Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

読んじゃダメ

2013年04月08日 | その他
いつもは、一週間で貯めた文献をざっと見て、メインはどれにしよーかなーと考える。
すぐに決まるときもあるし、悩むときもある。
でも今回は、タイトルを読んだ時点で、つまりは他の文献と比較もしなければ中身を読みもしないうちから、メインが決定した。

メインの前に、文献紹介。心外の輸血シリーズから。

Jin R, Zelinka ES, McDonald J, et al.; Providence Health & Services Cardiovascular Disease Study Group.
Effect of hospital culture on blood transfusion in cardiac procedures.
Ann Thorac Surg. 2013 Apr;95(4):1269-74. PMID: 23040823.

アメリカの12の病院の43人の心臓外科医が3年間で手術した、5744名のCABG症例。輸血の頻度は施設によって大きく異なったけど、同じ施設の術者の間では似通っていた。術者の影響が30%、病院の影響が70%。
Effect of hospital culture、研究しようと思えば、いろいろな話題がありそうだ。

LaPar DJ, Crosby IK, Ailawadi G, et al.; Investigators for the Virginia Cardiac Surgery Quality Initiative.
Blood product conservation is associated with improved outcomes and reduced costs after cardiac surgery.
J Thorac Cardiovasc Surg. 2013 Mar;145(3):796-803. PMID: 23414992.

これまたアメリカの病院17施設。5年間で14259例のCABGが行われたのだけど、途中から輸血を減らすためのガイドラインを作り、その前後でいろいろ比較。ガイドライン作成後、術中および術後の輸血が減り、肺炎/長期の人工呼吸/腎傷害が減少。多変量解析で、ガイドライン作成後の死亡のオッズ比は0.57。
輸血の施行と予後とは関連があるよ、という研究はいろいろあるけど、輸血を減らす努力をしたら予後が改善したよ、というのは珍しいのでは。Before-after研究なので、結果の評価は難しいけれど、17施設だからね。

Wu AS, Trinh VT, Suki D, et al.
A prospective randomized trial of perioperative seizure prophylaxis in patients with intraparenchymal brain tumors.
J Neurosurg. 2013 Apr;118(4):873-83. PMID: 23394340.

テント上の脳腫瘍(グリオーマかメタ)に対する開頭腫瘍摘出術後に、フェニトインを7日間予防投与するか、何もしないかでRCT。一施設研究。もともとは142例を対象とする予定だったけど、このままやっても有意差が出ない確率が99.7%あると判明した時点で途中終了(とは言っても123例)。術後30日以内に痙攣を起こしたのはフェニトイン群が10%、経過観察群が8%。臨床的に意義のある痙攣は2例と1例のみ。フェニトイン群で合併症が18%に発生。
そもそも臨床的に問題となるような痙攣は3%にしか発生せず、フェニトインに予防効果はなく、合併症だけ起こった、という結果。それ以前に、脳腫瘍の予防投与って世界中でやられてきたというのに、この程度の研究しかないことに驚き。

日本救急医学会DIC 委員会
第三次多施設共同前向き試験結果報告. 急性期DIC診断基準で診断された敗血症性DICに対するアンチトロンビンの効果
日救急医会誌. 2013; 24: 105-13
敗血症性DICに対するアンチトロンビン(ATIII)についてのRCTの結果が発表されました。
急性期DICスコアが4点以上で、ATIII値が50-80%の敗血症症例58例が対象(13施設、約4年間)。治療群では30IU/kgのATIIIを3日間投与。基本的にそれ以外のDIC治療は禁止(ただし3日間のみ)、ガベキセートは許可された。治療群でDICスコアが有意に改善し、day3でのDIC離脱率は対象群の2.5倍。28日死亡率は13.3%と10.7%(p=1.000)、病院死亡率は16.7%と21.4%(p=0.744)。28日死亡率が有意差を示すためには、4900例が研究対象となる必要があると試算された。
何はともあれ、日本の投与量でATIIIのRCTが行われたのはこれが初めて。素晴らしい。

で、即決されたメインです。

Chong CA.
Don'T read this article.
Ann Intern Med. 2013 Apr 2;158(7):566-7. PMID: 23546571.


1ページちょっとのエッセイ。参照文献もなし。
でもタイトルがいい。
見ちゃダメッと言われたら見たくなる。押すな押すなと言われたら押すのがルール。
内容は、読んでない文献について語るにはどうしたらいいか、について。

まず、この本が元になっています。
読んでいない本について堂々と語る方法
ピエール・バイヤール


で、このエッセイの著者は、この話を医学文献に当てはめた、と。
以下、その要旨(一部、意訳)。

Step 1:読んでないからと罪の意識を持つな。
・世の中には文献がたくさんある。
・いくつかの文献を深く読むよりも、全体を理解することにエネルギーを使うべき。
・EBM信奉者たちは原文を批判的に読めと言うが、そんな話は聞くな。
・深い知識よりも広い知識の方が博識に見られる。

Step 2:堂々と他の人のサマリーを読め。
・読んでない文献について何かを知らないと話せないので、JournalWatchとか、文献の総説を読む。
・他の人が書いたサマリーをしっかりと読めば、批判的吟味をした気分になれる。

Step 3:その文献が発表された雑誌の名前、どんな感じの研究か、レビューアーの感想について記憶しろ。
・”JAMAに死亡率が減るっていう後ろ向き研究が出てたけど、所詮は後ろ向きだもんね”とか言えれば十分。
・雑誌名を出すと、まるでいつもその雑誌を読んでいるかのように思われる。
・その文献を読んだ人ですら、おっ、こいつやるなと思ってくれる。その人たちも結局は文献の一部しか覚えていないから。
・”忘却の海に浮かぶ島のようだ”

Step 4:読んでいない文献について語るときは堂々としていろ。
・自分の上司がある研究の症例数と尤度比について引用しているのを聞いて、畏敬の念を感じたものだ。
・でも実際にそういう人が覚えていることは文献のだいたいの要旨だけ。
・”特定のサブグループには有効かもしれないからまだ分からないよねー”なんて言えば、バッチリ。

Step 5:不測の事態が起こってもパニックを起こすな。
・ごく稀に、その文献について本当に深く読んだ人に語ってしまって、自分に対して知的な挑戦をしてくることがある。
・そういう時は、相手に意見を聞くことによって、相手を褒める機会にしよう。
・”あの研究に致命的な欠陥があるって思った?”
・自分が賢くって意見を求められると思うと、誰でも嬉しい。
・もしくは、もっと危険だけど自分の優位性を維持できる方法として、その文献に関連した研究(ちらっと見ただけ)について質問してしまうという手もある。
・”最近のNEJMのあの研究についてはどう思った?”
・もしその文献すら読んでいたら、本物に立ちふさがるのはやめよう。

”さあ、文献をざっと眺めて、読んでいない文献について語って自分の同僚を感動させよう!”

さて。
以上が要旨。
いやー、ワロタ。
まさかアナルズ読んでて笑わされるとは。
JSEPTICのセミナーで泣かされた時と同じくらいの驚き。

どう考えるかは、あなた次第。
コメント
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