プロメテウスの政治経済コラム

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対イラン攻撃に備える米英イスラエル  それに一役買う天野IAEA事務局長

2011-11-30 19:18:36 | 政治経済

イランのイスラム体制派民兵組織「バシジ」に属する学生らが29日午後、在イラン英国大使館を襲撃した事件で、英国のキャメロン首相は同日発表した声明で「イラン政府は重大な結果を見ることになる」と述べ、イランに対する報復措置を示唆した。オバマ米大統領も「容認できない」と非難しており、イランの核兵器開発疑惑に端を発する欧米とイランの対立は、風雲急を告げている。
米国がIAEAにイランの核兵器開発を非難する誇張的な報告書を書かせ、それを受けて米英イスラエルがイランを空爆しようとする流れは、03年のイラク侵攻の直後から何度も繰り返されてきた。しかし、実際の空爆は行われず、オバマ政権になってからの近年は、騒ぎが低調になっていた。それなのに、今また騒ぎが再燃した背景には、米軍が今年末までにイラクから撤退することになったことがある(田中宇の国際ニュース解説「米軍イラク撤退で再燃するイラン核問題」2011119日)。

 

今回のイラン学生らの在イラン英国大使館襲撃事件のきっかけをつくったのは、118日発表されたIAEAの天野之弥事務局長リポートである。イランの核兵器開発への疑惑をかつてなく強調した報告書を発表したことで、米国とイスラエルのメディアが、イラン攻撃の可能性についてきわどい報道を始めた。イスラエルのメディアは、ネタニヤフ首相がイランの関連施設の攻撃命令を検討している、とまで伝えた。このIAEA報告が、対イラン攻撃に備える米英イスラエルに恰好の口実を与えたのだ。日本外務省OBの天野氏は、就任前に米国側に「すべての重要な戦略的決定で米国側に立つ」と約束したこと(内部告発サイト・ウイキリークスが暴露)で有名な対米従属派である。ところが、この報告書に書かれている情報の多くが、2003年以前に得られたもので、すでにIAEAが報告しており、新たに裏付ける確かな情報はないことが明らかになった。中立を堅持したエルバラダイ前事務局長と異なり、米国寄りに偏っている天野氏のリーダーシップのもと、米国の対イラン強硬策を支援する意図で、わざわざ今回の報告書が出された可能性が十分ある。イランのアハマディネジャド大統領はさっそく天野氏を名指しで「米国の手先だ」「米国の主張を繰り返しているだけ」と非難した(坂井定雄・龍谷大学名誉教授「イラン攻撃の道を開く天野IAEA事務局長」リベラル21)。

 

米軍は、イラクに残っている3万人あまりの兵力のほとんどを12月前半までに撤退させ、クリスマスまでに撤兵を完了する予定である。イラク議会が米兵の訴追免責特権を認めなかったからである。訴追免責特権は帝国主義軍隊にとって死活問題である米軍撤兵後のイラクでは、イラクの多数派であるシーア派とつながっているイランの影響力が増すことは必至である。イランはイスラエル近傍のシリア、レバノン(ヒズボラ)、ガザ(ハマス)などに影響力を持っており、イランが強くなると、イスラエルにとって大きな脅威だ。イランの核問題をさかんに蒸し返している背景には、イスラエル、米英国の親イスラエル勢力の焦りがある。

 

イランは、欧米に経済制裁されるほど、中国やロシアとの経済関係を強める傾向にある。米国はEUや日韓などの同盟諸国にも、イラン制裁に協力させているが、欧州や日韓の企業がイランとの契約を破棄して出て行った穴埋めは、多くの場合、中国企業の市場参入で終わる。中国とイランとの貿易額は1年間で3割以上増えた。米国がイランを敵視するほど、日韓や欧州諸国が不利益を被り、その分、中国が儲かる構造になっている。対米従属は経済的にもまったく割に合わない。

 

米国の好戦派は、イスラエルに「早くイランを攻撃しろ」とせっついている。しかし、イスラエルが先制的にイランを空爆しても米軍が動かないと簡単には動けない。英国も同様である。

米軍はイランを攻撃する可能性はあるのだろうか。

匿名のイギリス情報筋は、ガーディアンに、アメリカのオバマ大統領は“来年11月の大統領選挙前に、新たな挑発的軍事的冒険に乗り出すことを望んではいない。だが、西欧諜報機関が収集した機密情報を巡って、懸念が増大しつつあるため、計画は変わる可能性もあると彼等は警告した。”ある英国政府幹部は、こう述べた。“選挙直前には、ことをかまえたくはないだろうから、オバマ大統領は今後数ヶ月中に重大な結論を下すはずだ。”(「マスコミに載らない海外記事」World Socialist Web Site  4 November 2011)。

いまのところ、米軍がイランを攻撃する可能性は低い。米軍はイラクからもアフガンからも撤退する方向であり、オバマを批判している共和党のマケイン上院議員でさえ、米国が中東で新たな戦争を起こすことはできないと認めている。とはいえ、何かの計算違いから、米軍、英軍もしくはイスラエル軍が、イランと戦争に入る可能性がまったくないとは言えないそれに一役買った天野レポートの罪は深い。

 


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