プロメテウスの政治経済コラム

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野田首相の「肩車社会」論をどうみるか  一部の真理の誇張で全体を誤魔化すレトリック

2012-04-10 20:13:22 | 政治経済

財界の命を受けた財務官僚の指示通り、消費税大増税と社会保障の「一体改悪」を推進する野田首相が好んで使うレトリックが、「胴上げ、騎馬戦、肩車」社会論である。半世紀前には65歳以上のお年寄り(65歳以上)1人をおよそ9人の現役世代(20~64歳)で支える「胴上げ」社会であったが、いまは高齢者1人を現役世代3人で支えている「騎馬戦」型、そして2050年には高齢者1人を現役世代1人で支える「肩車」型になる―。だから、増大する社会保障費はとても今のままでは負担できない。高齢者に偏る社会保障費は削減し、高齢者も含む「全員」が負担を分かち合う消費税を増税して財政危機をこれ以上悪化させてはならない。馬鹿な政治家ほど、一度気に入ったと思ったレトリックを何度も使いたがるものである。しかしこれは、国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口(平成18年推計)の概要」にある自然年齢の人口構成比の変化を解説しているだけで、消費税大増税と社会保障の「一体改悪」とはなんの関係もない。

 

国立社会保障・人口問題研究所の資料には、「人口ピラミッドの変化(2005、2030、2055)」というデータが収録されている。そして、2005年(実績)、2030年(中位推計)、2055年(同左)と並んだ帯状グラフの下に、(65歳~人口)/(20~64歳人口)、つまり、老年者1人に対する現役世代人数を示す数字が記載されている。それによると、2005年は1人/3.0人であったのが、2030年には1人/1.7人に、2055年には1人/1.2人、となっている。これに飛びついて野田首相は、現在は「若者3人でお年寄り1人」を支えているが、40年後には「若者1人でお年寄り1人」を支える社会になる、このままでは若者の負担は3倍になると言うのである。しかし、財政による社会保障費の支出と人口構成とは、よく考えれば、直接何の関係もない。
人口ピラミッドの推計をこのように社会的扶養比率に転用するのは、統計数字の使い方に限定しても初歩的に誤りである。一つは、分子の決め方の錯覚であり、もう一つは、自然年齢で扶養者/被扶養者の推移を輪切りして、長期的な社会的扶養比率(扶養する側とされる側の人数割合)を推計する手法の誤りである。
野田首相の錯誤を平たくいうと、現役世代は自分のことは脇において、ひたすら老年世代を養うだけかのような分数計算をしているということである。加えていうと、野田首相が使っている扶養比率では、扶養される側にあるはずの年少世代がすっぽり抜け落ちている。
分母=扶養する人口=現役世代人口(≒生産年齢人口)
分子=扶養される人口=現役世代人口+年少人口+老年人口=総人口
としなければならい。
これでいくと、
現在(2010年):現役世代100人で156.7人(現役世代の100人+老年者・年少者56.7人を支える状況 → 現役世代1人で1.6人)を支える状況
2037年:180.0(現役世代1人で老年者・年少者1.8 人を支える状況)
2060年:196.3(現役世代の1人で老年者・年少者2人を支える状況)
というのが正しい。とすると、50年後の現役世代の扶養負担は現在と比べて1.25倍(=2÷1.6)と言うのが正しいのである(醍醐聰のブログ「肩車社会論のまやかし」2012.03.20)。

 

もともと、自然年齢で扶養する人口と扶養される人口を区分するのは、現実を見ないまやかしの議論である。はっきり言えば、社会保障制度改悪を正当化するための脅しに使う悪質なレトリックにすぎない
なぜなら、扶養者とは所得稼得者を指すはずであるから、労働力人口(正確に言えば一定の所得のある就業者数)がそれに該当する。しかし、生産年齢人口のうちどれだけが労働力人口を構成するかは時代を超えて不変ではなく、失業率、定年制や女性の労働市場への進出の程度、高校・大学への進学率など、時代の推移とともに変化する。65歳以上の高齢者も一様ではない。現役世代と変わることなく働いている人もいれば、大企業の役員や財界団体の幹部、大資産家など現役世代以上に多くの収入を得ている者もいる。高齢者を一律に捉えることは、若・中年者の負担感や不安感を実態以上に高め、世代間を分断し、国民の不安をかきたてるレトリックである。

 

たしかに、高齢者の増大は、年金・介護・医療などの高齢者3経費の増大につながる。しかし、財政による社会保障費の支出の問題を考えた場合、社会保障経費の支え手の弱体化も、財政赤字の増大の原因もいずれも、現役世代が減少し、高齢者が負担しないからではない
財政の担ぎ手は、個人所得税、法人所得税、金融資産も含めた資産税、消費税などがある。担がれるほうには、社会保障費もあるが、公共事業費、教育費、軍事費などがある。財政赤字増大の原因は、高齢化などと言う理由ではなく、支配層の既得権益を保障する無駄な財政支出、個人・法人所得税の連続的引き下げ、大企業・金持ち優遇税制、勤労者所得引き下げなどによる景気低迷と税収不足が原因である。簡単に言えば、本来社会保障や財政の主たる支え手であるべき、またあった、大企業や高額所得者が逃げてしまい、逆に、肩車の上に乗ってしまったところに、財政危機の大きな原因があるのだ。


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