緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

ショパンバラード第1番が気づかせてくれたこと

2018年03月25日 | つれづれ

記憶は、一旦海馬に運ばれ、
そこから大脳皮質にファイルされます。

ファイルされた記憶は思い出し易く、
その手前の海馬に留まっている記憶は
忘れやすいことが知られています。

ですから、
遠い記憶は時間がたっても思い出されやすく、
さっきの出来事はファイルされておらず、
すぐに忘れてしまったりします。

幼少時の誕生日のメニューは覚えていても、
昨日の朝ご飯は思い出せないこともしばしばです。






今年度ももうすぐ終わり。
外は桜がとても綺麗です。

久しぶりに、昼間のピアノコンサートに行っていました。

牛田智大さんは19歳。

彼が12歳の時のピアノを聴いたことがあり、
手が大きくなったら、
楽しみだなあと思っていました。

今回、ショパン一色で、
本当にメジャーな曲が並び、
バラード第1番ト短調Op.23は、
羽生結弦さんのフィギュアでもよく聴きます。

演奏は可憐でとても素晴らしいものでした。

ただ、どうしても、私の耳には、
出だしも、その後も、何か違う感覚でした。
フォルテになるとその違和感は無くなりましたが・・





帰宅して、過去に聞いたことがある
演奏家のyoutubeを聴き比べてみて、
驚きました。

出だしがゆっくりのホロビッツ、
ルビンシュタインは、それに続くところがきちんとした3拍子。
アシュケナージは、そこがもう少し早くて、
アルゲリッチは、とても妖艶に歌います。
キーシンは、ルビンシュタインにスタイルが似ている・・

6人目のポリーニを聴いた瞬間、
私がバラードだと感じていた演奏は、
これだ・・・と確信しました。

何十年も前、母に連れて行かれたポリーニの演奏会。
小学生だった私には、
良いかどうかなどは
全然わかっていませんでした。
ただ、その後、
とても魅かれて買ったショパンのレコードを
何度も聴いていたことも思い出しました。







私がある病院の緩和ケア病棟に勤務していた時のこと。
とても、クラシックが好きな患者さんが
よく病室で聴いていらっしゃいました。

「ずっと好きで、聴いていると
 落ち着きます。
 昔を思い出しますね。」

というような内容のことをおっしゃったように記憶しています。





音楽療法という言葉がある位ですから、
確かにそうだと思ってはいました。

ただ、今回のバラードのことで、
同じ曲を聴きながらも、
古くから聞きなれていた演奏を
安寧な旋律として記憶していて
無意識にそれを
聞き分けているものなのかと
その繊細さに驚きを感じました。




知識や出来事の記憶だけではなく、
情緒的な無意識の記憶に
もっと配慮したり、
一緒に考えてみることが
できるようになりたいと思いました。

心の奥底の感情に触れることの多い
緩和医療の中だからこそ、
繊細さを大切にしたいと
気づけた一日でした。

医療のことだけを考えていてはいけないなあ・・とも。。
視野を広げて、感度を上げていこうと思います。


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