元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

世界における日本の教育費の相対的な低さは「米百俵の精神」からどうなのか?!

2022-07-30 09:58:48 | 経済・歴史
 日本の大学の世界における水準はどうなのか(世界の大学ランキング200位では2大学のみ)

 かって戊辰戦争で敗れた長岡藩は石高を6割も減らされ、藩士たちはその日の食にも窮していたが、三根山藩から米100俵が贈られた。藩の大参事の小林虎三郎は、これを食せず、学校設立の費用とすることを決定した。驚いた藩士たちが、虎三郎の下へ押しかけ抗議したときの彼のことばである。「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育に当てれば明日の一万、百万俵となる。」 この物語は「米百俵の精神」として、小泉内閣発足直後、小泉純一郎首相の所信表明演説で引用されて有名になり、長岡市のホームページにも掲載されている。(ウィキペディア要旨)これは、教育という投資は、今すぐには効果を発するものではないが、将来の社会に大きな効果をもたらすということを言っている。また、日本史のうえでも、明治以来の経済発展や戦後の高度成長に教育が大きくかかわったことは知られているとおりです。

 OECD(38か国+EC)における、日本の学生・生徒一人当たりの教育機関にかける年間支出(初等教育から高等教育まで)は、1万1896ドルとなっています。これは、OECD平均を665ドルとわずかに上回っていますが、国・地方自治体の公的な負担と学習者・その家庭から支出される授業料等の私学負担を分けると、私学負担割合は28・7%、アメリカに続く5位になっています。この比率は、OECD平均の15.2%を13.5ポイントも上回っています。私学負担割合がこれだけ大きいということは、逆に言うと、日本では公的の教育支出の割合が諸外国に比べて低いことを表しています。またOECD各国の公的な教育支出を対GDP比で表したものを見ると、1位 ノルウェー6.5%、2位 アイスランド5.6% 3位 デンマーク・ベルギー・スウェーデン(いづれも同率)5.3% 日本の順位は最下位の2.8%、これはOECD平均の4.1%から1.3%低い数字です。

 日本の政府支出に占める公財政教育支出の割合は、2000年に9.4% 2010年に8.4%、2017年の7.8%と減少しています。一方、社会保障費の政府支出に占める割合は、約1.7倍に拡大しているという現状です。

 さらに、興味深いのは、イギリスの教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション2022年」では、世界の大学ランキングトップ200位に日本の大学は東京大学(35位)と京都大学(61位)の2つしか入っていません。2011年のランキングでは、このなかに5つ入っていましたので、この10年での評価がさらに下がっていることになります。ちなみにトップの順位は、一位アメリカ57校、2位イギリスの28校、3位ドイツの22校。アジアでは中国10校(北京大学・精華大学は大学としての順位は共に16位タイ)となっており、中国が頑張っている点です

 戦後の工業化社会では、大量生産型の生産に寄与するという観点から、労働者は組織の中で決定に従って正確かつ効率的に行うことが求められ、学校の授業では知識詰込み型でパターン化された技能を習得させることが行われました。このことが、戦後、日本の規格型大量生産方式の経済発展を支え、日本の経済力を世界の有数に押し上げたのです。

 しかし、今やAIやロボットの開発のなかで、社会に求められる人物像は変わってきています。AI・ロボットに代替される部分とは、別の「問題を発見し解決する能力」を持ち、しかも「豊かな発想力」を備えた人材が必要とされています。そういった視点から考えた場合に、日本の大学の授業は、あまり変わっていないように思えます。昔騒がれた大学の在り様として「大学教育の中立性」も考え方としては、認めますが、このAI・ロボット時代にあっては、社会経済の現在の在り様を見た場合に、大学の在り様も変わりなければならないと思います。単なる技術・知識を教え込むのでなく、問題解決能力・発想力等を主体とした人物像が求められています。今一度、学習内容が労働市場が求める人物像にあっているか考える必要があるように思います。

 「米100俵の精神」から日本の教育予算に懸ける現状、社会に巣立つ人を育てる「大学」の世界的な水準とを考えてきました。この教育費の予算の占める構成バランス、限られた国家・地方自治体の予算の中で、現在の日本は「しかたなく」教育費から社会保障に予算を回しています。しかし、それでいいのか、教育の内容も含めて、もう一度「米百俵の精神」にもどって考えていく必要があるのではないでしょうか。(私も高齢者として、福祉にかける予算のありようについては、その責任の一端を感じてはいますが・・・・・・)

 参考 101のデータで読む日本の未来 宮本弘暁著  当該データや考え方は自分なりにこれを要約している。
    米100俵の精神 ウィキペディア 長岡市ホームページ
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SDGs/食品ロスは消費者として国民全体で考える問題=家庭発生が46%・外食の食べ残しも

2022-07-23 09:46:23 | 経済・歴史
 日本の食品ロス約600万トンは世界の食料援助量420万トンの約1.4倍

 食品ロスの問題は、一時期取り上げられたコンビニチェーン店の賞味期限切れの廃棄がクローズアップされたので、事業者の問題のように感じている方もいらしゃるかもしれません。しかし、これは、私たち消費者にとっても、考えなければならない問題です。冷蔵庫の中でそのままにしておいて食べずに捨ててしまったという経験はないでしょうか。

 SDGsでは「2030年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」とされています。世界の温室効果ガス排出の一割弱は食品ロスに関係しているとの推計もあるようです。

 日本の食品ロスは、2018年に約600万トンと推計、国民一人当たり年間約47kg、一日にして一人が食べる茶碗1杯のごはんの量(約130g)なんです。これは2019年に世界で飢餓に苦しむ人々に当てた世界の食料援助量420万トンの約1.4倍の量です。

 食品ロスは、家庭と食品産業からの発生の2つに分けられますが、この家庭から発生するものは、年間276万トンと日本の食品ロスの実に46%を占めています。半分近くを事業ではなく家庭で発生しているという事実です。例えば購入した食材を使用せずに捨ててしまったとか、食べ残してしまう場合です。

 一方、食品産業からの発生は、外食産業116万トン(19%)、食品製造業126万トン(21%)、食品小売業66万トン(11%)、食品卸売業16万(3%)トンとなっています。外食産業が約2割と多くの比率を占めていますが、これは、私たち消費者が考えなければならないものとして、「飲食店での食べ残し」が挙げられます。今では外食産業においては、食べられなかった持ち帰り食器を用意しているところもあります。また、食べ残しのないように心がけることも必要です。そういった運動も行われています。

 総じて、食品ロスの問題は、事業者だけでなく、私たち消費者も考えていかなければ解決できない問題です。

 
 参考 101のデータで読む日本の未来 宮本弘暁著 (p166~168) 当該データ・要約し、消費者の観点から捉えたもの。(データの主なものは、平成30年度食料需給表)
 
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IT化は短期的には衰退する職業はあるが長期的には新職業が起きる⇒労働市場の弾力化の必要性

2022-07-16 10:39:05 | 社会保険労務士
 自動化が高い職業(情報管理)①電車運転士②経理事務員③検針員 // 自動化が低い職業(創造性・社会的交流)①精神科医②国際協力専門家③作業療法士

  最近では、ロボットに代表される技術革新により、労働者の仕事がなくなっていく、機械に取って代わられるのではないかとの指摘があります。結論からいうと、短期的には機械に取って代わられることはあろうとも、長期的には技術進歩は新しい仕事を生み出すものであり失業を増やすとはいえないのではないかと思われます

 この話は、イギリスのオックスフォード大学のカール・フレイル博士&マイケル・オズボーン准教授の研究により、今後10~20年間に技術進歩によりアメリカ国内の労働者の47%が機械に置き換わるリスクがあるという報告からです。これに習い、野村総合研究所による研究では、国内の601種類の職業について、日本の労働人口の約49%がいまある職業が機械に取って代わる可能性があると指摘しています。日本で自動化される可能性がもっとも高い職業を順に示せば、①電車運転士②経理事務員③検針員④一般事務員⑤包装作業員⑥路線バス運転士⑦積みおろし作業員⑧梱包工⑨レジ係⓾製本作業員 また自動化される可能性が最も低い職業としては、①精神科医②国際協力専門家③作業療法士④言語聴覚士⑤産業カウンセラー⑥外科医⑦はり師・きゅう師⑧盲・ろう・養護学校教員⑨メイクアップアーチスト⓾小児科 が挙げられています。自動化の可能性が高いものは、コンピュータが得意な情報管理・処理の分野であることが分かります。一方の自動化リスクが低いものは、創造性分野であったり複雑な社会的な交流を伴う作業を行う分野などであることが分かります。

 しかし、これはあくまでも予測されたもので、「試算された前提」によって研究結果は変わるものであり、短期的には、これらの研究結果を認めるとしても、長期的には、技術革新によって、全く「労働しないでいい」というものでもなく、むしろ新しい労働需要が生じるようです。原始時代、人類は食料を捕獲するためにヤリや斧などの道具を考えだし、新天地を求めて船で旅立ち、空へのあこがれから飛行機で発明し、今は宇宙へ飛び立とうとしてます。人類の夢なのか、経済学的には果てしない「欲望」の連続性なのかわかりませんが、そのことにより技術革新はとどまるところを知りません。人類の欲望は、新たな技術革新の必要性を迫り、そのことにより次の技術を可能としてきたのです。次の技術の到達点では、その新しい地点から新しい欲望を生み出し、その欲望により新たな技術の開発を必要とするのです。

 人類の欲望はとどまるところを知りません。私は甘いものが大好きですが、新しいスイーツは最初の一口は実にとろけるように甘いものですが、次からは、だんだんとそのおいしさは薄れていきます。しかし、さらに新しい製品のスイーツが出た場合は、また新しいおいしさが戻ってきます。このように新しいものに挑戦するときには、実に人類の欲望は限りがないように出来ています。新技術の開発は、常に欲望が隣り合わせのものであり、どこまでいってもその拡大する欲望からくる必要性が生み出すものであり、またそのことが新技術の開発を支えているのです。したがって、技術革新もまたとどまるところも知りません。一時期、経済が停滞してこれ以上技術革新はないので、経済発展はこれ以上望めないのではないかと言われた時期がありましたが、さにあらんや、今ではIT・ロボットの技術革新が訪れています。

 新しい技術革新は、確かに従来の仕事を駆逐するかもしれませんが、新たな仕事という新しい職業を生み出します。今、IT時代に現れているところでは、ゲーマーやユーチュバーが挙げられます。ひと昔前では、絶対に考えられなかった職業です。衰退していく職業はある程度分かるにしても、新しい職業はその時代にそれ相応に表れてくるものであって、今ほかにどんな職業があるかを言うことはできません。宮本弘暁氏等の研究(アメリカにおいての実証研究・「101のデータで読む日本の未来」p256掲載)では、長期的には、技術革新の尺度として「生産性の成長率」と雇用の尺度として「失業」との関係性を調べていますが、技術革新によって失業が増えるという傾向にはなく、逆に技術革新は失業を低下させる可能性が大きいとの結果も出ているようです。

 ただし、短期的には、新技術により衰退する仕事に就いていた労働者は、確かに辞めざるを得ない者も出てくるかもしれません。そこでの対応として、日本は外国に比べ労働市場は硬直的とされておりますので、余剰となった労働者を容易に新しく開発された労働市場に引き受けられるような弾力的な 労働市場の開発(労働教育の充実、誘因効果等)が求められます。

 参考 「イギリスのオックスフォード大学のカール・フレイル博士&マイケル・オズボーン准教授の研究」や「野村総合研究所による研究」の内容は、「101のデータで読む日本の未来」(宮本弘暁著 php新書)のデータ・趣旨によった。
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高齢社会では財政政策の有効性が低下<退職高齢者は雇用拡大には反応せず・賃金受給なし➣乗数効果の低減>

2022-07-10 15:06:29 | 経済・歴史
 リタイアした高齢者は財政政策の有効需要の輪の中から外れる!!

  私が経済学を学んだころ1970年台は、まだまだケインズ経済学も隆盛を極めており、実にその財政政策が有効であった時期だったように思う。政府が公共投資を行うことによって有効需要は何倍にも増加していた時代でもあった。本当のところは分からないが、教科書では消費性向は、0.8(家計の収入のうち8割を消費に回し2割が貯蓄)、有効需要は1/(1-0.8)=5倍(=乗数効果)あると書かれていた。ところがである、最近(2000~2020年)財政政策の有効需要に作用する倍数(これを「乗数」ともいいます。)は、その乗数は1.3から1.1まで下がってきているという。

 さらには、「給付」(例えばコロナによる救済策としての10万円給付)として分配することもある。公共投資は初めの公共投資額の分がそっくりそのまま「公共投資」(例えば橋をかけるとか道を作るとかはそっくりそのまま企業の所得になりその中から職員給与に分配。)として使われるのであるが、「給付」の場合は、給付は個人にいきわたってもその中から消費する分は一部となり中には貯蓄に回す人もいる。したがって一段階の経済効果は、お金の回り具合は、公共投資よりも給付の方が悪い、経済効果はあまりないのである。

 またよく言われるのが、給与は年一回あがるのが普通で公共投資や給付をしても、その効果は給与に回るまでに1年ほど待たなければならない。すまわち、まだお金は回っていないのである。先ほどの乗数1.3~1.1でさえ、これは3年後の経済効果をとらえたものである。すなわち、公共投資、給付は、スパンを長くしなければ、その経済効果=乗数は大きくはならないといわれている。

 こういった乗数=経済効果は、経済学の本筋からもいえることで、乗数理論としては、教科書に初めから書かれていたものであった。しかし、宮本弘曉氏によれば、さらに高齢化がこの財政政策の効果に大きく影響するとしています。彼がIMFで行った調査研究をあげて、高齢化の進んだ経済では、財政政策の景気浮揚効果が弱くなることが分かったとしています。OECD諸国を高齢化の度合いに応じて2つのグループに分け、それぞれのグループにおける財政政策の効果を推計しています。財政政策が経済成長率の及ぼす影響は、年齢構成が若い国では大きなプラスの効果が生まれていますが、高齢化が進んでいる国では財政政策の効果が相当に低くなることを示す数字になっている。先ほどの乗数効果に再度戻りますが、公共投資は雇用機会を増加、人々の所得の増加につながります。そして、消費が拡大、総需要は増加。その増加した需要に応じるため、企業は生産を拡大、それが人々の所得を増加させるのです。それがまた消費を拡大させ、次に需要を拡大させ、次ぐ次にそれぞれを拡大していって、それが永遠に続くとした数字が、この財政政策の乗数効果です。

 ところが、この乗数効果は、先ほどの経済効果の過程で申し上げた「人々の所得の増加」は、退職した高齢者にはあまり関係しません。雇用機会が増えても、リタイアした高齢者は職探しをしているわけでもなく、雇用拡大には反応がないことになります。また彼らは、賃金を受け取っているわけではなく、先ほどの経済循環過程のどの部分にも関与していないから、退職した高齢者にはその効果は見込めないことになります。

 また、高齢者では、一般に財政政策によって消費を増やす傾向はあまり見られなく、それを増やすのは若者であることが分かっているようです。これも高齢者の消費行動としては納得できるものです。金持ちである高齢者は別として、なるべく消費はしないようにするのが高齢者でしょう。

 経済全体で高齢者の割合が高まれば、消費行動として、財政政策に対する個人消費の反応は当然鈍くなり、乗数効果もあまり上がらないことになります。特に最近国(財務省)では、2000万円の貯蓄が必要との試算の発表もあり国の方で面倒は見切れないとなると高齢者の消費行動はますます控えることになります。

 私も高齢者です。私ども「高齢者」が、財政政策については景気回復のブレーキをかけているように思えます。今から団塊の世代が後期高齢者になっていきます。ますます「どげんかせんといかん」と思ってしまいます。高齢者社会には、それに対応した「政策」が必要になるということでしょう。少なくとも現状では景気浮揚には財政政策は効かなくなっていくようです。

 高齢化を前提にお話しをしてきましたが、数字的には、日本の2020年の高齢化率は28.6%、国民の約3.5人に1人が65歳以上となっています。WHOの基準・高齢化社会(7~14%)高齢社会(14%~21%)超高齢社会(21%~)で分けると、すでに超高齢化社会に入っているのです。
 
 (参考) 高齢者の財政政策の部分は、「101のデータで読む日本の未来」宮本弘曉著(php新書)より抜粋要約(私の解釈の部分あり)した。
 
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一人当たりGNP世界33位・アジア6位<労働生産性が賃金上昇のカギ=日本中枢にいる皆さんに問う>

2022-07-02 09:22:01 | 経済・歴史
  「失われた20年」の原因は「経済を取り巻く大きな変化」に対応しきれないでいるのでは!!

  最近、経済のことを勉強していなかったからか、自分の知識が相当なかったことに気が付き、唖然としました。それは、日本の経済の世界における地位です。日本の名目GDPは、中国に追い向かれて今や3位なのは知っていましたが、それでも一人当たりではまあまあ上位にはいくだろうと思っていたからです。

 まず、国全体の名目GDPから述べてみますが、現在の順位は、アメリカ、中国、日本の順で、額にして日本は約5兆ドル、アメリカの約4分の1、中国の3分の1強の水準にしかすぎません。中国に追い向かれたのは2010年のこと、しかしこの10年の間2020年には、中国の3分の1になっていたのです。
 GDPの推移では、日本の経済成長率はほとんど伸びていません。アメリカの1990年を100としたGDPの推移は、2020年には3712、実に351倍です。中国は3712倍 実に37倍ですが、日本はこの30年間で1.6倍しか伸びていないという事実です。

 日本は成熟した国だから経済は成長しなくていいいということでもありません。高橋洋一氏は経済成長率が上がると失業率はさがるというオークンの法則を挙げていた。これは統計的に実証されている法則で感覚的にも分かると思う。まったく経済成長しないというのも困るということですが、G7のアメリカは前述の3.5倍、GDP4位・5位のドイツ・イギリスも約2.3倍になっていますので、成熟国でもそこそこの成長率の実績があるのです。

 それでも、まだ国民一人当たりのGDPはそこそこあるだろうと私は思っていたのですが、大まちがいであることが分かりました。ここに2020年の世界における国民一人当たりの名目GDP(購買力平価換算)を順番に並べたものがあります。1位ルクセンブルグ 2位シンガポール 3位カタール 4位アイルランド 8位アメリカ 18位ドイツ 25位カナダ そして日本はというと33位です。1990年代には20位前後で推移していましたが、この30年でさらに下のランクまで落ちてしまっています。それもまだアジアでは負けないだろうと考えれていた方々(私も含めて)には、さにあらんや衝撃です。先ほど出てきましたがシンガポールがアジアでの1位(世界2位)です。額にして9万8500ドル、日本4万2200ドルの倍以上の数字となっています。そして、香港(世界11位)、台湾(世界15位)、マカオ(世界17位)と続き、韓国(世界28位)に抜かれ、アジアの中でも日本は6位(世界では33位)という散々たる結果になっています。要するに、これは、一人当たりの「所得」ともいうものですから、「世界から見るとそんなに豊かな生活をしているということではない」ということになりますね。

 これほどまでに日本の国力は落ちてしまったのか。日本経済の没落は1990年前半のバブル崩壊がきっかけです。これ以降デフレが続き2010年初頭まで続いたため、「失われた20年」と揶揄されます。デフレは消費と投資を同時に低迷させて、経済の収縮を引き起こしました。政府も経済回復させようと財政支出を図り、安倍政権では異次元ともいうべき金融緩和の2重の回復措置を図りましたが、日本経済を取り巻く環境に変化(人口減少、高齢化、世界の技術進歩、グローバル化、新興国の台頭、そして思いもかけないロシアの軍事侵攻)についていけず、いまだに浮かび上がれずの状態です。政府としても手をこまねいていたわけでもありませんが、一言で言うとこの経済を取り巻く大きな環境の変化に対応しきれなかったのが、経済失速を招いた大きな原因であるように思われます。

 経済は生き物といわれます。画期的な処方箋があるかというとないのが現実です。ですが、社会保険労務士であるからいうのではないのですが、労働生産性にひとつのヒントがあるように思います。労働生産性と言うのは、労働成果のモノ・サービス(付加価値)をを労働投入量で割ったものです。ミクロで見た場合に、小規模事業者の社長は、新しく人を一人雇い入れる場合に、その人がどれだけの働き方(生産性を上げるか)をするのかに注視します。そしてそれに見合った賃金を出すというのが現実のところでしょう。つまり、労働生産性と言う計算式は頭にないかもしれませんが、実際には、労働生産性に応じた賃金を支出するのです。また、新しい機械を導入するにあたり、その機械がどれだけ生産を増やすかを考え、今度は労働量は増やさないので、その生産が増えた分だけ労働生産性は増えることになります。その労働生産性に、実際は機械の減価償却分だけを差し引き、それに応じた賃金を増やすことができます。このように、小規模事業者は、労働生産性に応じて賃金を上げるというのが実情でしょう。大企業の場合もこれに準じた行動でしょうが、賃金の上げ下げはもっと多くの要素が絡んでくるので単純にはそうとも言い切れません。

 総括的には、企業の社長さんは、労働生産性を考慮して、賃金の上昇を考えていくことになる。すなわち。賃金は労働生産性の従属変数といえるのではないかと思われます。労働生産性もまたこの10年・20年の間、あまり上がっていないのが実情です。大企業においては、リーマンショック以降急激に落ち込んだが、最近では徐々に回復しているが、中小企業においては横ばいを続けている。政府は賃金を上げるよう依頼するが、いかんせん小規模の事業ではこの労働生産性が上がらない限り、増やすのは難しいでしょう。大企業は内部留保を持っており、その掃き出しにより賃金を増やすことはできますが、中小企業者、特に小規模になると困難です。安倍首相の時代にちょっとの間、この労働生産性を盛んに言っていた時期がありましたが、労働生産性が思うように上がらなかったため、政府が賃金の上昇をお願いする時に、藪蛇になると判断したのでしょうか(推測です)、後半になると話にも上らなかったというのがあります。それ以降、この労働生産性について、言及する首相・政治家はいないように思います。

 2019年の日本の時間当たりの労働生産性は、47.9ドル OECD加盟国37か国のうちで21位、OECD平均59.3ドルを約2割下回る数字。G7で生産性が高いフランス6位・アメリカ8位の6割程度の水準です。ちなみに、1・2・3位は、アイルランド108.8ドル、ルクセンブルグ107.4ドル、ノルウェイ91.0ドルと飛びぬけています。

 経済を回すためには、この労働生産性が上がらない限り、賃金も上昇しない(※※※)し、それに応じた消費を行うことによって、次に投資を呼び込み、つぎの生産に回すことができません。この労働生産性に注目しない限り、賃金の上昇は望むべきもありません。私が言いたいのは、この労働生産性に着眼したところで、即、経済回復の手順・政策が見えてくるわけではありません。しかし、少なくとも労働生産性は全てに通じるごとく、この数値の上昇を考えない限り、賃金上昇も望めないし、さらに経済も回らない。また、労働生産性が上がればそのまま賃金が上がるかというと、そうでもなくて日本では賃金と労働生産性は世界と比べると相関関係は高くない(労働分配率の低下)。日本の中枢にいる皆さん(政治家やブレーンといわれる経済の専門家)ぜひ、何とかこの数字を上げる(誘導)政策とその労働分配の実現を考えて欲しい。

※注意 経済データのほとんどは、「101のデータで読む日本の未来」宮本弘曉著(php新書)より
    「オークンの法則」については、明解経済理論入門 高橋洋一著 あさ出版 参照
※※※ 賃金の上昇 賃金水準は、2001年以下低下傾向にあったものの、リーマンショックの影響を受けた2009年を境に上昇に転じ、20年前の水準を超えるところまで回復している。しかし、男性で見ると、回復傾向にあるものの、いまだ20年前の水準には達していない。(独立法人労働政策研究・研修機構 2021年産業構造基本統計調査分析)
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