Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

ICU患者の退院後の予後

2013年04月29日 | ICU・システム
今年のGWは天気が良いらしい。
でも外出の予定はなく、文献読んでブログを書いている。
人だらけの観光地に行くのと、どっちがいいかなー。

London MJ, Hur K, Schwartz GG, et al.
Association of perioperative β-blockade with mortality and cardiovascular morbidity following major noncardiac surgery.
JAMA. 2013 Apr 24;309(16):1704-13. PMID: 23613075.

アメリカの104の病院で非心臓手術を受けた136745症例を対象に、周術期にβ遮断薬を投与されたかどうかでマッチングして比較。40.3%にβブロッカーが投与され、非投与群に比べ死亡率の相対危険度が0.73に減少。Revised Cardiac Risk Indexが高いほど、有効性も高かった。
うーん。周術期のβブロッカーの話題って、ずっと続くね。最近の考え方を知る上でも、これはジャーナルクラブ行きにしよっと。

Wacker C, Prkno A, Brunkhorst FM, et al.
Procalcitonin as a diagnostic marker for sepsis: a systematic review and meta-analysis.
Lancet Infect Dis. 2013 May;13(5):426-35. PMID: 23375419.

ICU患者の敗血症の診断に対するプロカルシトニンの有効性についてのメタアナリシス。30文献(3244症例)が対象。まとめると、感度0.77で特異度0.79、AUROCは0.85だった。
鳴り物入りで登場したけど、まあ随分熱も冷めた感じ。とりあえず、診断に使うものではなさそうだ。

Nishijima DK, Haukoos JS, Newgard CD, et al.
Variability of ICU Use in Adult Patients With Minor Traumatic Intracranial Hemorrhage.
Ann Emerg Med. 2012 Sep 26. PMID: 23021347.

アメリカの8つのレベル1外傷センターに入院した、軽症頭部外傷(頭蓋内出血があるけどGCSは15点)症例1412例。そのうち888例がICUに入室。その頻度は施設によって大きく異なり、50%から97%だった。847例(95%)はICUで特別な治療(人工呼吸、手術、輸血、昇圧剤など)は行われなかった。多変量解析すると、施設によってICU入室のオッズ比は1から30と大きな幅があった。
ICUのシステムとかベッド数とかを考えると、軽症頭部外傷は日本とアメリカの一部のICU以外にはほとんどいないだろうと想像される。それは不要なんじゃないの、という話。

で、今回のメインは、何故これなんだ、と思われそうなやつ。

Brinkman S, de Jonge E, Abu-Hanna A, et al.
Mortality after hospital discharge in ICU patients.
Crit Care Med. 2013 May;41(5):1229-36. PMID: 23591209.


オランダの81のICUに約4年間に入室して生存退院した91203例が対象。オランダのICUデータベース(NICE)と保険データを組み合わせ、退院後の予後についてのデータを収集。その結果、
・退院後の死亡率は、1年後で12.5%、2年後で19.3%、3年後だと27.5%。
・年齢と性別で調整すると、オランダ人全体(3年で8.2%)に比べて明らかに死亡率が高い。
・カプランマイアーを描くと、疾患によって死亡率は大きく異なる。くも膜下出血、心臓外科手術、外傷、肺炎、腎不全、癌について検討。
 ・例えばくも膜下出血は退院後半年くらいは死亡率が高いが、その後は落ち着き、3年くらい経つとオランダ人全体とほぼ同じになる。
 ・心臓外科手術後はオランダ人全体よりも少し低い程度で安定して推移。
 ・肺炎は癌よりも最初は死亡率が高いが、1年くらいで追い抜かれる。
・ICU患者全体と比べても、心臓外科は極端に死亡率が低く(オッズ比0.28)、内科患者(1.41)、癌患者(1.94)は高い。

ほら、なんでこれなんだ、と思ったでしょう?
読んでてね、すごい時間がかかったのよ、この文献。内容が難しいからじゃなくて、気がつくと何か他の事を考えていて、文献を読むのが止まるから。
つまり、それだけいろいろなことを連想させたんだよね。

例えば単純なところでは、ICUの仕事とは何ぞや、ということ。
結局、ICUを退室するまでなんだよね。退院までは診てないし、というか診れないし、ましてや退院後なんて。
でも、きっとICUで行われた事が長期予後にも影響するはず。例えばICUでAKIになった人は、長期的に維持透析になる確率が高かったりする。
ま、ありがちな話題ですが。

次は、心臓外科と脳外科。ICU死亡率も病院死亡率も低いことは知っていたけど、退院後の死亡率も低いんだね、やっぱり。
よく聞く話だけど、日本のICUには心臓外科と脳外科が多数を占めるところが多いらしい。それって、国際的には死亡率が低い集団だけを集めてるってことだよね。すごい話だ。
ある消化器外科医が、手術室からICUに入室してくる心臓外科患者を見て、“やっぱすげーなー、心臓外科は。”と言っていたのを聞いたことがある。いやいや、消化器外科の方が死亡率が5-10培くらい高いから、君の方がよっぽど重症患者を相手にしているんだよと言ってあげた、心の中で。

もう一つは国レベルのデータベースについて。しかもそれを保険のデータベースとリンクさせる事によって、こういう大事なことがよく分かること。日本だと、国レベルのデータベースもないし、保険診療のデータベースを利用することもほとんどできない。羨ましい限り。

しかーし。
日本にももうすぐデータベースができますよ。
日本集中治療医学会が来年の1月から運用開始する、その名もJIPAD(Japanese ICU PAtient Database)。
DPCのデータとも結合予定で、もう悲しい思いはしないでよくなる(はず)。
楽しみ楽しみ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする