プロメテウスの政治経済コラム

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ギリシャ追加支援決定   出口のない赤字国責任論

2012-02-23 20:58:43 | 政治経済

難航していたギリシャへのユーロ圏諸国の追加支援が決まり、同国のデフォルト(債務不履行)によるカタストローフ(制御不能な資金逃避による金融・財政の崩壊と長期深刻な不況)は、当面、回避された。しかし、危機の原因である域内不均衡問題を問わないで、危機の責任を赤字国の自己努力による財政規律の確立と賃金や年金の引き下げなど政府・家計双方に徹底した緊縮策を押し付けることは、周縁国を制御困難な政情不安と経済危機に追い込み、最終的にEU統合自体を危機に晒す可能性がある。新自由主義的政策がもたらした帰結を新自由主義的政策で解決することは、出口のない破局への道である危機克服には欧州統合の基本に立ち戻り、統合の最大の受益国である独仏など中軸国が、協力強化を基礎にして、IMFや中国などに頼るのを止め、周縁国に受入可能な財政規律を要求するとともに、黒字国として応分の責任を果たす踏み込んだ対策の枠組みを創設することが必要だ

 

欧州連合(EU)のユーロ圏財務相会議は、国際通貨基金(IMF)とともに1300億ユーロ(日本円でおよそ13兆7000億円)の対ギリシャ第2次支援を決めた。ギリシャ国債を保有する銀行団も借金の半額超(53.5%)を棒引きにする。ギリシャ側が厳しい緊縮策を受け入れることが条件である。決着が長引いたのは、ギリシャが緊縮策を受け入れ、実行できるかを強く疑問視する見方があるためである。
ギリシャには容赦のない緊縮策が押し付けられた。官民で雇用削減が進み、青年の失業率が48%にのぼるところに、最低賃金は今回の措置で22%切り下げられる。先週合意されるはずだった支援が先送りされたのも、緊縮策が「不十分」とされたためで、ギリシャは年金給付カットの上乗せでこれに応じるほかなかった。しかしこれでは、マイナス成長が連続3年を超え、
2011年第4四半期の国内総生産(GDP)が年率マイナス7%を記録したギリシャを益々袋小路に追い込むだけである。GDPが縮小するなかで、対GDP債務残高比を目標まで引き下げようとあがいても、負の悪循環である。

 

独仏中軸国は、周縁国に容赦ない緊縮策を押し付けるために、独仏主導でなくIMFも参加した国際圧力で受け入れさせようとしている。そのため現在、欧州金融安定化基金(EFSF)を活用して実施されている支援パッケージは、EFSFの単独スキームではなく、EU委員会、欧州中央銀行(ECB)、IMFの「トロイカ方式」で実施されている。しかし、米国とウォール街の利益を代表するIMFが、周縁国に厳しい緊縮政策を押し付けることは、支援対象国の経済を深刻な長期不況に追い込み、一層の大量失業と更なる財政悪化を招くことが避けられない。それは危機の原因である強者と弱者の域内不均衡を一層増幅させ、EU統合の理念と衝突し、結果的にEU統合自体の危機につながる誤った方向と言わざるを得ない。

周縁国に対する金融市場の取り付け(資金の引き揚げ、国債の買い控え)をとりあえず遮断し、危機の一層の拡大を食い止めるEU独自の方策については、例えばウィーン経済大学のシュルマイスターの提案がある(高田太久吉「欧州経済統合の矛盾と金融・財政危機」『前衛』2012年3月号)。現在のEFSFをユーロ圏内の欧州通貨基金(EMF)に組織変更し、EMFが加盟国の共同保証のもとでユーロボンドを発行する。ユーロボンドは市場での売買は禁止されるが、投資家は購入したユーロボンドをいつでも無条件にEMFとの間で売買できる。この条件を確保するために、ECBはEMFに「最後の貸し手」として必要な流動性を提供し、ユーロボンドには最上位の担保適格性が付与される。ユーロボンドは域内では無リスク証券となり、投機攻撃から解放される。現在各国政府が発行している国債は、必要な年数をかけて、漸次計画的に単一のユーロボンドに置き換えていく。その後は、割り当てられたユーロボンド発行枠で財政を維持することを原則とする。

 

いずれにしても、当面の危機回避のためには、野蛮で見通しのない赤字国責任論ではなく、アルプスの北側には過大な貯蓄があるわけだから、独仏中軸国が、イタリア、スペイン、ギリシャなど南の諸国に資金を提供し、応分の責任を果たすことである。


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