大阪市の橋下徹市長は４日、市役所で中村義男・市労働組合連合会（市労連）執行委員長と面談し、庁舎内に入居する６組合の事務所の早期退去を要請した。
中村義男・大阪市労連委員長と面会する橋下市長（４日）＝金沢修撮影（読売新聞 1月4日11時52分配信）
上の写真を見て、年収７００万円の「隣の公務員」に対して、「怠けている」「リストラされないのは不公平」「ダメなヤツはクビを切れ」と、怒りを向けた年収２００万円の非正規労働者は、さぞかし溜飲を下げたことだろう。 橋下氏の狙いは、「大阪市職員は恵まれている」「楽をしている」という一方的な印象操作を行ない、彼らに既得権益というレッテルを貼り付け、彼らを引きずり下ろす姿を可視化し、大衆の欲望を満たすことである。内田樹氏は、これを「嗜虐的な愉楽」と名付ける。自分に何らかの利益が約束されているわけではないが、市職員や教員が権利を失って弱者化し、右往左往するさまを見て「ざまあみろ」とほくそ笑む悦楽が共有されているのである。
橋下氏は、「政治のショー化」の天才である。観客の人気を繋ぎとめる手法を心得ている。マスコミに、もて囃されなくなったときが、彼の政治生命の終りである。人気のあるうちに次々と話題をぶち上げる。次の幕開けの予告を派手にやって観客の「嗜虐的な愉楽」の興味をつなぐ。そして、マスコミは「追っかけ翼賛報道」を繰り返す。
職員労働組合との「闘争宣言」もその一つである。昨年12月28日の市議会施政方針演説では、「公務員の組合をのさばらしておくと国が破綻する」と激昂し、最後は「市役所の組合を改善することで、全国の公務員組合を改めることしか、日本再生の道はない」と凄んでみせた（冷静に考えれば、これほど的外れのことはないのだが・・）。
一般的に、労働組合は、使用者と癒着すればもはや組合でないから、使用者から便宜供与を受けないのが原則である。組織運営のため使用者から経費援助を受ける労働組合は、労組法上の労働組合としては認められないことになる。但し、（1）労働時間内の有給での協議・交渉（2）厚生資金または福利基金に関する寄付（3）最小限の広さの事務所の供与は、経費援助とはされない。組合活動上の便宜から言えば、組合事務所が各職場にあることに越したことはない。
組合事務所の貸与について、労働組合による使用者の物的施設の利用は、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきであり、使用者は労働組合に対して、当然に施設の一部を組合事務所等として貸与する義務を負うものではない。しかし、各種便宜供与（会議室使用、組合費天引き、組合掲示板等の貸与、組合事務所の賃料肩代わり、在籍専従者の社会保険料負担）の中止・廃止措置をとる場合には、使用者に便宜供与の廃止を必要とする合理的な理由が存在し、かつ、廃止に当たっては、労働組合の了解を得るとかの相当な配慮をする必要があり、このような配慮をすることなく、組合活動に対する報復目的、対抗手段としてされた便宜供与廃止措置は違法と解するのが相当である【太陽自動車・北海道交通（便宜供与廃止等）事件 東京地裁 H17.8.29】。橋下氏の職員労働組合に対する「闘争宣言」は、大衆受けを狙った報復目的、対抗手段であることは、誰の目にも明らかである。
それにしても、橋下市長の前で平身低頭する中村義男・大阪市労連委員長の姿は実に情けない。大阪再生と大阪市民の生活向上のために、組合員が先頭に立って働くという気概がまったく感じられない。だから、年収２００万円の非正規労働者の怒りを買うのだ。
しかし怒りの矛先が向かうべき対象は、「株式の投資で年間何十億円もの所得を得ている人々」「内部留保を溜め込みながら、労働者のクビを切り捨ててきた大企業経営者」「そんな富裕層から献金をもらって当選してきた政治家たち」ではなかったのか。日本の株式所得に掛けられる税金はわずか10％だ。そして新富裕層は株や証券の投資で、巨額の富を築いている。ではなぜそこから税金を取らないのか？ちなみにフランスは株の所得に30％課税している。なぜ毎日の生活がギリギリの人々が消費税を10％も取られようとしている時に、この株式所得への極めて低い課税率が問題にならないのか？ 本来なら、非正規雇用の労働者と公務員が連帯して、「富裕層からもっと税金を取れ」と言うべきなのに、なぜ「底辺同士で」争っているのか？（西谷文和「橋下前知事に対して、住民訴訟を始めます」2011年12月29日）。
