元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

昇給は、一般的には労働者の権利とはなっていない。

2011-07-11 06:43:16 | 社会保険労務士
 就業規則~「昇給」について

 昇給は、労働基準法では、労働契約の締結に関し、労働条件を明示しなければならない「事項」として出て来ますし、就業規則を規定した条文においても、必ず記載しなければならない「事項」として出てきます。
 
 しかし、この労働基準法では、この事項として顔を出すだけで、昇給の方法や時期等の具体的な昇給の内容については、全く触れられていません。法律的には、昇給の内容そのものについては、使用者の決定に任されているといえます。とは言え、いや、だからこそ、労働者で組織する組合側と使用者側で、賃金獲得を行う春闘等が毎年行われているともいえます。
 
 そうなんです。法律的には、昇給の中身については、労基法では何も決まっていないのです。しかし、就業規則には、始めに述べたように、昇給の規定は置かなければならないので、そこに規定すれば、昇給の内容は、決まってくるのではないかという疑問が生じます。

 ところで、採用の際に、採用される者と使用者の間で、将来にわたっての、賃金昇給の具体的な取り決めがあれば、その取り決めが各人の労働契約となり、その各人の労働契約が当然適用になりますが、そういった昇給の具体的な取り決めをすることは、まれでしょう。
(*ただし、就業規則の内容が各自の労働契約の内容より勝っていた場合は、就業規則が優先します。)

 そこで、やはり就業規則の存在が問題となるわけですが、労働契約法では、雇い入れの労働契約を締結する際に、その就業規則の内容が、合理的な内容で、かつその就業規則が労働者に周知されていた場合は、その就業規則の内容が、労働条件となりますので、一般的には、昇給という労働条件についても、就業規則の定めが大きくそのカギを握っているといえます。(労働契約法7条)
 
 この点について、安西愈弁護士によれば、次のように述べています。
 →定期昇給を使用者が法律上義務づけられるのは、就業規則や労働協約(次の段落で説明がされているが、労働組合と使用者の話し合いを文章にしたもの、甲斐注)で、具体的な義務を負っている場合(アップ金額や率等の基準の設定をしているとき)であり、単に「毎月4月1日に定期昇給させる」とある場合には、抽象的な義務にとどまり(定昇義務はあるが金額を使用者が決定しない限り請求権とならない。)、「定期昇給させることがある。」と定めるにすぎない場合は、努力規定にとどまり抽象的な義務にもならない。←とされています。(「採用から退職までの法律知識」中央経済社)
 
 したがって、就業規則で、賃金を上げる時期や金額がいくらとはっきり定まっていない限り、昇給は、使用者の具体的な義務にはならないことになります。
 
 経営的な観点から申し上げると、賃金は固定費用と考えられているものであり、利益があろうとなかろうと、一定の支出は、必要な費用です。経営者は、賃金は、利益を上げるためには、一定額は必ず支出するようにしなければならない費用であります。そこで、当然のこと、経営者としては、昇給は、固定費用の増加であり、利益がどれくらいかが昇給させるかを考慮すべき一つの大きな判断になります。一方、労働者としては、これだけがんがったのだからとか、これだけ勤めてきたのだからとか、別の要因によって、昇給の要求が考慮されることになり、うまく一致点を見出すことができないところに問題があります。
 
 だからこそ、労働基準法という法律に、昇給の方法や時期、ましてや金額は決めずに、昇給は使用者の定める就業規則で具体的に決まっていればその時に、それがなければ、労使の話し合いによるようになっているのでしょう。ここに、労働者の団結による「労働組合」との協議の結果、文書でまとめる労働協約の大きな意味もあるのでしょう。
 
 労使どちらの見方をするわけではありませんが、就業規則には、昇給のことは書かなければなりませんが、書き方によっては労働者の権利・使用者の義務ともなりますので、使用者としては、一定の時期に「昇給させる」規定をそのまま置くとしても、経営状況等により、行わないことがある旨の昇給の留保の規定をおかなければ、倒産に至るような悪化した経営状況になったとしても、理論的には、時期がくれば昇給しなければならないことになります。
 
 森紀男・岩崎仁弥共著による、「リスク回避型就業規則・諸規定作成マニュアル」(日本法令)のモデル就業規則では、最近の情勢では、「降給」もありうるとの前提で、降給を含む「賃金の改定」として表現し、「改定」は毎年○月○日に行い、改定額については、会社の業績及び従業員の勤務成績を勘案して各人ごとに決める旨の規定がありますので、参考までに紹介しておきます。
 
 あなたの会社の就業規則の昇給について、再度確認しておきましょう。
→追伸;えっ、何も書かれていないって。必須事項です。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする