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ループス腎炎(Ⅳ型) 漢方 陳以平氏医案(中医雑誌1985年第8期より)(腎病漢方治療195報)湿熱壅盛案

2013-10-27 00:15:00 | ループス腎炎 漢方

患者:姚某 26歳 男性

病歴

1979年から関節痛を伴う不規則な発熱が出現、2年後浮腫、蛋白尿が出現。1982年、某病院に入院検査、全身浮腫、顔面部に皮疹あり、24時間尿蛋白定量8.2g、尿FDP19μg/ml、クレアチニン(Cre)1.4mg%、尿素窒素(BUN)26.4mg%、内因性クレアチニンクリアランス56.7ml/min、抗核分子(-)、LE細胞(-)、血沈35mm/h、総コレステロール360mg%、アルブミン/グロブリン3.5/2.7

入院後治療

プレドニゾン、ヘパリン、シクロフォスファミドの治療を受けるが、尿蛋白の下降が明らかでなく、ステロイドを減量すると狂躁乱語などの精神症状が出現し、

?登(クロルプロチキセン:抗精神薬の一種:うつ病患者の抑うつ気分の好転化や不安,不穏,気分易変などの感情を速やかに安定化するとされる)

及び、大量ステロイド治療後に症状寛解、退院時には浮腫は基本的に消失していたが、表情に乏しく、まだ顔面の皮疹があった。毎日プレドニゾン45mg、クロルプロチキセン45mg、フロセミド60mgの経口薬治療を続け、24時間尿蛋白定量は5.9g。

腎生検結果

糸球体により病変の程度の差があり、うち一個の糸球体毛細血管には繊維化様壊死を示し、“ワイヤーループ”形成とメサンギウムの増生があり、メサンギウム基質の増多を伴い、“分葉状”の糸球体病変を示した。一個の糸球体の毛細管中には透明の血栓が認められ、腎糸球体周囲の間質には比較的多くの炎症性細胞浸潤が認められ、近位尿細管細胞の腫脹変性があった。間質の血管には損害は認められなかった。(糸球体の免疫蛍光法では)IgG(+)、IgA(2+)、IgM(3+)C3(3+)の沈着が認められた。

診断:瀰漫性増殖型ループス腎炎

中医弁証

患者顔面紅赤、満月様顔貌、皮疹はまだ軽度残存、精神呆滞、神疲乏力、骨酸楚、下肢には陥没性の水腫あり、舌胖、舌辺歯痕あり、苔薄白膩、脈滑やや数、

証は気滞血瘀、風湿熱毒留阻経絡肌膚、慢性化して内臓に及び損傷を与えたと弁証。

治法:益気活血、祛風化湿、以って祛邪し正気を回復させる。

処方

黄耆 党参 生地 益母草 薏苡仁 鹿蹄草 ?? 鶏血藤 菝葜30g、

虎杖 晩蚕沙15g 当帰12g 

経過

中薬を服用後、クロルプロチキセン、フロセミドを直ちに停止、ステロイドは減量した。半年後、浮腫、皮疹は全消した。再検査C3 0.74U、Cre 1.06mg%、BUN 15mg%、内因性クレアチニンクリアランス101ml/min、24時間尿蛋白定量0.65g、プレドニゾンは毎日10mgを維持量として、病情は既に1年余安定している。

評析

本案の患者は腎生検を受け瀰漫性増殖型ループス腎炎(Ⅳ型)と診断され、ステロイド、細胞毒薬は適応症であり、中西結合方法を採用し、プレドニゾン、シクロフォスファミドなどの西洋薬を併用し、中医弁証論治を進め、益気活血、祛風化湿法を採用して、終に良好な治療効果を得た。

ドクター康仁の印象

陳氏の処方内容から分析してみます。

益気となれば党参、黄蓍が定番ですね。活血となれば丹参、益母草、鶏血藤、牡丹皮あたりでしょう。当帰でも全当帰になれば活血養血となります。浮腫みがあるので薏苡仁(滲湿利水)は当然のことでしょう。

ただし、鹿衘草(ろくていそう)となれば、袪風湿となります。鹿蹄草(ろくていそう)(中国簡体字で鹿?が通常名)は袪風湿薬に分類されます。処方用名 鹿蹄草、鹿衘草、鹿啣草、鹿含草基原はイチヤクソウ科のチョウセンイチヤクソウ P.rotundifolia L.などの全草です。日本産はイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウ、ベニバナイチヤクソウであり、甘苦温 肝腎肺 袪風除湿 補肝腎 強筋骨 止血の効能があり、風湿痺症の関節痛 腰膝酸痛 乏力などの症候に対して桑寄生、牛膝、独活などと用います。以前に紹介した

紫斑病性腎炎の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130403

に鹿衘草に関しての記載が有りますので、御一見ください。

??の使用医案は以前に以下に紹介してあります。

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130415

慢性腎炎の漢方治療 第101報 慢性腎不全の漢方治療 医案9

朱良春氏医案 脾腎両虚 濁陰内遏案

クレアチニン(Cre4.8mg 尿素窒素(BUN) 109mg/dl老人男性尿毒症の漢方治療例(中国当代名医医案医話選より)に、前述していますが、

陳女子の??活のネタ元

慢性腎炎の漢方治療 第86報 紫斑病性腎炎の漢方治療 医案7

徐嵩年氏医案 気虚絡損 血不循経案

http://kojindou.no-blog.jp/happykanpo/2013/03/

に明らかです。徐嵩年氏は陳以平女史の指導教授であり、上海龍華病院の腎内科の教授でした。20034月御逝去。

??(中国名ンチンフオ

別称には、接骨木 接骨草 透骨草などがあります。性味は甘苦、祛風、利湿、止痛などの諸効能があります。主治は風湿筋骨疼痛、腹痛、水腫、風痒(蕁麻疹類似、あるいはその他の皮膚掻痒を伴う疾患)、?疹(?疹は性行為感染症による皮膚疾患と思います。)産後血?(素直に解釈すれば産後の血虚による眩暈となりますが、??活には養血作用が記載されていませんので、血虚による眩暈という解釈には疑問が残ります。)跌打Diē-dá腫痛(打撲等の外傷性の腫れを伴う痛み)、骨折、創傷出血のことです。ともかく、上海学派では、??には蛋白尿を改善する効果があるとされます。

鶏血藤30は、苦温:活血化瘀 舒筋活絡に作用し、

晩蚕沙(ばんばんしゃ)

(蚕沙が一般の呼称です)甘辛温 闢穢(汚いものを除くという意味)は、化濁 袪風除湿に作用します。その正体は、蚕の糞便(平たく言えば糞)が蚕沙です。そして、死んだ蚕の乾燥物が平肝熄風薬の白僵蚕(びゃっきょうさん)になります。

晩蚕沙の処方例として、以下を前述しましたので、興味のある方は御一見ください。

慢性腎不全の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130409

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130413

ネフローゼ症候群の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130613

IgA腎炎の漢方治療

http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20121224

本案はループス腎炎の診断そのものに、私は少し疑念があるのですが、ともかく、専門的になりますが、糸球体上皮細胞下の免疫複合物によるワイアーループ病変が光学顕微鏡で認められたわけですので、活動性の高いループス腎炎、つまり腎機能が悪化しうる可能性が高い増殖性ループス腎炎の腎機能を改善し、寛解まで引っ張っていった陳女史の力量を認めるべきでしょうか?

しかし、腎生検の蛍光抗体法の所見はまさにいい加減ですね。免疫グロブリンの沈着パターンなどは論外そのもので、記載がありませんし、勿論、電子顕微鏡的なアプローチも無いのです。

データがあるのに記載しないのか、データが無いから記載出来ないのか、いずれかですが、中医案を読んでいる読者の判断まかせというのはいかにも中国らしいと感じます。論文としてのクオリティの低さをどうしても感じてしまいます。

それにしても、中医学といのはプライオリティに欠ける学問、あるいは学説ですね。なにしろ、自然界の動植物、鉱物に中薬の基源があるのですから、どこかで、誰かが、自分より先に使用経験があるのです。その意味では、新鮮味とか独創性がないですね。そう思いませんか?弁証に関しても古色蒼然ですね。自分で漢方を標榜しているのにかかわらず、其の類のもどかしさを感じない日はありません。

20131026日(土) 記