プロメテウスの政治経済コラム

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憲法96条の改正  これから始まる保守支配層の国民総攻撃への前哨戦

2013-03-31 22:16:09 | 政治経済

日本の保守支配層の中核にある多国籍大企業は、国家権力を使い、労働者階級や中小企業に犠牲を転嫁することで、何とかグローバル市場での競争に打ち勝ち、順調すぎるほどに資本蓄積に成功してきた。しかし、世界の先進資本主義諸国は、無制限な金融緩和を続け、インフレターゲットを設定して、バブルを無理やり起こそうとするほかないところまで追い込まれていることも事実だ。これまで犠牲を転嫁してきた国民がこれからもじっと我慢を続けるかどうか、先は読めない。マスコミ動員などによるイデオロギー操作にも限界がある。保守支配層が生き残りをかけて国民総攻撃へ打って出るとき、その最大の障害になるのは、今なお、世界でもっとも先進的な日本国憲法である。憲法96条の改正の狙いが日本国憲法の本質を骨抜きにするものであること、これから始まる保守支配層の国民総攻撃への前哨戦であることをしっかりとつかまなくてはならない

 

憲法96条の改正という動きが、じわじわと本格化してきたようだ。国会による憲法改正案の発議の要件を、衆参各議院の総議員の「3分の2」から「2分の1」に緩和しようというのである。憲法を改正しやすくするために、ハードルを低くする。憲法改正の本命である9条改正の前に、「細かな手続の話」だからと誤魔化せば、合意を得やすいし、一回やれば改憲慣れして、9条改正も容易になると思ってのことか。3分の2か、過半数かという「数字の問題」なら、一般の人々を煙に巻けると思っているのだろうか。しかし、ことは単純な憲法改正手続きの話ではないのだ。
私は、憲法96条が、憲法第10章「最高法規」の直前に置かれている意味を今一度、再確認する必要があると思う。第10章「最高法規」には、基本的人権の永久不可侵性(97条)、憲法に反する法律等は無効であること(98条)、そして公務員の憲法尊重擁護義務(99条)を定める3箇条の条文が置かれている。憲法が国の最高法規だというとき、それは、憲法違反の法律等は無効だということだと一般的には思い浮かぶ(つまり憲法98条の規定だけ)。しかし、大事なことは、憲法97条で、この憲法の中心的な目的は、永久不可侵の人権を保障することであること、また、99条で、憲法が権力担当者に向けられた規範であることを明記することによって、憲法が最高法規であることの実質的根拠を明記していることである

 

そもそも、憲法とは何か。それは権力を制限する規範であり、多数者によっても奪えない個人の自由や権利を守ることを柱とする最高法規であるということだ。改正要件が厳しいのは、憲法自身の性格による。つまり、改正の要件を「2分の1」に緩めるということは、憲法を普通の法律と同じレベルに貶めるということを意味する。それは、権力を縛るという憲法の性質そのものを変えてしまう極めて危険な試みなのだ。
この点で、自民党改憲案(2012年4月27日)は非常に分かり易い。憲法第10章「最高法規」の中の基本的人権の永久不可侵性(97条)を全面的に削除する。そして、現行憲法99条で、天皇・大臣・裁判官などの公務員の憲法遵守義務を定めていることに対して、自民党改憲草案は、国民の憲法尊重義務を明記する。これでは、憲法を守るのは国家権力の側、国民は守らせる側であるという憲法の性格が根本から変わってしまう。日本国憲法が最高法規であるという本来の意味での憲法ではなくなってしまうということだ

 

なぜ、保守支配層は日本国憲法を敵視するのか。

昨年の憲法記念日の5月3日、「朝日新聞」国際欄にワシントン発で、米国の法学者が188カ国の憲法を分析した結果、「日本国憲法は今も最先端」と報じた。海外の法学専門家も日本国憲法の先進性を評価し、「押しつけ憲法 改正」論を「奇妙なこと」として「日本の憲法が変わらずにきた最大の理由は国民の自主的な支持が強固だったから。経済発展と平和維持の成功モデル」などと語った。日本国憲法で、すぐに思い浮かぶのは戦力の不保持と戦争の放棄をうたった9条だが、世界でいま主流になった人権の上位19項目までをすべて満たす先進ぶりは、もっと評価されてよい。「65年も前に画期的な人権の先取りをした、とてもユニークな憲法」(バージニア大学のミラ・バースティーグ准教授)なのだ。
自民党の憲法改正草案は、その先進性をことごとく破壊する。保守支配層にとって、自らの生き残りをかけて、国民に対し搾取と収奪を強めていくほかないなかで、憲法の人権保障と平和主義は最大の障害物である。 

日本維新の会とみんなの党は3月14日、国会内で幹事長・国対委員長会談を開き、憲法改正の発議要件を定めた憲法96条の改正に協力して取り組む方針を確認した。昨年末の総選挙の結果、自公が3分の2を超える議席を獲得、改憲に異常な執念を燃やす安倍自公政権の発足、改憲を露骨に主張する反動的突撃隊・日本維新の会が第3党になるなど政党配置に大きな変化が生じている。夏の参議院選の結果次第では、「3分の2」を「2分の1」に緩和する96条改正が現実化する可能性が非常に高まっている。私たちは、96条がもつ意味を改めてつかみ直す必要があるだろう。そのときのキーワードは、憲法第10章「最高法規」の全条文である


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