元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

労働契約法7条の周知とは(具体的には)?<労基法106条の周知以外には考えられるの>

2016-09-24 17:58:10 | 社会保険労務士
 書棚等に設置され職員がいつでも閲覧(日音退職金事件)暫定的就業規則が全員に示され新規者には就業規則の配布(レキオス航空事件

 労働契約法第7条の規定では、労働者が詳細な労働条件を定めずに労働契約を締結した場合に=というか、一般的には雇う雇われるというような合意のみの労働契約を結ぶ場合が多いが=(1)合理的な労働条件が定められている就業規則であること (2)就業規則を労働者に周知させていたこと
という2つの要件を満たしているときには、労働契約で詳細に定めなかった部分は就業規則の内容の労働契約を結んだことになる。すなわち、詳細に定めていない労働契約をこの就業規則の内容で「補充」するのである。

 合理的であるかは、個々の労働条件について判断するほかはないが、問題は周知の意味である。裁判では、必ずしも労基法106条の規定する周知方法による必要はないとされている。この労基法の106条の周知とは、(1)常時各作業場の見やすい場所への掲示・備え付け (2)書面の交付 (3)磁気テープ・磁気ディスクその他これに準ずる物に記録し、各作業場に労働者がそれらの記録を常時確認できる機器の設置 のいずれかの方法で行うことになっているが、労働契約法7条(就業規則の内容が労働契約を補充する場合)の「周知」については、この労基法109条で定める方法以外でもよいことになる。

 そこで、この周知は実質的な「周知」で足りるとされるが、それは事業場の労働者集団に対してこの就業規則の内容を知り得る状態に置いていたことと解されている。この周知方法によって、新規の労働者も採用時または採用直後において、当就業規則の内容を知り得ることが必要である。知り得る状態なので、労働者が見たかどうかは問われない、見れる状態にしておけばよい。

 概略ここまでは、このブログのどこかに書いた記憶がある。さてここからであるが、労基法106条の3つの方法以外に実質的な周知といっても、この3つ以外には、どんな場合があるのか。考えてみれば、なかなか思いつかないところである。実質的な周知でいいといっても、労基法106条に掲げる周知で、すべて言いつくされているような気がするからである。掲示・備え付け、書面を各自に交付、パソコン等での閲覧以外に他に考えられるかである。

 しかし、裁判では次のような例がある。(あ)就業規則が各事業場で管理職員の机の中や書棚に設置され、事業場の職員がいつでも閲覧できる状況にあった場合(日音・退職金事件、東京地判平成18・1・25)(い)会社設立時に暫定的就業規則の内容が当時の従業員全員に示され、その後、新規採用者に就業規則が配付されていた場合(レキオス航空う事件、東京地判平成15.11.28) 要は、3つの方法ほどではなくても、新規従業員を含めて、皆にいつでも知り得る状態にすれば、この要件を満たすということであろう。

 ところで、労基法106条の周知とは、労基法や就業規則等を労働者に知ってもらうためのもの(整備の方法)であって、厳格な3つの方法しか、罰則・取締法規たる労基法(30万円以下の罰金、労基法106条違反)の中では示されていないが、労働契約法第7条の周知は、「周知」がなされていれば、就業規則の内容が契約の内容そのものとなる民事的な要件であって、この「周知」の意味は労働者が必要な時に見れるということであればよいということであろう。

 参考;労働法 林弘子著 法律文化社
    労働法 菅野和夫 弘文堂
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一事不再理に反しない懲戒処分には「将来同様の職場違反行為を繰り返す恐れが客観的に存在」する必要あり!!

2016-09-17 17:26:47 | 社会保険労務士
 転勤命令拒否でも起り得る一事不再理の可能性⇒すぐに懲戒するより説得・再考を促すことから・・・
 企業は、服務規律(会社の構成員として守るべきルール)を定め、この服務規律に違反した場合に、制裁罰として懲戒処分を行う。この懲戒権であるが、制裁罰であるから刑事処罰と同様に、罪刑法定主義類似の原則が適用されるところである。
 そこで、(1)使用者が労働者を懲戒する場合、あらかじめ就業規則において懲戒の種別と事由を定めておくこと(懲戒の種別・事由の明示)
     (2)それゆえ、その懲戒規定が設けられる以前の事案に対して遡及して適用してはならないこと(不遡及の原則)
     (3)同じ事案に対して複数回懲戒処分を行うことも禁止されること(一事不再理の原則)  以上のチェックが必要となる。

 さて、その一事不再理であるが、過去における懲戒処分の対象行為と、新たな懲戒処分の対象行為の間に実質的同一性が認められる場合も同じであるとされる。(水町著労働法)

 そこで、「過去に処分を受けて悔悛の見込みがない場合」と懲戒処分事由に記載されている場合において、単に過去の非違行為について悔悛(反省)が見られないという理由だけで懲戒の対象とすることは、実質的にその過去の非違行為を対象とするに等しく、一事不再理の原則違反の評価を免れないとされている。したがって、労働者が実際に悔悛の情が乏しく、ほかに各種の非違行為が累積し、将来同様の職場違反行為を繰り返す恐れが客観的に存在する場合にのみ発動できると解すべきであるとしている。(甲山福祉センター事件、神戸地尼崎支判昭58)

 この事案については、実際は一事不再理を認定した事案であり、一つの法理を述べているに過ぎないのであって、「将来同様の職場違反行為を繰り返す恐れが客観的に存在する場合」にのみ、別途懲戒処分を行うことができるとした法理を述べたものである。確かに一事不再理にならないための理論としては、そうであろうが、この場合に具体的に新たな処分ができるかとなると、「くりかえす恐れ」の認定を行うことは非常に難しいと言わざるを得ない。

 そもそも、甲山福祉センター事件は、どういう事案かと言うと、重症心身障害児施設の保母が、腰痛のため宵夜勤を拒否したことで、譴責処分をうけ、その後出勤停止の各懲戒処分を受けたにかかわらず、何ら反省の態度が見られなかったことを理由にさらに懲戒解雇された事案である。これに対し裁判所の判断は「宵夜勤命令違反については、前述のとおり、原告は同年6月24日に譴責の、同年7月12日に出勤停止14日間の、各懲戒処分をすでに受けているものであり、これに重ねて本件解雇における解雇事由として取り上げることは、一事不再理の原則の趣旨に照らして許されないものと解するのが相当である。したがって、右各宵夜勤命令を拒否したことは、それを次の懲戒処分をなすについての情状の一つとして考慮することはできても(ここに注意)、新たな懲戒処分をなすべき直接の事由とすることはできないから、このことは本件懲戒解雇事由とはなり得ないものといわなければならない」としている。再度繰り返すと、同じ宵夜勤命令の拒否は、情状の一つとして考慮することはできても、新たな懲戒処分をなすべき直接の事由とすることはできないとされているのである。

 懲戒処分においては、こういう事例はよくあることで、よく問題になるのが転勤命令拒否の例があるとして、「転勤命令を拒否した従業員をいったんけん責処分ないし減給処分とし、その後改めて転勤命令に従うよう促したものの、やはりそれを拒否する状態が継続したので懲戒解雇処分にしたというケース」である。(懲戒権行使の法律実務 弁護士石嵜信憲編著、中央経済社)
 
 このようなケースの対応として、同書では次のように述べられているところであり、参考となる。

 「転勤命令拒否は、窃盗罪といった状態犯のように、拒否した時点で業務命令が終了するわけではなく、監禁罪といった継続犯と同様に、業務命令違反は継続するため、一事不再理の原則に反していないと考えますが、裁判で争われることになると、相手は間違いなく一時不再理の原則に反していると主張します。ですから、そのようなリスクを回避するためにも、まずは当該従業員を説得し、応じない場合は再考するための時間を与え、それでも拒否する場合はやむを得ず懲戒解雇処分とするとしたほうがよいといえます。」
 
 結局、裁判を念頭におけば、一時不再理の可能性の論議は否定できず、実務においては、早急に事を推し進めるよりも、一定の過程を経て従業員の説得等の配慮を行いながら、慎重に懲戒処分を行うことを勧めている。

 
 参考:労働法第6版 水町勇一郎 有斐閣
 引用:懲戒権行使の法律実務 弁護士石嵜信憲編著、中央経済社

 
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労使慣行を就業規則の変更によって変えることは可能か<温泉旅館従業員の時間内の入湯>

2016-09-10 17:21:29 | 社会保険労務士
 不変更の合意がない限り就業規則によって労使慣行を変えることは可能!!

 水町著労働法に非常に面白い事例が載っているので紹介したいが、便宜上、2つに分けて議論する。まずは、労使慣行の話である。

 旅館業を営むホテル笹原では、創業当時から約40年間、従業員に勤務終了後、夜11時ごろから30分程度温泉に入ることを認め、その時間も労働時間として賃金支払いの対象としてきたという。

 これが労使慣行として法的拘束力が認められるかというのである。裁判例は、(1)同種の行為・事実が一定の範囲において長期間にわたって反復継続して行われること。(2)労働双方がこれによることを明示的に排除していないこと。(3)この労働慣行が労使双方の規範意識(特に使用者側は労働条件について決定権又は裁量権を有する者)によって支えられていること。 この(1)(2)(3)のすべての要件を有する場合に、事実たる慣習(民法92条)として法的効力が生じるとしているところである。(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件・最一小判平成7の高裁支持)

 (1)については、長期間にわたって反復継続とありますが、ことがらによっても違い何年続けばいいということはいえませんが、事例では創業当時からずーと40年間ですので、この場合はクリアーはしているでしょう。
 (2)については、例えば、労働協約・就業規則にも規定がないにもかかわらず20年前から全従業員に一定の賞与の支給を行ってきたところ、使用者が、この賞与の将来における継続性について、明確に否定している場合には、事実たる慣習の成立はないことになります。
 (3)については、かっての国鉄では電車の車両検査・修繕業務の従事する労働者の就業時間17時との規定があるにもかかわらず、現場の電車区長は20年前から16時30分から入浴する事を認めていた事案で、これを認めていた電車区長は就業規則の制定改廃する権限は持っていないことから、この慣行的事実は法的拘束力は持たないとされた裁判例があります。(国鉄池袋電車区事件、東京地判昭和63年)

 この他の裁判例でも容易には、この規範意識は認めれられてはいませんが、まったくないことはありません。大学教授の65歳定年の70歳までの延長(日大事件、東京地判平成14年)や一時金について1年で6か月の支給をすること(立命館事件、京都地判平成24年)について、認められています。

 例示の温泉旅館の件は、そこのところがどうであったかを詳細に検討しなければなりませんが、文面からは分からない部分が多いのですが、(1)は創業以来40年間続けられてきたこと、(2)はこの間どちらからも異議はなかったと考えられること (3)についても創業以来続けられたことでその当時の労使双方には、規範意識はあったものと思われますので、(ただし、労働者が証明するとなると、文書に残っていないと思われる労使慣行のため、困難な面はある。)法的拘束力を持つ事実たる慣習は、成立しているとみるべきでしょう。以下、労使慣行として法的拘束力が生じたものとして話を進めます。

 さて、そういった従業員にとって、労働環境の良かったこの旅館にも転機が訪れます。経営状況が悪化して取引銀行から迎い入れられた新総務部長は、従業員が勤務時間にお客用の風呂にいるなんてありえないとして、従業員にこの待遇の改善(従業員にとっては改悪か)を申し入れた。これに対し、風呂好きの従業員が集まり抗議したが、そんな抗議は認めないと回答した上で、就業規則を変更し、その中に「許可なくホテル内の入浴は禁止し、入浴した時間は就業時間には含まれない」とした。それでも納得のいかない曽我さんは、依然として毎日風呂に入り続けたところ、けん責処分を受けさらには入浴時間の賃金の支払いもされなかったのである。従業員曽我さんの入湯の楽しみはどうなるのか・・・
 
 労働契約法10条においては、就業規則を変更することによって、その変更後の就業規則を労働者に周知させ、その就業規則が合理的である場合<注1>は、変更後の就業規則が労働契約の内容になるとしています。本条文は、前の就業規則がありそれを変更することによって、従業員に不利益になる場合であっても、それが周知と合理的であるときは、変更後の就業規則が新しい労働契約の内容になるというものです。しかし、ここでは、前の就業規則うんぬんということではなく、従業員の入湯を認める従業員に有利な労使慣行があった場合に、周知と合理的な新しい就業規則を作りこれを認めないとしたものであっても、基本的な考え方は変わらず、この場合もこの10条の準用によって、新しい就業規則の規定の内容がその従業員の勤務条件を拘束することになり、結局従業員の入湯は認められないことになります。

 しかし、この10条には、但し書きがあって、労働者と使用者の間に就業規則によっては変更されないとの合意(不変更の合意)がある場合は、変更の就業規則が周知され合理的であっても、就業規則の変更の効力は及ばないとされています。逆にいうと、不変更の合意がなければ、従業員の入湯の容認という労使慣行については、新しい就業規則によって書き換えられることになるということです。言い換えると、不変更の合意がなく、新就業規則が周知され合理的であれば、従業員にとって有利な、かつ有効に成立していた労使慣行は破棄されることになります。

 この合意が認められるかですが、明示されたものがあればいいのですが、労使慣行という性格上、ほとんどが黙示の合意でしょう。そこでその認定は、合意内容の性格や合意に至った経緯等を考慮の上、両当事者が不変更の合意の意思を持っていたかどうかという意思解釈にゆだねられることになります。

 そこまで言われると、従業員曽我さんには、経営状況の悪化は後の問題としても、これに対し不変更の合意があったかどうかを証明するのは、非常に困難な状況に落ちいることになりでしょう。

 <注1>この合理性の判断は、この労働契約法の10条で裁判の趣旨を変更することなく整理した形で挙げているが、判例を基本に、この合理性について述べると、(1)就業規則変更によって労働者が被る不利益の程度 (2)使用者側の変更の必要性 (3)変更後の社会的相当性(変更後の内容の相当性、世間相場の比較) (4)労働者の不利益を緩和する措置(代償措置、経過措置等) (5)手続きの妥当性(労働組合との交渉経緯、他の従業員の対応)などを総合判断すべきとする。

 参考 労働法 第6版 水町勇一郎著 有斐閣
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労基法適用除外は(1)同居の親族のみの使用(2)家事使用人、労契法除外は(1)のみはなぜか?

2016-09-03 16:29:16 | 社会保険労務士
  刑罰・行政取締の性格を持つ労働基準法と民事規定の労働契約法との「目的」の違い!!
 
 労働基準法は、(1)「同居の親族のみを使用」する事業と(2)「家事使用人」については適用しないとしているのに対し、労働契約法は、(1)「同居の親族を使用する」場合だけを、除外するとしている。除外しているのが、労基法は2つ((1)と(2))なのに対し、労働契約法は最初のひとつ(1)だけである。この違いはどうしてであろうか。
 
 これは、それぞれの法律の目的の違いにある。労働基準法は、民事関係の規定もあるが、刑罰と行政取締法であるという側面を持つのに対して、労働契約法はその名のとおり、民事関係のみの法律であるということである。

 労働基準法が刑罰や行政取締法の性格を持ち、束縛する面をもつことからすると、親族関係(1)や家庭の中(2)には、入り込まない方がいいという考えがあったと考えられる。言葉を換えて言うと、親族関係や個人の家庭内への介入は控えた方がいいということであろう。

 一方、労働契約法はどうだろうか。労働契約法は、刑罰や行政取締りの効果はないし、あくまでも民事的な関係を律する法律である。しかしそこにおいても、「同居の親族のみを使用」する特殊な関係のところに、一般の民事的な法律は入りこまない方がいいとの判断であろう。例えば、親子でやっている「親子関係」の事業に、いくら契約法とはいえ、適用は控えるべきであるとの判断である。

 しかし、家事使用人については、使用者との関係は他人であると考えられるところで、民事紛争が起こることは当然考えられるので、この関係において労働契約法の適用ありとしたものであろう。

 
 参考 荒木尚志・菅野和夫・山川隆一著 「詳説労働契約法」第2版 弘文堂
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