阪神大震災の経験者として、本当なら、被災者・被災地の悲しみと奮闘に意識を向けたいのだが、どうしても原発のことが気になってならない。福島の原発震災は、震災発生から2週間以上たつのに事態好転の兆しが見えない。事態が予断を許さない状況であることは、残念ながら震災から2週間たった今でも変わらない。東電福島第一原発で、1~3号機のタービン建屋近くでも、放射性物質に汚染された大量の水が地下の作業用トンネル(トレンチ)にたまっていることが確認された。サイト外(海)への流出を避けるため、1号機では建屋内の復水器に汚染水を移す作業が24時間態勢で続き、3号機では、汚染水の回収先である復水器が満水なため、それをあらかじめ別のタンクに移す「玉突き排水」も新たに始まったという(「読売」 2011年03月29日 12時09分)。炉の冷却には、十分な量の冷却水を注入することが必要だが、放射能を帯びた冷却水が、原子炉格納容器からタービン建屋に漏れ出て、それが更に、トレンチへ流れ込んだとすると、むやみに冷却水を注入することもできない。さりとて、少なすぎると原子炉の温度は上がってしまう。“注水なくば高温に、やれば汚染水”という「危機の連鎖」のなかで、綱渡りが続いている。「原発には五重の壁があるから万全」という産学官のトライアングルによる推進派の「安全神話」がむなしく響く。
「朝日」2011年3月29日より
私には、サンフランシスコに住む高校時代の友人がいるが、NHKニュースを逐次見ている彼によれば、アメリカなど海外のメディアは、福島原発事故について、日本国内のメディアよりも重大な事故として報じられており、日本の放射性物質を脅威としてより深刻に受けとめているということだ。
福島の原発の現場では放射線量が高すぎて復旧作業が進まないという事態を受け、欧米では「日本は、危険を封じ込める努力をやめてしまったように見える」とすら報じられた。米国の専門家の中には「事態は予想より悪化しており、日本一国だけでは解決できず(世界的な脅威に対応する機関である)国連安保理で議論すべき話だ。この件はリビア飛行禁止区域の問題よりずっと重要だ」と主張する者も出てきた。今回の事故は、日本が自力で尻拭いできる水準を越えてしまっており、世界からの救援を受けず日本が独力で解決しようとすると、放射線の影響で作業がはかどらず、海外に放射性物質を撒き散らし続け、外国人は国外に逃げて戻って来ず、福島原発の周辺地域が長く居住不能になってしまう。すでに海外の船会社の中には、日本の港に行くことを拒否するところが出ているという(田中宇の国際ニュース解説 会員版 速報分析 2011年3月29日)。
東日本大震災で被害を受けた福島第一原発で、東京電力は28日、2号機のタービン建屋から外へつながる坑道とたて坑にたまった水から、毎時1千ミリシーベルト以上の放射線が測定されたことを明らかにした。汚染水は容量ほぼいっぱいとみられるが、排水作業は難航している。燃料を冷やすために注水は止められず、水の漏出は続き、汚染水は増え続けるとみられる。このまま行けば、大量の放射能を海など外の環境に投棄せざるを得なくなる。 原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長は28日の会見で、「正直、大変な驚き。憂慮している」と話した。土壌や海水の汚染を引き起こす可能性もあるというが、「どのような形で処理できるか知識を持ち合わせていない。原子力安全・保安院で指導していただきたい」と話した(「朝日」2011年3月29日1時10分)。経済産業省の西山英彦・大臣官房審議官は、「冷却のための注水と、水量の抑制の矛盾する行動をとる必要がある。両者の難しいバランスをとりながらやっていく」と悩みを打ち明ける(「読売」2011年3月29日08:44)。なんとも心許ない話ではないか。
原子力発電所の燃料となる放射性物質は、燃料を焼き固めたペレット、それをつめた燃料棒の被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、さらに原子炉建屋と、「5重の障壁」で閉じ込めらおり、これまで日本では、何があっても万全だという「安全神話」が罷り通ってきた。しかし、タービン建屋内に放射性物質が漏れ、しかもその濃度が原子炉内以上だというのは、ペレットも被覆管も壊れて核燃料が「溶融」を起こし、原子炉からも水が漏れているということだ。「5重の障壁」はことごとく損傷しているのだ。原発には「五重の壁があるから万全」という推進派の主張は間違っていたのだ。原発推進派の人々は、そのような流れを何とか止めようとして必死で「福島は想定外、例外だった」と言うだろう。しかし、原発はもうウンザリ、もうたくさんだ。