前回と同じく趙炳南氏の医案 邪熱犯肝、気滞血瘀案を趙炳南臨床経験集より紹介します。70年代の症例です。
患者:肖某、29歳女性。
初診年月日:1972年5月10日
病歴:
1966年顔面に紅斑、手足の冷感が出現、肝臓は三横指腫大、某医院検査でLE細胞が陽性となり、狼瘡性肝炎と診断され、4回の入院を経て、1952年5月に外来を受診した。
初診時所見:
主要な症状は疲倦無力、眩暈、関節痛、肝区痛、低熱、月経不調、検査所見:血沈84mm/h、WBC4600、TTT19U、トランスアミナーゼ200U。尿蛋白(2+)円柱陽性、RBC(30~40)/毎視野。
西医診断:
系統性紅斑狼瘡(SLE)、狼瘡性肝炎、狼瘡性腎炎(ループス腎炎)
脈象:沈細緩、舌象:無苔、舌質正常。
中医弁証:邪熱犯肝腎、気滞血瘀。
立法:活血化瘀、舒肝益腎。
方薬:
秦艽15g 烏梢蛇6g 生黄耆30g 黄精15g 玉竹15g 川軍6g 党参30g 女貞子30g 漏芦9g 川連6g 白蔲仁6g 丹参15g 同時にプレドニゾン20mg/d服用。
5月29日上方連服7剤、再診時には肝区の痛みは好転、自汗心煩、関節痛、脈沈細緩、舌苔白膩。上方加減:烏梢蛇6g 漏芦6g 川軍6g 丹参15g 牡丹皮10g 香附子6g 元胡(延胡索)9g 黄精9g 竹玉9g 沈香3g(鎮痛、鎮静、健胃整腸) 荷梗9g(祛暑薬に分類:通気寛胸の効能により暑邪挟湿の胸悶不暢に用いる) 厚朴6g
再服7剤、服薬後肝区の痛みは消失、関節はまだ痛み、脈証細軟。舌象微紅、苔白膩。上方を加減:烏梢蛇9g 秦艽30g 漏芦9g 川連6g 丹参15g 徐長卿9g(祛風痛絡 止痛 解毒消腫) 劉寄奴15g(破血通経 散瘀止痛) 生黄耆30g 黄精15g 玉竹12g 元胡9g 川続断15g(補肝腎 活血 強筋骨)。
11月1日服薬42剤後、一般状況穏定、精神好転、食がやや進まない、再度TTT検査で9U、血沈31mm/h、秦艽丸、黄精丸、地耆丸、人参鹿茸丸等交互に服用6ヶ月半、全身状況は顕著に好転。毎日プレドニゾン5mgのみ服用。すでに、1日仕事が可能になり1月半。1973年1月4日自覚症状無く、飲食睡眠すべて良好、月経は既に正常化し、肝区無痛。TTT8U、血沈31mm/h、トランスアミナーゼ100U、尿蛋白(+)、外来で継続観察。目下なお一日仕事が可能である。
評析
本案は肝腎同病で症状は比較的複雑で病情は重い。趙氏は整体観念から着眼し、古方の秦艽丸加減を臨機応変に応用し治療を行った。活血化瘀と舒肝益腎の併用であり、祛邪と扶正を兼顧するものであり、治療方法を守るが処方自体に拘るものでなく、中医治療のこの類の難病に一路の有効治療を探し出した。秦艽丸系(医宗金鑑)方の組成は、秦艽30g 苦参30g 大黄(酒蒸)30g、黄耆60g、防風45g、漏芦45g 黄連45 烏梢肉15g(酒浸焙乾)である。細末にして、蜜丸として青桐の実大にしたもので、散風止痒、清血解毒の効用がある。
ドクター康仁の印象
「祛邪と扶正を兼顧する」のSLE治療の現代医学的解釈はまったく説明がありませんね。ステロイドなくして治療は不可能だったのではないかと思います。ループス腎炎なら腎炎の経過の基本的なデータがありません。顕微鏡学的血尿の程度はどのように変化したのでしょうか。せめてその数値ぐらいは記載して欲しいですね。ある程度の治療効果は確かにあるでしょうが、50年繰り返しても「医学の進歩」には結びつかないでしょう。2000年代の医案に到達するまで、順に紹介していくつもりですが、印象らしき印象を持ち得ません。
2013年10月4日(金) 記