プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

新年も続きそうな国際金融の動揺  アメリカの覇権の衰退とドル離れ 世界の構造変化

2007-12-30 18:18:35 | 政治経済
今年の最終売買日となった28日の東京株式市場で日経平均株価は大幅に続落。大引けは前日比256円91銭(1.65%)安の1万5307円78銭だった。今年の世界経済は、アメリカのサブプライムローンの破たんに始まる国際金融の深刻な動揺に見舞われた。11月末以降、アメリカの連邦準備制度(FRB、連銀)、EUの欧州中央銀行(ECB)、イギリスの中央銀行(イングランド銀行)など欧米諸国の中央銀行が、相次いで巨額の短期資金を市場に流す対応策をとっているが、金融危機の根本的な解決策にならないだけでなく、通貨供給を過剰に増やし、インフレを悪化させる弊害を抱えている世界的な金融不安は収束の見通しのないまま、来年に持ち越されそうだ。

グローバル資本主義のもと、ビジネスの分野では世界は多極化しているが、通貨の分野では、まだドルの一極体制が続いている。日欧は、自国通貨の高騰を嫌って、ドル防衛策を続けているので、いますぐドル一極制に代わる通貨体制が出てくるという状況ではない。中国や中東産油国も、対ドルペッグ(連動)をできるだけ長く続けたいと考えている。しかし、ドル離れは歴史的、構造的であり、世界は、アメリカの一国覇権主義、ドル支配の体制に代わる新秩序を模索する時代に入りつつあるといえるだろう(「しんぶん赤旗」12月30日)。

ブッシュ政権は、「米国経済のファンダメンタルズは安定している」と繰り返しているが、低金利と住宅バブルで好景気を演出し、世界から資金を集中し株価をつり上げて景気上昇を続けてきた米国経済がここにきて、そのもろさを世界中に露呈しつつある。強いドルを前提にして経済繁栄を誇ってきた“アメリカ・モデル”は、大きな壁にぶつかっており、イラク、アフガンの泥沼化とあいまってアメリカの覇権の衰退は、世界的に「ドル離れ」を不可避としつつある(「しんぶん赤旗」同上)。

巨額のドル外貨を持っている中東産油国や中国は、従来のように外貨準備を米国債に投資し続けていると、米経済の行き詰まりとともに資産が目減りしてしまうので、それを防ぐため「政府系投資基金」の機能を強化し、投資対象の多様化につとめ始めた。中東ではサウジアラビアが、世界最大の「政府投資基金」の設立を検討している。サウジ政府は、米メリルリンチに加え、シンガポールの政府系投資基金であるテマセックと組んで新基金を作るが、テマセックは中国政府の投資機関の知恵袋でもある。これまで、欧米を中心に、別々に動いてきた中東と中国の政府系投資機関が、直接の関係を強化する方向にある(田中宇の国際ニュース解説「金融危機を悪化させる当局」2007年12月25日)。

アメリカ経済はすでに不況局面に入ったようだ。ロサンゼルスの郊外には、鉄道線路と飛行場の間の荒れ地に、住宅ローン危機で自宅を失った人々のテント村ができており、テントの数は今年7月の20張から、年末には200張へと急増していると報じられている。ロイター通信の記事は、この事態について「大恐慌で土地を奪われて流浪する人々を描いたジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』の21世紀版ともいえる」と書いている。「怒りの葡萄」は、大恐慌でオクラホマ州の小作農地を追い出され、カリフォルニア州に流れていく流浪の苦しい農民たちを描いた、1939年の小説である。アメリカでは国民の1割以上にあたる3500万人がろくな食事にありつけない貧困状態にある。食事を与えてくれる貧困救済施設を利用する人が増えているが、米政府の財政難と食品価格の高騰などによって、今冬は配給できる食糧が不足する救済施設が増えている。世界一豊かなはずのアメリカで、飢餓に苦しむ人が増えそうである(田中宇 同上)。
中産階級の間では、クレジットカード破産が増えている。全米で、カード債務の30日以上の支払い遅延の件数は、今年10月までの1年間で26%も増えている。クレジットカードは、アメリカの中産階級を象徴する生活の道具である。クレジットカードを失った人は、中産階級から貧困層へと転落する。アメリカでは、国家発展の要だった中産階級が縮小している。これは社会的危機である。金融危機、来年陥りそうな不況、イラク戦争による財政的危機、年金や健康保険が破綻に近づいていることなど、アメリカは複合的な経済危機に陥っている(田中宇 同上)。

いますすみつつある「ドル離れ」は、世界経済の構造変化、政治、経済にわたるアメリカの地位低下を背景とした、歴史的、構造的なものである福田内閣は、アメリカ国内でさえ強い批判をあびているブッシュ政権のイラクにたいする戦争をいまだに支持し、アフガンでも海自の再派兵に固執している。軍事、政治、経済全面にわたる日本政府の対米追随路線に未来のないことは明らかだ。新しい政治への転換が喫緊の課題となりつつある。来年に予想される総選挙は、その絶好の機会である。
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