大阪市長と大阪府知事のダブル選挙は「大阪都構想」を掲げた橋下徹前府知事ら大阪維新の会の圧勝だった。生活保護受給者や刑法犯認知件数などが多く、失業率や府内総生産も悪化の一途をたどる大阪府民は、橋下らのハッタリに望みを託した。大阪の地盤沈下は、歴史的にもたらされたものであり、「大阪都構想」などで救えるほど甘くないことは、すこし真面目に考えたらわかることだ。私は、大阪B級府民が、「独裁」か「民主主義」かというような高尚な議論に関心を持つはずはないと思っていた（その意味で共産党は何もわかっていない）。彼らの本当の関心は、「景気・雇用対策」であり、「医療・福祉」や「教育・子育て」なのだ。しかし、平松も民主党も自民党もなにもしてくれない。彼らは、階級的に財界の政治代理人なのだから、はじめから期待できない。と言って、共産党には世の中を変えるような力もない。B級府民は、自ら変革主体になるような甲斐性がないから、ただ、苛立ちを募らせ、不満を鬱積させた。そして、橋下の３年余りの大阪府知事としての実績を調べてみたら咲洲庁舎移転に代表されるように、府民に害をもたらしただけだが、目先を大阪市にすり替えられて、８～９の特別自治区に分け、区長は公選にして中核市並みの権限と財源を持たせ、「世界からヒト、モノ、カネを集め、パリやロンドンに負けない都市にする」というおよそ荒唐無稽な宣伝にコロッと騙された。
大阪市、大阪府を解体して「大阪都」に制度変更しても、パリやロンドンに負けない都市になることなどありえない。橋下は、注意深く東京に負けないとは言わなかった。あまりにも身近すぎてハッタリが直ぐバレルからだろう。大阪の経済の地盤沈下はいまに始まったことではない。関西経済を支えた繊維産業、家電産業、重化学工業が次々と比較優位を失い弱体化、空洞化が進み、大企業本店とエリート層はすべて東京へ移転した。世界からヒト、モノ、カネが集まるとすれば、大阪ではなく東京だ。大阪市を解体して財源を奪って土木工事やモノレールを建設してカジノを呼んでみても、大阪府民の「景気・雇用対策」になるはずもない。「役人天国」と揶揄される市役所職員の高い給与水準や、府市による「二重行政の無駄」などを攻撃しても、合併効果はたかがしれている。大阪や横浜のような政令市の区と異なり、それぞれ特別区にして、首長と議員を選挙で選び、議会も維持するとなると膨大な行政コストがかかる。東京都の一般会計は年間約６兆円規模で大阪府の約２倍。大企業やエリート層の多い東京は、財政力があるので特別区制度が機能しているが、大阪で特別区制度を運営することは無理だ。これから、区割り案や財源調整案が具体化すれば、いくら「独裁」橋下でも立ち往生することが目に見えている。
橋下は「野蛮な新自由主義を体質にした強権的独裁志向の二流タレント」（神戸大・二宮厚美教授）に過ぎない。何ごとも「お上」任せで、強いリーダーを待望するだけの大阪府民―これは大阪だけに限ったことでないが―には一時的に大受けしても、やがて、大阪の人々の前には今以上に厳しい現実が立ち現れてくることは必定である。橋下の関心は、「強い者が勝つ、勝った者が正しい、弱い者は従え、従わない者は切る」ということだ。そのためには、横柄、傲慢、尊大な言辞でメディアの注目を浴び続けることだ。橋下の奴隷となった大阪市や府の職員が府民や市民のために、効果的な「景気・雇用対策」や「医療・福祉」施策を行うはずがない。「首長→教育委→校長→教師」の上意下達で目指される「教育」は、多くの保護者が不満を感じている大阪の教育の現状の改革とは縁もゆかりもない。「グローバル社会に十分に対応できる人材育成」「激化する国際競争に対応できる（教育）」は、自民党・安倍時代の「教育再生会議」が掲げた目標の蒸し返しに過ぎない。
橋下の「ルサンチマン」（社会に対する憎悪と復讐の念、私怨）から生まれた「破壊力」に縋るほかない大阪府民は哀れである。かつて、小泉構造改革に熱狂した国民の期待は、貧困化、格差拡大の現実となって見事に裏切られた。「自民党をぶっ壊す」と言って、実際にぶっ壊したのは日本の経済と社会だった。リアリティのない夢と「独裁」を任じて恥じない強力なリーダーシップに縋るほかないほどに、大阪の現実は厳しい。主体的に立ち上がらないでエセ・リーダーを求めるだけのB級府民を憐れむことはたやすい。真に憐れむべきは、彼らを変革主体として共にたたかう展望を提示できない革新勢力の無力さである。
