プロメテウスの政治経済コラム

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飛鳥美人  千三百年間耐えてきた壁画が三十余年で何故こんなことに・・・

2007-05-16 19:03:09 | トピックス
朝日新聞に指摘されて、文化庁の林温(はやし・おん)主任文化財調査官は「白虎の劣化は徐々に進行していたと思う。人物群像などほかの壁画は鮮やかだったため、問題視しなかった」とあわてて、コメントした(04年6月23日付朝日新聞)。ところが、実際は、「壁画はボロボロ、バラバラという状態。あばたもすごい」(文化庁・河合隼雄長官―04年8月3日付朝日新聞)という状態だった。
文化庁の保存対策検討会は、05年4月、劣化の進む極彩色壁画(国宝)保存について、石室を解体、壁画を取り出して修復・保存するとの方針を打ち出した国宝の壁画を守るためには、特別史跡の古墳を一度崩してしまうという前例のない手法を選んだのだ。千三百年間、盗掘を受けながらも、なんとか耐えてきた壁画が、なぜ急速にカビの侵食を受けたのか。だれが考えても、発見以来三十余年の維持方法に問題があったことは明らかだ。密閉保存したことによる慢心はなかったのか。結果的にカビの侵食を許してしまい、手遅れ寸前に“大手術”をせざるを得なくなったのが真相である(「神戸新聞」05/07/03)。

06年4月14日になって、壁画のカビなどによる深刻な劣化は、どうやら文化庁の作業ミスが重大な影響を及ぼしていたことが明らかになった。02年に古墳の入り口を工事した際、消毒済みの防護服を着用せずに作業を繰り返し、工事後まもなく、入り口周辺に大量のカビが発生した。これが原因で、カビが壁画のある石室の中まで広がった可能性が高いというのである。このことを、05年の保存対策検討会に詳細を報告していなかった。検討会は、解体に異論も多い中で、ずさんな作業によるカビ発生の事実を知らないまま解体・修復を決定していたことになる。問題の作業と相前後して人為ミスによる壁画損傷の事実も明らかになった。02年の作業中に壁画の一部を損傷したが、やはり公表されていなかった。修復中につけた傷をこっそり補修するよう指示していた同検討会座長の渡辺明義氏(文化庁OB)は、「辞任」を申し出た。文化庁が保存対策検討会をコントロールしていたのである(「神戸新聞」06/04/16)。
検討会は、24人の委員中、座長など半分以上が文化庁の関係者で、壁画管理の当事者も加わっていた。最近では「解体決定は、文化庁ぐるみのミス隠しだったのではないか」「解体作業は文化庁に任せて大丈夫か」という声まで出てきている(奈良にこだわる記者ブログ:「日々ほぼ好日」より)。

一連の経緯を見ると「文化庁によるミス隠し」であり、文化庁が台無しにしたといわれても仕方があるまい。壁画を保存する責任意識の欠如と隠蔽体質が厳しく問われる必要がある。もっと早い時点で公表し、衆知を集めて対策に当たっておれば、古墳解体という最終手段は避けられたかもしれない。責任は重いといわざるを得ない(「神戸新聞」同上)。
役所・役人に対する、批判・怒りは強いが、関大の学生時代に古墳発掘に参加した現芦屋市教育委員会文化財担当主査の森岡秀人さんは、解体現場での現地担当者の知恵と技術を結集した作業をまぢかで見聞して、心の負担も和らぎを覚えたと書いている(「しんぶん赤旗」同上)。
今となっては大事なことは、「保存」の問題点と教訓を後世に正確に伝えることであろう。

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