかなか事由が多くて覚えられないが、以下のように理解すれば、簡単に覚えられるのではないでしょうか。>

 結局 1、は、出勤率=出勤日数+-0(ゼロ)/全労働日+-0(ゼロ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・労働日に入らない日
    2、は、出勤率=出勤日数+α /全労働日+α  (α日の出勤したとみなす日があった場合)・・・出勤したとみなす日 となる。

 ということで、例えば、全労働日が249日でそのうちの出勤した日が199日とすれば、全労働日に入らない休業日が何日あったとしても、1の出勤率は、(199+-0)/(249+-0)=79.9%  <したがって、8割を超えないので、有給休暇は与えられない>
 一方、出勤したとみなす日が1日あったとすれば、α=1であるから、(199+1)/(249+1)=80.0%となる。 <8割以上となり、有給休暇が与えられることになる>

 このように、ちょっとの差であるが、1の「全労働日に入らない」のと2の「出勤したとみなす」の差は大きい。1は、まったく出勤率に影響がないが、2は、ちょっと出勤率が高まるのである。
 
 ここで、「全労働日」とは、本来「労働者に労働契約上労働義務が課せられている日」のことであり、実質的に労働義務のない日も(休日と同様の一般休暇日)これから除くことになる。さらに、この「全労働日の8割以上出勤」と言うのは、「労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高いものをその対象から除外する趣旨で定められたものであり」(八千代交通事件、水町著労働法)、この趣旨から、労働者に帰責のない欠勤日は、この「全労働日に入らない」ことになる。労働日に帰責のない欠勤日は、行政解釈により示されており、A不可抗力による休業日 B 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日 C 正当な争議行為により就労しなかった日が挙げられている。

 「全労働日に入らない日」である休業日というのは、労働義務のない休日や実質的に労働義務のない日である一般休暇日だけではなく、労働者に責任のない欠勤日も含んでいるのであり、大きい意味での実質的に働く義務のなかった(労働者に責任のないところのものを含めて)ものであるといえる。実質的に働く義務のなかった日であるから、全労働日にも入らず、かつ、出勤日数にも入らず、出勤率にはなんら影響しないことになる。大きい意味での、「普通の一般の休業日」であるといえる。

 これに対して、「出勤したとみなす」という休業日というのは、計算式で述べたように、より出席率の高い計算方法(全労働日と出勤日数の両方でカウント)であるので、より優遇された取り扱いである。これは、労働者が法律上の権利を行使して休業している日であって国等が支援しているところのものであり、D 業務上の傷病により療養のために休業した期間 E 産前産後の休業期間 F 育児介護休業法に規定する育児・介護休業を取得した期間 (労基39条8項) G 年休を取った日 (昭22.9.13基発17号) である。

 さらに、最近の裁判で(八千代交通事件 平成25年最高)を受けて、使用者に無効な解雇を告げられたため就労できなかった日を出勤日に含めるとした。(平25.7.10基発0710第3号)、これは、「使用者側の強い帰責性の下に出勤できなかった日」ということであろうか。
 つまり、より出席率の高い計算方法であり優遇された取り扱いとなるのは、無効な解雇期間等と労働者が法律上の権利を行使している休業の2つを現在では指しており、特別のワンランク上の計算方法といえる。

社労士試験では、この全労働日に入らない日(=労働義務のない日等)と出勤した日をみなす(=欠勤したが出勤した日に含める日)のそれぞれの休日・休業日を覚えなければならないと考える方がいらしゃるかも知れません。しかし、これは「出勤したとみなす」休業日の方が特別に優遇し、出勤率が高くなる取り扱いをしていることから、この特別に設定された「出勤したとみなす」方の休業日の方を覚えればよい。、それは、前述のように「労働者が法律上の権利を行使して休業している日」(D、E、F、G)のことであり、さらに後から判例によって加わった「使用者によって無効な解雇になった期間等」を足して覚えておけばよい。これ以外の他の休業日・休日は、「全労働日に入らない日」として考えるのである。>

 参考 労働法        菅野著 
    労働法        水町著 有斐閣
     
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重大な経歴詐称は企業秩序権に支障を生じるので懲戒の対象!!

2016-07-09 16:55:23 | 社会保険労務士
 重大な経歴詐称であっても裁判リスクを考え懲戒ではなく錯誤・詐欺の無効・取消(=普通解雇等)の検討も!!

 コメンテーターの経歴詐称事件は、次から次へと事件・事故が起き、すでに忘れ去られようとしているが、職員の採用の場合(すなわち労働契約を締結する場合)においては、職員が経歴詐称を行った時は、職員を懲戒できるのだろうか。

 その懲戒の前提として、あらかじめ就業規則において懲戒の種別と事由を定めておくこと(罪刑法定主義類似の原則、ここでは例えば最終学歴や職歴等重大な経歴を偽った場合の懲戒解雇処分を決めておくこと)、また、それが就業規則として拘束力を持つためには、その就業規定の「周知」と内容の「合理性」が必要であり、さらに、権利の濫用とならないようにその違反行為の重大さと懲戒の内容が社会通念上相当と認められなければならないということは言うまでもない。(労働契約法7条、15条)

 話しを簡単にするために、ここでは、先のコメンテーターの例のように、経歴詐称を学歴詐称(職歴詐称も含めて)に絞って話しを進める。

 さて、経歴詐称が懲戒の対象となるかについては、懲戒とは「企業秩序権に対して科す制裁罰」であり、経歴詐称が企業秩序権を阻害するかである。経歴詐称については、採用時に分かっていれば採用をしなかったものであり、労働契約締結時の問題であり、採用後の会社の企業秩序権そのものに違反するものではないとの考えもあります。しかし、裁判ではその「労働者の全人格的判断を誤らせる結果、雇い入れ後の労働者の組織での位置づけなど企業の秩序や運営に支障を生じしめる恐れ」があるとして、これを肯定しているところである。菅野和夫著の労働法においても、企業と従業員の信頼関係は企業秩序の根幹をなしており、これを破壊する「重大な経歴の詐称」は、実質的に見て企業秩序との関連性を十分有すると考えられるとして、経歴詐称が懲戒の対象となることを認めている

 ところで、裁判においては、重大な経歴詐称があった場合に懲戒解雇を有効としたにとどまり、引用した菅野著の労働法においても、重大な経歴の詐称としているところであり、それほど重大でない経歴詐称の場合は懲戒可能(=企業秩序権に影響をあたえるのか)なのかどうかということがあります。あまりそこのところに言及したものは見当たらないようですが、経歴詐称そのものは、他の在職中の非違行為と違い、もともとは採用時の話であり、後にウソが分かったときには、それが重大ではないときには、それは今後の勤務態度を見ながら一般の「人事」の中で考えていけばよいとも考えられます。

 したがって、就業規則に懲戒事由・種別を規定するときは、重大な経歴詐称に限定して、これに対応する懲戒の種別は、懲戒解雇(又は諭旨解雇)とすることが、今考えられる就業規則としてはベストでしょうか。ただし、あくまでも重大な経歴詐称と解雇するが、事情(悔悛、過去の成績優秀等)によっては、軽減措置(けん責、減給、出勤停止、降格)もありうるとすることも可と考えられます。

 また、別の点から申せば、重大な経歴詐称であっても必ずしも懲戒で対応しなければならないということではなく、使用者は錯誤(民法95条)又は詐欺(民法96条)があったとして、この労働契約の無効又は取り消し(=普通解雇等)を主張しうると考えることもできます。すなわちこの場合は、普通解雇等にバッチし当てはまるわけで、信頼関係を壊すような輩は労働契約から単に除外(=普通解雇等)できればよしとして、懲戒解雇の方が裁判に発展するリスクがあることを考えれば、あえて懲罰を加える必要があるのかということです。懲戒解雇と普通解雇の両面からリスクを考え検討することも必要と言うわけです。
 
 そこで、「重大な経歴」の詐称とは、その経歴詐称が事前に発覚すれば、会社がその労働者と労働契約を締結しなったか、少なくとも同一条件で契約を締結しなかったと考えられ、かつ、客観的にみてもそのように認めるのが相当な場合をいうとしています。(神戸製鋼所事件、日本鋼管鶴見造船所事件)

 具体的に学歴詐取についていうと、自動車教習所指導員について、高校中退の学歴を高校卒と詐称してなされた懲戒解雇を有効(正興産業事件)、住宅産業会社の融資決定の審査役について、大学入学の事実がなく、警察官としての経歴も1年5か月に過ぎないのに、大学中退で、警察官職歴が約9年として詐称された懲戒解雇を有効(相銀住宅ローン事件)としたものがあります。最終学歴の詐称については、きちんと労務に従事し具体的な損害を生じなくとも、職歴以上に重要な情報の詐称と判断されることがあるようです。本来与えられるはずのない給料・職種を取得し、または、本来採用されるはずがなかったのに採用されることも考えられ、少なからず採用への影響は考えられるでしょう。
 
 (では、短大卒を高校卒、大学中退を高校卒、と偽ったのは、どうかということになりそうですが、本人に給料等のメリットはなく、懲戒処分には該当しないように思われますが、過去の裁判としては、中卒・高卒社員ばかりの採用方針の職場において短大卒として入社した社員の解雇を認めたなど職場の特殊な内容によって、過少の学歴詐称であっても認めた例があります。しかし過少学歴詐称は、普通の詐称より厳格な判断が必要となるでしょう。)

 学歴については、採用の際、必ず履歴書において記述することを要し、全くどこかで最終学歴を聴取しないことはないでしょうが、採用に当たっては、この聴取もれのないようにすることは必要です。採用時に確認したにもかかわらず、虚偽の事実を行ったのであれば、その事実が会社にとって有利に働くことは間違いありません。というのも、会社が申告を求めた場合は、信義則上応募者は真実を申告する義務があります。それに正確に答えなったということであれば、労働契約の解約(普通解雇等)という効果は当然生ずることになりますので、就業規則に重大な経歴詐称事由を書くことも必要ですが、採用にあたって学歴等の経歴について、確認チェックもれのないようすることが大事です。

 参考 懲戒権行使の法律実務 石嵜著 中央経済社
    労働法        菅野著 
    労働法        水町著 有斐閣
    労働法実務講義    大内著 日本法令
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就業規則が労働者を拘束する場合の要件とは<労働契約法で「労働者への周知」と「内容の合理性」>

2016-07-02 17:54:47 | 社会保険労務士
 2007年制定の労働契約法7条で明確に記載されたところ(「労働者への周知」と「内容の合理性」が要件)

 次のような問題Qがある。

 コンビニで働いているフリーター・山崎君は、彼女とのデートが急に入ったため深夜勤務を1回さぼってしまった。翌日何食わぬ顔で出勤。店長から呼ばれ「始末書を書けば今回のことはなかったことにするから、今日からまたしっかり働いてくれ」といわれた。山崎君は始末書を書かされることなんて入店以来聞いたことないと言ったところ、会社の就業規則にちゃんと書いてあると店長は言って、見せてくれた。そこには、「無断欠勤した場合は始末書の提出を命じる」と書いてある。山崎君は始末書を書かないといけないか。(労働法第6版 水町勇一郎著 有斐閣 P90事例7)
 
 一般的には、労働者を採用する場合、労働契約書には賃金や就業時間等の大まかな取り決めは書くが、後の細かなことは、就業規則に書いてあるとおりとの取り決めになっているところが多い。山崎君は、就業規則に書いてあることは知らなかったのに、始末書を書かなければならないのかということで、納得がいかないようである。

 就業規則については、労基法には、常時10人以上の労働者がいるところは就業規則を作成しなければならないとした上で、作成手続きの方法などは書かれているが、就業規則の内容に労働者はどんな場合に従わなければならないのか(就業規則の拘束力)については、2007年(平成19年)に制定された労働契約法によって初めて、明確な規定が置かれたものである。
(しかしながら、この規定は、むしろ判例の積み重ねによってできた法理をそのまま規定したものであり、具体的な規定ではなくむしろ包括的な規定となっている。)

 労働契約法第7条
 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させている場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による。(就業規則の契約補充効)
 
 労働者である山崎君は、労働契約を締結する場合=すなわち労働者の山崎君が採用時されたときに、合理的な労働条件を定めた就業規則が周知されていた場合には、その就業規則が山崎君と使用者との労働契約の内容となる。この場合は、就業規則が山崎君が結んだ労働契約そのものになるので、その就業規則に従わなければならなくなり(就業規則の契約補充効果)、始末書を書かなければならないということになるのである。

 ここで、「合理的な」とは、そのような規定を置くことに企業経営・人事管理上の必要性があり、それが労働者の権利・利益を不相当に制限するものではないかという観点から判断されるとされており、また、「周知」とは、労基法で規定してある「掲示」や「備え付け」、「書類の交付」や電子機器での公開といった決まった周知の方法(労基法106条)とは異なり、実質的な周知であって、「山崎君を含めて労働者が知ろうと思えば知り得る状態に置かれれば良い」とされている。したがって労働者が就業規則の内容を知っているかは問われない。すなわち、労働者は就業規則が周知されている限り、内容を知らなかったとはいえないのである。
(しかし、就業規則が山崎君を縛る要件である「周知」はこれでいいということであって、労基法に違反しない(罰則30万円以下)ためには、労基法の定めのとおりしておいたほうが良いことは言うまでもない。)

 最初に申し上げたように、多くの日本の企業においては、労働者と使用者が労働契約を結ぶ際は、労働契約にはおおまかな契約内容しか書かれておらず、多くは就業規則に委任しているところであり、この就業規則が労働者を拘束するためには、労働契約を締結する際に、合理的な就業規則が周知されていることが条件となる。したがって、使用者が労働者に就業規則に従ってもらうためには、就業規則の周知とその内容の合理性がなければならないところであり、その周知のためには、就業規則を労働者がいつでも見れる状態にしておかなければならないのである。
 少なくとも、会社社長しかわからないところに就業規則は保管してあるというのでは、その条件はクリアーしてないことになる。一方、労働者は、周知してある限り内容を知らないとはいえないので、どんなことが書いてあるか見ておいて分かっているということが必要である。(特に懲戒処分を受けても、周知してある限り、後からそんなことは知らなかったとは言えない。)
 
 就業規則は、会社のルールであり、社長と従業員を結ぶ架け橋なのである。

 なお、就業規則の内容は、法令や労働協約に反してはならないことは言うまでもない。(労基法92条、労働契約法13条)

 参考 労働法第6版 水町勇一郎著 有斐閣

 
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