プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

イスラエルのレバノン侵攻40日 本当に戦争は終るか

2006-08-21 18:00:00 | 政治経済
今回のイスラエルのレバノン攻撃は、イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラに人質にとられた兵士2人の救出という名目で開始されました。しかし、初めからベイルートのすぐ南の高速道路を爆撃し、続けざまに空港や発電所、橋、幹線道路を破壊し、海上封鎖したことに見られるようにアメリカとの事前打ち合わせによるレバノン全体に対する攻撃でした。イスラエルに武器を援助するアメリカ軍需資本が喜んだことはいうまでもありません。

イスラエル国民は、当初は圧倒的にイスラエル軍のレバノン侵攻を支持していましたが、レバノンへの大規模な攻撃にもかかわらず人質兵士奪還の見通しが立たず、ヒズボラが発射したロケット弾がイスラエルの北部の町や軍艦を直撃する事態にオルメルト政権が強行した武力攻撃に疑問をぶつけ始めていました。
オルメルト首相を中心とする治安閣議が9日、レバノン南部での地上戦拡大を決定した頃からそれまで政府の方針を支持してきた政党や市民団体に変化が表れました。停戦後、「勝利」宣言したオルメルト首相に対し、軍事攻撃で問題は解決しないという左派からの批判ともっと効果的な戦争でヒズボラを壊滅させるべきだったという右派からの批判の両方が政権基盤の弱いオルメルト政権を揺さぶっています。

イスラエルはこれまでも何回も国連安保理決議違反を繰り返し、数々の占領や越境攻撃で夥しい数の民間人(子ども女性も多数を占める)を殺戮してきました。しかし、そんなことを何度繰り返してもイスラエルの安全が確保される方向に進んでいません。今回も「拉致された兵士を解放できなかった」「ヒズボラのロケット砲攻撃阻止に失敗した」「ヒズボラを武装解除できなかった」と国内で批判にさらされ、国際的にはイスラエル軍のレバノン侵攻・空爆を機に、ブッシュ米政権の掲げる「中東民主化構想」へのアラブ世論の怒りが爆発し、反米世論の高まりに親米アラブ指導者も不安を隠せない状況に追い込まれています。米、イスラエル連合対アラブの関係はいっそう不安定化しただけでした。

国連安保理決議に基づき、レバノン軍と国連レバノン暫定軍(UNIFIL)が紛争再燃を回避するための緩衝地帯創設にむけて動き出しています。決議は、イスラエルとレバノンに対し、〈1〉国連が定めた国境線の尊重〈2〉リタニ川と国境間にレバノン軍とUNIFILが管理する緩衝地帯を設置〈3〉ヒズボラの武装解除を定めた安保理決議1559の履行〈4〉レバノン政府が認めたもの以外の同国への武器売却、供給禁止――などを求めています。この決議が履行される見通しは今のところきわめて悲観的です。親米アラブ穏健派のサウジアラビアやエジプト、ヨルダンなどは、当初ヒズボラの挑発行為に批判的でしたが、イスラエルの無法な攻撃がエスカレートするにつれ、ヒズボラ批判に口を閉ざすようになりました。ヒズボラ自身、停戦順守の姿勢を示しながらも決議を「不公平かつ不公正」だとして、武装解除の要求を拒否しています。レバノンのムル国防相も「武装解除を論議する時期ではない」と同調しています。

アメリカにとって、従ってイスラエルにとって「対テロ戦争」はやめられない戦争です。アメリカの無法を力で抑える公権力は残念ながら国連にはありません。国際世論で包囲するだけです。


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