プロメテウスの政治経済コラム

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石原都知事が 「尖閣諸島を都が買い取る」 と公言   無用な空騒ぎ

2012-04-21 18:56:53 | 政治経済

石原都知事が突然、「尖閣諸島を東京都が買い取りたい」 と発言したことで、またまた尖閣諸島問題がマスコミの格好の餌食になっている。石原知事や橋下大阪市長など、右翼・タカ派政治家たちの威勢のいい発言やナショナリズムを煽るパフォーマンスは、落日の日本国内で、大衆受けしても、日本外交にとっては邪魔になるだけである。中国はもとより、東アジア諸国には日本が何を考えているのか理解できないからだ。河村名古屋市長が南京大虐殺を否定し問題となったが、政治家が歴史認識をめぐる問題発言を反省もなく繰り返しながら、北朝鮮の人工衛星打ち上げに際しては、国内で大騒ぎしたあげく、中国の働きかけをあてにする。内向きの無用な空騒ぎをするのではなく、国際的視点で賢く物事を進めなければならない。
 

訪米中の石原都知事は、4月17日未明(日本時間)、ワシントンで開いた講演会で、先ず 「都が買い取りを検討しているのは魚釣島(3・82平方キロ)と北小島(0・31平方キロ)、南小島(0・40平方キロ)で、民間人所有者と売買の基本合意に達した」 と述べ、「将来的には国が買い上げたらいいが、外務省がビクビクしているので踏み切った」と語っている。新聞報道によると、現在は国が民間人から島を賃借して維持・管理しており、年間賃料は魚釣島が約2110万円、北小島約150万円、南小島約190万円(2010年度)という。
 

中国側は日本側の尖閣問題(中国側では「釣魚島問題」)に関する見解を十分に研究し、承知したうえで(帝国主義国間で決めた「無主地」の「先占」という国際ルールもわかっている)、明代や清代における琉球冊封使の記録などの古文書を持ち出して、あくまで領有権を主張している。<中国の昔の漁民は釣魚島を滞在地としていたし、清代においては釣魚島を薬草採取の基地などにしていたから「無主地」でもないし、釣魚島を有効に開発し、利用していた(「先占」)ことを意味する。したがって、中国の釣魚島に対する占有及び支配は合法的でありかつ有効である。日本が、1895(明治28)年1月14日の 閣議決定によって日本国領に編入したのは、日清戦争の勝利が見えたからで(下関講和条約で台湾割譲を決める2か月前)、日本の不法行為によって事実上釣魚島に対する占有及び支配を喪失したが、このことは中国が当該島を放棄したことを意味するものではない。>
 

尖閣問題で大事なのは、日本が実効支配しているという現状である。現在の中国政府の公式立場は、日本が実効支配しているという現状をふまえて、主権問題を「棚上げしよう」ということである。棚上げされるということは、日本が実効支配している現状が続くということだ。海上保安庁が周辺を警備していて、建前上、中国の政府・軍の艦船はそこに入ってこないことになっている。
現状が続けば、日本が実効支配している事実が、だんだん固定化してくる。100年、200年たつうちに、いくら異論があっても、いよいよ現状を変えるのは難しくなるだろう。
現状の維持だから、実効支配の現実を弱めることは選択肢にならない。日本がそんな態度をとれば、尖閣領有への意欲を中国国民にもたせることにもなりかねない。しかし、今度の石原発言のように、偏狭なナショナリズムを煽ることも、無用である。そんなことをすれば、現状を黙認している中国に対して、現状を打破する動機をあたえることになる。
 

元外交官で、国際情報局長、防衛大学教授を歴任した孫享さんが、近著『不愉快な現実』(講談社現代新書2012/3)で、日本が尖閣諸島で、中国と武力紛争を起こしたケースを具体的に検討している。台湾地域での中国軍の力は圧倒的であり、自衛隊は独自で中国軍に対抗できないし、米軍は日中尖閣諸島紛争に関与しない巧妙な法的仕掛けを打っている。2005年10月の日米合意で、「島嶼部への侵攻への対応」は、日本側の役割である。米軍には尖閣諸島で戦う条約上の義務はない。
現状で実効支配をしていて、その現実を永続化していける可能性があるのに、石原氏のように、領土問題で強硬姿勢に訴えれば、国民的人気を保ち続けることができると思うのは、浅はかであり、無用な空騒ぎである。


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