Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

UpToDateとIntensivist

2013年07月05日 | ひとりごと
もう医者になって20年が過ぎましたけど、今でもしょっちゅう見ます、UpToDate。
(笑いたければ笑うがいいさ。。。)
知らないことについて、とりあえず知ってるふりができるようになるので、便利。

今日、それなりに知っていることについて、UpToDateにはどう書いてあるだろうと思って読んでみたのだけど、いやー、ちょっとどうなんだろう、という内容だった。
間違ったことが書いてある、という意味ではなく、そこまで言いきっちゃうか、という違和感。
でもまあ、それは当然のことで、
医療において、こうすればいいと分かっていることなんてほとんどないわけで、
でも、診療ですぐ使えるようにわざと言いきっているのがUpToDateなわけで。

Intensivistって、読んでも、だからどうすればいいんだか書いてない、って言う人がいる。
作り手の方も、ベッドサイドで使えるように、どうすればいいかを書こう、という意見もある。
でも、僕は現状の形でいいのではないかと思う。
だって、総説ってそういうものでしょう?
あることについて、こういう根拠があって、ここまで分かっていて、ここから分からない、それをまとめてくれているのが総説。
情報に基づいてどう判断するかは、各自の問題。
無理矢理言いきっちゃったら、UpToDateを読めばいいってことになるじゃん?

あることについてのまとめが記載さているもの。

・UpToDate(的なもの)
病気Xについて、いくつかの根拠を提示して、言いきっている。
ただし、執筆者は一人(か少数)のため、個人の意見が強く反映される。

・Narrative review(Intensivistとかの総説)
病気Xについて、多くの根拠が提示されている。
ただし、その根拠の選択と解釈は執筆者によって行われるため、その人の考えが反映されやすい。
どこまで言いきるかは、執筆者次第。

・Systematic review
病気Xに対する治療Yについて、どんな根拠があるかが示されている。
ただし、それ以外の情報(じゃあ治療Zは有効かどうかとか)については記載が無い。
また、Systematicとは言いながら、執筆者によってバイアスがかかっている可能性は否定できない。

・ガイドライン
病気Xについて、利用可能な根拠を用いて記載されている。
ただし、十分な根拠があることは少なく、低い推奨になったり、場合によっては作成委員の意見が反映されることもある。

それぞれの特徴を理解して、使いましょうね。
分かってない人、多いですよ。
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CVPの測定意義

2013年07月01日 | 循環
今週は少なめ。
メインディッシュもベタなやつ。

Sakamoto Y, Koga M, Yamagami H, et al.; for the SAMURAI Study Investigators.
Systolic Blood Pressure After Intravenous Antihypertensive Treatment and Clinical Outcomes in Hyperacute Intracerebral Hemorrhage: The Stroke Acute Management With Urgent Risk-Factor Assessment and Improvement-Intracerebral Hemorrhage Study.
Stroke. 2013 Jul;44(7):1846-1851. PMID: 23704107.


日本からの多施設観察研究。その名もSAMURAI study。脳出血発症後3時間以内で、SBP>180mmHgの症例211例を、静注ニカルジピンを用いたプロトコールに従ってSBP<160mmHgにコントロール。コントロール開始後の平均のSBPは、神経学的悪化、血腫の増大、不良な予後と有意に相関。平均SBPは低ければ低いほど予後は良かった(SBP<130)。
収縮期血圧を140以下にコントロールした方がSBP<180の群よりも予後が良かったことを示したRCTが出た後ではちょっと今更感もあるけれど。でも、それが観察研究にても確認されたこと、SBP<140よりも更に低くした方がいい可能性が示唆されたことなどは評価ポイントかな。日本の研究だし。

<a href="http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=23802541">Colbert JA, Adler JN.
Clinical decisions. Family presence during cardiopulmonary resuscitation--polling results.
N Engl J Med. 2013 Jun 27;368(26):e38. PMID: 23802541.
(時々あるが、リンクがうまく貼れない)

院外心停止症例のCPRを家族の目の前で行った方が、家族への心理学的影響が少ないことを示したフランスのRCTに同期して行われたアンケートの結果。ただしアンケートでは院外じゃなくて院内心停止について質問。62カ国655名が回答、CPRを家族の前で行うことに同意したのは31%。地域別では、アメリカ/オーストラリア/ニュージーランドが37%、ヨーロッパは28%、アジアは17%、中央/南アメリカはさらに少なくて14%くらい。10人以上参加した国の中で家族がいることに同意した人が多数を占めたのは、この研究が行われたフランスだけ。
まあ、そうだよね。西洋人はみんなそんなことしているのか、とちょっと思ったが、さすがにそうではなかった。それとも、院外心停止だと違うのかな。

で、ベタなメインはCCMから。

Marik PE, Cavallazzi R.
Does the central venous pressure predict fluid responsiveness? An updated meta-analysis and a plea for some common sense.
Crit Care Med. 2013 Jul;41(7):1774-81. PMID: 23774337.


CVPが補液の指標になるか(補液をすると心拍出量が増えるかどうかを補液する前に予測できるか)について検討した研究のメタアナリシス。43研究が対象。
その結果、

#平均して57%が補液によって心拍出量が増えた(responder)。
#CVPがresponderかどうかを区別するAUCは0.56。
#ICUでの研究でも0.56、手術室での研究でも0.56。
#心臓外科患者でも0.56、非心臓外科患者でも0.56。

さて。
まず基本知識。
この研究の著者のDr Marikは、CVPは補液の指標にならないことを示したメタアナリシスを2008年に発表していて、その結論は、
"CVP should not be used to make clinical decisions regarding fluid management."

それにも関わらず、まだCVPは使われているし、SSCGでも推奨されているので、もう一度メタアナリシスをやりなおしたのがこの研究。

ある意味、すごい文献。結果もディスカッションもチョー短い。表が1個あるだけだし。著者の、”もういい加減にしてくれ!”っていう気持ちが伝わってくる。
この文献のエディトリアルもちょっと変わっていて、自分はICUで働くフェローなんだけど、血圧も尿量も問題ないのにCVPが低いってナースがコールしてきて、チョーむかつく(意訳)、という内容。

未だにCVPがいくつだからって言う人はどうかしていると思うけど、それって世界共通なのね。

じゃあ、CVPはまったく役に立たないかというと、個人的には使っております。
その目的は、

・極端に低ければ(例えばゼロ)、あまり遠慮せずに補液しようかなと思うし、極端に高ければ(例えば20)、積極的に除水しようかなと思う。
・CVP波形の呼吸性変動は補液に対する反応の予測に使用できるという研究もある。
・心タンポナーデや肺塞栓などの補助診断に使える(かもしれない)。
・CVPの波形によって心房性不整脈などの診断が可能(なはず。なかなか難しいけど)。
・IVがしやすい(フラッシュしやすい)。
・不要になったルーメンを開存しておける。

などなど。
どれも、強い理由ではないけれど。つまりは便利なのさ。

CVPの絶対値を臨床でよく使っている方へ。
さすがに、もういい加減にやめましょうね。
Dr Marikの言う通り、コインをはじいて決めるのとほぼ同じですよ(AUCが0.56というのはそういうこと)。

うーん。
当たり前で、つまらなかったかな。
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