プロメテウスの政治経済コラム

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労働法制規制緩和の総仕上げ 3つの「やりたい放題」が正規社員を襲う

2006-11-13 20:36:09 | 政治経済

厚生労働省は、サラリーマンを長時間働かせたうえに残業代を一円も払わなくても済む新しい労働時間制度の具体案を、10日開かれた労働政策審議会労働条件分科会に提示した。米国で「ホワイトカラー・エグゼンプションと呼ばれるこの制度は、要するに管理職手前の年収一定以上(経団連は400万円以上)のホワイトカラーを労働基準法の労働時間規制からエグゼンプション(除外)する制度である。
労働時間規制がないわけだから残業時間が発生する余地がなく、いつからがサービス残業などという話は議論の外である。いくらノートに細かく仕事時間を記録しても自ら自律的に働いたのだから過労死になっても自己責任である。2006年10月24日の同分科会で、過労死について使用者委員は「自己管理の問題。他人の責任にするのは問題」と言ってのけた。
最近(11月8日)「労働運動総合研究所」(代表理事・牧野富夫日大教授)が、厚生労働省が導入を検討している「自律的労働時間制度(日本版ホワイトカラー・イグゼンプション)」が導入されれば、約11兆6000億円の残業代が支払われなくなる可能性があるとする推計を発表し、多くの一般マスコミにも取り上げられた。

2つ目の「やりたい放題」は、労使自治を原則とする労働契約法で「解雇の金銭的解決」制度の導入である。裁判所が「解雇は無効」と判断しても、使用者が「解決金」を払えば、労働者を復帰させなくてもよいという制度である。使用者は裁判を気にせず、労働者を気軽に解雇できる。気に入らない労働者を職場から永遠に追放できるかもしれない。労働紛争の六割以上は解雇問題である。従来は、いわゆる解雇4条件【(1)人員削減の必要性がある (2)解雇を回避する余地がない (3)解雇対象者の選定が客観的・合理的である (4)労使協議など妥当な手続きを踏んでいる】が解雇の条件となっていた。

3つ目の「やりたい放題」は、労働条件の不利益変更を「就業規則」でできるようにすることである。労働条件などを定める就業規則は会社が一方的に作成できる。そのため従来は、就業規則の不利益変更は、一定の合理性や社会的相当性が必要であるとされていた。みちのく銀行事件では多数派組合と合意していても無効とされた。使用者側は、裁判に負けないルール化を目指し、過半数を占める労働組合や労働者代表などと合意すれば、個々の労働者から同意を得なくても就業規則で労働条件を自由に変更できることを狙っている。

労働法制の規制緩和に一貫して流れる思想は、労働者と使用者はそれぞれ独立した自由な契約主体として雇用市場で相対し、労働者は雇用主が提示する労働条件にしたがって労働時間も含めて自由に選択し自己決定するという「市場個人主義」(森岡孝二・関西大学教授「労働時間の逆流と市場個人主義」『経済』2006・10 NO.133)である。この理論は、労働者は働くことを「選択」するのではなく、自らは生産手段と十分な生活手段を持たないために企業に雇われる―労働力を自己の意思に関係なく「強制」的に提供する―以外に生活できないということを無視している。雇用主の指揮命令を離れて自分の業務量(労働時間)を自立的に裁量できるサラリーマンなぞ一般的にはいない。他の競争者に取って代わられても生活を維持できる資産をもつ御曹司ででもあれば別だろうが。

最後の歯止めである労働基準法の改悪を許さない声をあらゆる機会にあげなければならない。


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