プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

政府の「復興基本方針」  「人間の復興」に敵対する多国籍大企業の「資本の論理」

2011-07-31 18:57:34 | 政治経済

311の大地震・津波は東北の人びとの人間的生存のための社会的条件――雇用・就労・所得・社会サービス・住宅など――を根こそぎ破壊し押し流した。原発災害と放射能汚染は人間の生存の自然的条件そのものを破壊した。残念ながら、放射能物質による自然条件の破壊を回復すべき術を現代の人間は持ちわせていない。「原発利益共同体」の大罪を金銭的に追及することはできても、汚染された自然はもとに戻らない。しかし、大地震・津波によって破壊された社会的な生活条件は、われわれの手で再生することができる問題は、日本社会全体を「人間の復興」と安全・安心の社会づくりに向けて再生させることができるか、現代の支配者である多国籍大企業の野放図な「資本の論理」がさらに吹き荒れる社会として再生するかである。
「人間の復興」を勝ち取るためには、多くの市民が「資本の論理」を押し返し、制御する力をもたねばならない(石川康弘『人間の復興か、資本の論理か 3・11後の日本』自治体研究社)。

 

被災した労働者の人間復興には、雇用を保障することがなによりも重要である。仕事が見つからない労働者には、最終的には、公的就労事業によって勤労権が保障されなければならない。

農漁民の勤労保障には、生産手段の復旧(港、船舶、加工場、農地など)に手を貸すことである。定置漁業権、耕作者主義原則の保護はその大前提である。

ところが、政府の「復興基本方針」は一言で言えば、多国籍大企業が主導する財界流「復興」であり被災者の人間的生存の社会的条件を復興するものではない
政府が決定した「東日本大震災からの復興の基本方針」(729日)は、水産業について「地元漁業者が主体の法人が漁協に劣後しない(=遅れない)で漁業権を取得できる特区制度を創設する」と明記した。漁協が管理する沿海は、法人の開発にとって障害となっていた。地元漁業者の復興を助けると言いながら、儲かる養殖事業などに参入し、儲からない沿岸は不動産開発し、漁業権を金融資産として売買することをもくろむ。現代の「資本の論理」からすれば、真面目に漁場を保護管理し、漁業振興に力を尽くすことはありえない。

 

政府の「復興基本方針」の「外国の活力を取り込んだ被災地域の復興と日本経済の再生を図るため、引き続き自由貿易体制を推進」とは、震災前から日本の農漁業を破壊すると大問題になっていたTPP(環太平洋連携協定)の推進を性懲りもなく持ち込んだものである。震災のうえに、原発汚染に苦しむ被災地の農漁民の苦境を尻目に臆面もなく支配階級の要求を行政の中に持ち込む。早くも、多国籍大企業の野放図な「資本の論理」が吹き荒れようとしている。農畜産物への放射能汚染の拡大、政府の対応の遅れに悲痛な叫びがあがっている最中に、TPPに直結する「自由貿易」を強調するとはどういう積りか!

 

復興財源の確保では、「今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」とし、「時限的な税制措置」との表現で増税路線を宣言。「税制措置は、基幹税などを多角的に検討する」として消費税増税にも道を開いた。一方で従来の政府方針であった法人税率の5%引き下げについては、「その実施を確保する」とし、大企業の負担は求めない立場を鮮明にした。“今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う”とは、回りくどい言い方だが、儲かっている大企業や大資産家など金のある者は、力に応じて連帯する気は毛頭ないので、貧乏人が広く負担を分かち合え、というのだ。

 

エネルギー戦略の見直し」では、「製造業の空洞化、海外企業の日本離れを防ぐため、電力の安定供給」を強調し、原発の「安全確保を図る」とし、福島の自然を破壊し、周辺地域を汚染し続けている原発をこれからも続ける積りである

22日の参院予算委員会で日本共産党の山下芳生議員が、ソニー仙台工場(宮城県多賀城市)が、地震被害を口実に、期間社員150人の全員解雇を目論んでいる問題を追及したように、いまや多国籍大企業が主導する財界は、日本国民が災害でどんなに苦しんでいようとお構いなしに「資本の論理」を押し付け、搾取と収奪をほしいままに追求している。彼らは、高度経済成長を共に追求してきた[過労死と引き換えであったが]時代の財界と明らかに違っている。彼らは、明らかにたたかうべき敵なのだ。復興はたたかいである。被災者をはじめとした国民世論と運動の広がりが決定的に重要である


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