プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

偽装請負 大企業の国際競争力を支える現代賃金奴隷

2006-08-01 19:08:39 | 政治経済
発達した資本主義国である現代日本で、日々の生存を支えるのに精一杯の賃金奴隷が存在します。しかも世界に冠たる製造大企業の系列会社の現場において。7月31日の「朝日新聞(14版)」一面トップをみて、一瞬目を疑いました。「しんぶん赤旗」と見間違ったのではないかともう一度確かめました。国際競争力強化のためと小泉「改革」を応援してきた大新聞も日本のルールなき資本主義の余りのひどさに目を瞑ることが出来なくなったようです。

労働者と企業との間の雇用契約は資本主義的法体系からは対等の関係として契約自由が原則です。しかし、現実の労働者個人と契約企業が対等である筈はありません。近代資本主義国家は労働者の組織的抵抗を抑え、資本主義体制を安定的に維持するためにも弱い立場の労働者を保護する労働法体系を民法とは別に整備してきました。しかし、労働法の規制を受けず、トヨタ・カンバン方式のように必要なとき必要な量だけ労働力を調達し、しかも社会保険や安全衛生などの責任もない安上がりな労働者への欲求は、国際競争に晒される現代製造大企業資本においてとりわけ強いものとなりました。

1986年労働者派遣法の施行により、正社員にある労働法制の制約から逃れるために間接雇用(いわゆる人貸し)の禁止=直接雇用の原則に風穴があけられました。当初、派遣は臨時・一時的(あくまでも直接雇用するのが原則)であったものがどんどん対象業種を拡大、期間延長も事実上、野放しという法改悪が進みました。ところが、いまやその労働者派遣法さえ邪魔と感じる製造大企業は、「偽装請負」なる方式を編み出し、労働者をモノ扱い同然で調達し、使い捨てにしているのです。

製造業への労働者派遣は04年3月に解禁されました。これ以降、メーカーが他社の労働者を指揮命令して使うには、労働者派遣法に基づいて使用者責任や労働安全上の義務を負う派遣契約を結ぶ必要があるにもかかわらず、こうした責任・義務を負わずに済む請負契約で請負労働者を使う「偽装」がトヨタ、日産、キャノン、日立、松下などの製造大企業の現場で、蔓延し始めました。「請負契約」の形をとりながら、実態として、人を送り込むだけの行為は職業安定法や労働者派遣法などの違反にあたります。しかし、企業の国際競争力第一の労働行政は、こうした偽装請負による違法派遣の取締りにきわめて不熱心でした。「朝日」8月1日付は一面で松下が偽装請負の是正を逃れるために自社の社員を請負会社に出向させ、指揮命令があたかも請負会社内で行われているかのような新手の「偽装」を考案したと報じています。資本の労働者搾取への貪欲さを見る思いです。

業務請負で働くフリーターの若者の生活は過酷です。賃金は正社員より著しく低く時給千円程度で、寮費やテレビ、洗濯機、ふとんのリース料などを差し引かれ手取りはわずかです。サラ金以上の高金利で金を貸し、給料から天引きする違法金貸しも横行しています。交代制で昼夜長時間働き、生産の都合で工場を回され、体調不良で休もうとすればどなり込まれるなど、非人間的な扱いがされています。まさに現代の賃金奴隷そのものです。

しかし、現代の賃金奴隷の圧倒的部分は、上記の「朝日」社会面のレポートに見られるように「気力ない 夢がない」状態で「腹が立つが、あきらめた」と言って、団結して自らの運命を変えるにいたっていません。請負会社の幹部をして「仕事に不満があっても実際に声を上げることはほとんどない」、「一生こんな賃金で使われ続ける彼らの将来は大丈夫かねぇ。我々にとってはありがたい存在だけど・・・」と言わしめているのです。

日本の労働者は、たしかに労働闘争について経験不足です。父や母が立ち上がる姿を一度も見たことがない若者が多いのではないでしょうか。しかし、日本に労働運動の歴史がないわけではありません。トヨタ系列の部品メーカー・光洋シーリングテクノ(徳島県藍住町)で偽装請負で働かされているとして青年労働者約80人が直接雇用を求めてたたかっています。全労連、徳島労連、労働者が加盟するJMIU(全日本金属情報機器労働組合)の三団体主催の偽装請負を告発するシンポジウムと集会には7月30日、全国各地から三百人が参加しました。
労働者の反撃が始まっているのです。



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