プロメテウスの政治経済コラム

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どうする「道路特定財源」   舗装率が97%を超えた現在、ひも付きは必要なし

2008-01-13 20:23:34 | 政治経済
税金は本来、特定の歳出とひもが付くことはない。国家のどの経費にも使われる一般財源が原則である特定財源、すなわち使いみちを特定した税金は例外であり、それには特別の事情がなければならない。道路特定財源の代表格、揮発油税も本来は一般財源であった。その揮発油税の収入を、もっぱら道路整備に振り向ける仕組みをつくったのは、のちに土建国家の象徴的存在となった田中角栄議員らの議員立法(1953年)であった。1954年度から始まった第一次道路整備計画は、半世紀以上にわたって次の5ヵ年計画に引き継がれ、道路整備があらかた終わった後も、巨額の税収をあてにして無駄な道路をつくり続け、結果として、いわゆる「道路族」や国から地方に至る土建国家を形成し、政・官・業の強固なトライアングルを形成してきた。財政危機が叫ばれるなかで、「道路特定財源」の見直しは不可避の課題となっている。

1953年、田中角栄議員らの提案により「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」が成立した。それは「道路整備五箇年計画の閣議決定」と「1954年度以降5年間は、毎年度揮発油税法による当該年度の税収額に相当する金額を道路整備や修繕の財源に充てなければならない」という内容で、その後の道路整備の長期計画とその財源の手当ての仕組みをつくった。ここで注目されるのは、揮発油税法そのものには手を触れず、その「税収額相当額」を道路目的に充てるという物言いである。当時の国会では、一般税の目的税化に強い抵抗があった。提案者の田中角栄議員は、「五箇年と区切っておることに一つご留意を願いたい。五箇年たって相当道路が整備でき、その費用は別に回すべきだというならば、この法律案は自然消滅すればいい。それをなお目的税として縛らなければならんということはない」と弁明している(安藤実・静岡大名誉教授「どうする『道路特定財源』」『経済』2007.4/No.139)

「臨時措置法」による5年の時限立法は、その後の経過が示すように、更新に次ぐ更新で、事実上恒久化し、田中角栄に象徴される土建国家の政・官・業の強固なトライアングルが形成された。道路投資は、倍々ゲームで伸び、揮発油税だけではなく、地方道路税、石油ガス税、自動車重量税、地方税では、軽油取引税、自動車取得税などの税目が創設され、一定部分を道路目的に充てた。さらにオイルショック後の74年5月からは、暫定税率という形の増税が「資源節約、消費節約」を理由に実施された。「差当たり二年間の暫定措置」のはずであったが、78年以降は、道路整備五箇年計画の期限が来るたびに延長され、現在に至っている。税率も徐々に引き上げられ、今日では、揮発油税が本則の2倍、自動車重量税が同2・5倍、軽油取引税が同2・1倍、自動車取得税が同1・7倍にまで引き上げられている(安藤実 同上)。

この間、政府税調は86年答申で初めて、一般国道の改良率・舗装率が80%を超えているなどの根拠を示して道路特定財源の一般財源化について論及したが、政・官・業の強固なトライアングルに阻止され、その後も、一般財源化の議論は深まらず、その具体化は一向に進まなかった
政府が財政危機を強調すればするほど、税金の無駄遣いに対する国民の批判が強まるのは当然である。こうした世論に押されて、小泉純一郎元首相も安倍晋三前首相も、道路特定財源の一般財源化を国会で明言せざるをえなくなった。しかし、これらの公約は大きな抜け道を用意するものであった。
小泉元首相は、無駄な高速道路をつくり続けるとともに政官業の癒着を温存する「偽」改革の「道路公団民営化」を強行し、特定財源見直しの「具体策」を安倍前内閣に丸投げした安倍前内閣が閣議で決めた「具体策」は、「一般財源化を前提とした道路特定財源全体の見直し」を言いながら法改正を先送りし、一般財源化の「具体策」としては、「道路歳出を上回る税収は一般財源とする」という一文だけであった要するに、特定財源の税収を超えるまで道路建設費を増やせば、一般財源には一円も回らないということだ。実際昨年、国土交通省が発表した「道路の中期計画」素案によると、今後十年間の道路建設費は68兆円、一年当たり6・8兆円に上る。道路特定財源は国・地方合わせて6兆円程度で、今後10年間はすべて道路建設に使い切るので一般財源化はゼロというわけだ(「しんぶん赤旗」2007年12月2日)。

民主党は昨年12月25日、2008年度税制改正で道路特定財源の取り扱いに関して、地方分を含めた一般財源化と暫定税率の廃止を明記した税制改革大綱をとりまとめた。藤井裕久・税調会長は、「自民党と決定的に対立している」とし、10年間の現行暫定税率維持を主張する政府・与党との対立軸に位置づける姿勢を強調した。共産党も一般財源化と暫定税率の廃止で無駄な道路はつくるべきでないと主張している。、参院で与野党の勢力が逆転している「ねじれ国会」のなか、次期通常国会における道路特定財源を中心とした税制改正論議の行方が注目される。政府・与党は、再び衆院での再議決という禁じ手を使うつもりかもしれないが、それは許されることではない。

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