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慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療7

2012-12-24 20:08:17 | ブログ

宣肺利水 清熱涼血法

風熱外感、肺失宣降の証が慢性腎炎に認められる場合の治療法です。臨床症状は、顔面の浮腫(面目浮腫)、咽頭痛と咽頭の発赤(咽痛咽赤)、口が渇き飲水を欲する(口干喜飲)、肉眼的血尿が見られることもあり、舌の辺や尖は紅であり、舌苔は黄であり、脈は浮数である。現代医学的には「慢性腎炎の急性悪化」であり、その原因は呼吸器の感染症という分野に属するでしょう。

ここで、津液の生成と輸布の基礎理論に再び戻ります。

津液は脾の「水湿運化作用」により水穀から小腸、大腸より吸収され、脾の「昇清作用」により肺に運ばれ、肝の疏泄作用とともに肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)により三焦をめぐり、肺の宣発作用の一部として汗になるとともに、腎の気化作用により、利尿(降濁作用)によってその量が調節されます。

この理論体系から弁ずれば、元来慢性腎炎で腎の気化作用が低下している時に、肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)が低下すれば、津液の輸布に支障が生じて、浮腫が生じるということになります。

基礎理論から、もう少し「肺」について付記します。

宣通と発散を総称して宣発といいます。肺気が上昇して全身および体外に発散することです。その生理機能は

体内の濁気を排出(呼吸の呼)

脾から送られた津液と水穀精微を全身、皮毛に散布

衛気の宣発し、腠理の開合を調節し、汗を体外に排出する 

以上の3つです。

肺の粛降作用は

    呼吸により自然界の清気を吸入

    清気と水穀精微を下へ散布し、腎に清気を納めさせる

    肺と呼吸道を清潔にする

    体内の水液を下へ輸送し、肺の通調水道作用の一部となる。 

以上の4つの機能を粛降作用といいます。

聞きなれない言葉ですが、肺は通調水道(つうちょうすいどうトンデアオシュイダオ)を行う臓であり、肺是水之上源(肺は水の上源)という表現も基礎理論では出現してきます。

発汗させることを開鬼門カイグイメンともいいます。有名な四文字熟語で提壷掲蓋、提壷ティフー掲蓋ジエガイがあります。蓋のついた壷の下の穴から水を出させるには、蓋をずらした方が出やすくなるという日常の経験則から生まれた熟語です。中医学的には宣肺シュアンフェイによって尿を出させる治療法であり、宣肺排尿(シュアンフェイパイニャオ)といいます。簡単な例としては、くしゃみさせて尿を出させるという方法です。宣肺解表剤により、一時的な尿閉を改善したり、尿量を増加させる治療法です。

私自身の感想では、肺の悪性腫瘍の際、病勢が進行すると必ず浮腫が生じます。若いころから、この浮腫の原因はなんだろうかと疑問を抱き続けています。肺朝百脈とも言います。全身の血液が経脈を通して肺に集まり、肺の呼吸によって、気体交換を行ってから、全身に分布することを意味する漢方用語です。

肺は鼻に開竅し、在体は皮、華は毛であり、在液は正常な鼻水(涕テイ)であると最後に付記します。

さて、宣肺利水 清熱涼血法の具体的方薬に話を進めます。越婢湯(えっぴとう)(金匱要略)と五皮飲(ごひいん)(中蔵経)の合方加減を主方とします。越婢湯の元組成は麻黄石膏18生姜炙甘草であり、宣肺泄熱 利水消腫が功能であり、主治は風水挟雑で、突発する浮腫(特に顔面)、悪風発熱、全身浮腫の方剤です。五皮飲の組成は、生姜皮 桑白皮 陳皮 大腹皮 茯苓皮 各等分 粗末一回9g水煎服用です。大腹皮は利気薬で、下気寛中 利水消腫 腹満 腹張の時に下気、中焦を気持ちよくさせる作用があります。五皮飲の効能は、利湿消腫 理気健脾 主治脾虚気滞 水腫(皮水)です。

2005年版の中国書籍「腎病 古今名家 験案全析」(科学技術文献出版社)によれば、越婢湯、五皮飲合法加減として、麻黄 杏仁 石膏 桑白皮 陳皮 大腹皮 茯苓皮 車前草 白花蛇舌草 益母草 白茅根 大小薊を記載しています。麻黄 杏仁は

宣肺に作用し、石膏を配伍して清熱を図り、桑白皮は清肺熱に作用すると共に、陳皮 大腹皮 茯苓皮 車前草とともに利水行気に作用し、白花蛇舌草 益母草 白茅根 大小薊は清熱涼血に作用すると解説されています。熱証が強い者には黄芩 金銀花を加味し清熱解毒の功能を強化し、尿中の赤血球が増す場合には、茜草(根)槐花旱蓮草を加え、涼血止血の功能を強化します。

本稿までに、CKDに対する以下の治療法について紹介しました。


慢性腎炎、(特にIgA腎炎)の漢方治療6

2012-12-24 00:15:00 | ブログ

益気滋腎、活血清利法

気陰両虚、湿熱瘀阻の証に対する治療法です。臨床症状は、面色淡黄、腰膝酸軟、手足心熱、口干喜飲、舌質は紅で歯痕があり、瘀斑や瘀点を認め、脈は沈細です。気虚の病位は脾にあり、陰虚の病位は腎にありますから、脾腎気陰両虚証ということになります。中医学的な問診、望診、切診での病態です。気と津液の関係は、以下の4点です。

1.気は津液を生むことが出来る

2.気は津液をめぐらすことが出来る

3.気は津液を固摂することが出来る

4.津液は気の母でもある

脾気虚、腎気虚が慢性化すれば、陰(津液)を損なうようになります。病因は1によります。陰が損なわれれば気も損なわれ(病因は4によります)悪循環に陥ります。この悪循環の証の一つが気陰両虚ともいえます。

津液の生成と輸布に戻ります。

津液は脾の「水湿運化作用」により水穀から小腸、大腸より吸収され、脾の「昇清作用」により肺に運ばれ、肝の疏泄作用とともに肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)により三焦をめぐり、肺の宣発作用の一部として汗になるとともに、腎の気化作用により、利尿(降濁作用)によってその量が調節されます。脾の「水湿運化作用」の失調は気血生化の源が失調すると同時に、正常な津液でない病理産物である内湿が体内に生じてきます。やや、「こじつけ気味」になるのですが、腎陰虚が進めば、陰虚内熱の熱邪と内湿が互結して、湿熱の一部となり下焦に瘀阻します。湿熱の物理が確定されていませんので、「一部」と表現します。

さて瘀血の成因に戻りますと、瘀血とは?

体内における血液停滞、離経の血液など経脈と臓腑の阻滞した血の総称をさします。

気滞により血が十分にめぐらず血瘀が生じる。

気不摂血により出血し離経の瘀血が生じる。

気虚によっても血が十分にめぐらず血瘀が生じる。

(血寒によっても瘀血は生じる)

(血熱によっても離経の瘀血を生じる)(陰虚内熱でも然り)

以上でしたね。したがって、気陰両虚になると、瘀血の証が出てきます。津血同源です。このような思考回路は漢方医にとっては、至極自然に出来上がっていますが、「基礎理論に矛盾しないように説明しろ」と詰問されると難しいものです。

参蓍地黄湯加味方を主方とします。組成は六味地黄丸(小児薬用直決)加味方とも言えるもので、人参(あるいは党参)、黄蓍生地黄山薬山茱萸茯苓牡丹皮澤瀉のうち黄蓍、人参以外は、六味地黄丸の熟地黄が涼薬の生地黄に変化し、山薬、山茱萸、澤瀉、牡丹皮、茯苓は六味地黄丸そのもので、補腎陰に作用します。六味地黄丸加党参、黄蓍方に、さらに石葦益母草丹参劉寄奴白茅根を加味したものになっています。湿熱の熱邪がある場合には、温薬の人参より、党参が、熟地黄より生地黄が適していると判断しているものと思います。参蓍地黄湯加味方全体を分析すると、党参、黄蓍、茯苓は健脾益気に、生地黄、山薬、山茱萸は滋腎補陰に、益母草、丹参、劉寄奴は活血化瘀に、白茅根、牡丹皮、澤瀉、石葦は清利湿熱に作用すると解説されています。厳密には山茱萸には補腎湯、補腎陰の両方の作用があります。湿熱の証が強い者には黄柏晩蚕沙(ばんばんしゃ)を、陽虚に偏するものには、巴戟天菟絲子を加味します。私自身は晩蚕沙(ばんばんしゃ)の使用経験はありません。

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上海中医薬科大学付属暁光病院腎内科の陳教授の慢性腎炎に対する方剤の基本骨格は、党参15丹参15黄蓍1530生地黄15 山茱萸10 准山薬15でした。参蓍地黄湯加味方と共通します。ご紹介しておきます。

ドクター康仁 記