グルジア紛争を巡る米欧とロシアの対立―目立つのは大国の勝手ばかりである。NATOのコソボセルビア空爆は正当化されている。だからロシアの対処も正当。グルジア問題でロシアが非難される筋合はない。しかも、今回のグルジア軍による南オセチア自治州攻撃は、共和党マケイン候補を押し上げるためのブッシュ政権の陰謀だ。これではいくら米欧とその追随勢力がロシアを批判してもロシアは動じない。救いは、ロシアが支持取り付けを狙った上海協力機構首脳会議が一定の良識を示し、ロシアの誘いに乗らなかったことである。
日米欧の主要7カ国(G7)の外相は28日、グルジアの南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を承認したロシアに対して「グルジアの領土保全および主権を侵害した」として強く非難する声明を発表した。声明はロシアの行動について「ロシアも支持した一連の国連安保理決議に反する」と批判。カスピ海と黒海を結ぶカフカス地域の平和と安全へのロシアの貢献に「疑問を生じさせた」としている。さらに、グルジアとの軍事衝突について「ロシアの過度の武力行使と、グルジア領の一部の占領継続は遺憾」だとして、紛争前のラインまで部隊を撤退させるよう求めた(「朝日」2008年8月28日18時26分)。
このG7の外相声明それ自身は正論である。多民族共生地域のどこもかしこもが分離独立だと言い出したら収拾がつかない。民族紛争の背景には、政治的、経済的、社会的に一方の側による他方への差別、抑圧、搾取等の不利益の強制がある場合が多い。平和的に対等の関係で共存しておれば、分離独立の必要がない。分離独立の要求を武力で抑圧しようとすれば、抵抗勢力も武力で対抗することになりがちだ。大国がそれぞれの思惑から一方に肩入れすれば、他方も別の大国に頼る。そして罪のない一般民衆が武力衝突の犠牲になる。
タジキスタンの首都ドゥシャンベで28日、上海協力機構(SCO)首脳会議が開かれ、南オセチア自治州をめぐるロシアとグルジアの紛争について、対話による平和解決を求める声明を発表した。現地発のロイター電は、ロシアが「アジアの同盟国の支持をとりつけることができなかった」と報じた(「しんぶん赤旗」2008年8月29日)。
SCOはロシア、中国と中央アジア四カ国が加盟する地域協力機構。首脳会議でロシアのメドベージェフ大統領は、参加国にグルジアへの侵攻の正当性を訴え、南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を承認したことへの支持を取り付ける予定であった。しかし、当事者間の問題解決への努力を大国が軍事力を背景に介入することに難色を示した。「SCO加盟国は、南オセチアをめぐる最近の緊張に深い憂慮を表明し、各当事者が対話を通じて問題を平和的に解決し、和解と話し合いを促す努力をはかるよう求める」と表明したのだ(「しんぶん赤旗」 同上)。
ロシアが強気になる背景には、自国の最近の経済力の回復、米国のイラク、アフガンの失敗などがあるが、道義的にも米軍を中心としたNATO軍のユーゴ・セルビア空爆とコソボ独立に対する欧米諸国の対応だけがなぜ正当化されるのかといういわゆる欧米大国のご都合主義、二重基準がある。欧米大国には、ロシアを批判する資格がないと言うわけだ。
国連憲章や国際法は、大国が違反し無視するときには誰もそれをとめられないという悔しい現実がある。非同盟諸国の団結の力で大国の横暴を一つ一つ道義的に追いつめて行くほかない。そして政治的にも、経済的にも大国に負けない力を団結によって生み出し、国連憲章や国際法、道理が通る国際秩序形成に向かって努力を積み重ねることだ。
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