西園寺由利の長唄って何だ!

長唄を知識として楽しんでもらいたい。
軽いエッセイを綴ります。

10-鷺娘

2009-07-31 | 時系列的長唄の見方(c)y.saionji
富士田吉治―9「鷺娘」

楽しかった思い出の回想は終り、
凄惨な地獄のセメが始まる。
艶かしい修羅場だ。

『添うも添われずあまつさえ(好きな男と添えられずその上)
 邪見の刃に先立ちて(無惨にも命を落とした)
 この世からさえ 剣の山(この世はすでに地獄だった)』

そして後ジテとなる。
髪をくずし、衣装をぶっ返すと白地に銀の羽模様となる。
これで鷺の本性を現したという、お約束。

『一じゅのうちに 恐ろしや
 地獄の有様ことごとく
 罪を糺して閻王の 
 鉄杖まさに ありありと
 
 等活 畜生 衆生地獄(いずれも八大地獄の名)
 あるいは叫喚 大叫喚(同じく八大地獄の名)
 修羅の太鼓は隙もなく
  
 獄卒四方に群がりて(地獄の番人が取り囲み)
 鉄杖振り上げ くろがねの
 牙噛みならし
 ぼっ立てぼっ立て
 二六時中がその間 くるりくるり(一日中追い回す) 
 追い廻り追い廻り
 ついにこの身は ひしひしひし』 
 
凄惨なセメに、ついに倒れ伏す瀕死の白鷺。

『哀れみ給え 我が憂き身
 語るも涙 なりけらし』


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

9-鷺娘

2009-07-30 | 時系列的長唄の見方(c)y.saionji
富士田吉治―8「鷺娘」

次は再び鼓唄。

「恋に心も移ろいし
 花の吹雪の散りかかり
 払うも惜しき 袖傘や』

「傘」を引き出したところで、今度は「傘づくし」。
傘を持っての軽快な振りとなる。
このくだりのリズミカルな歌詞は、
「百千鳥娘道成寺」の『さっさどんどん』風。

『傘をや 傘を差すならば
 てんてんてん 日照り傘
 それえ それえ
 差し掛けて いざさらば
 花見にごんせ吉野山
 それえ それえ
 匂い桜の花傘
 縁と月日を
 廻りくるくる 車傘
 それそれそれ そうじゃえ
 それが浮き名の端となる』
 

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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

8-鷺娘

2009-07-29 | 時系列的長唄の見方(c)y.saionji
富士田吉治―7「鷺娘」


そして、「百千鳥娘道成寺」を踏襲したクドキ。

『縁を結ぶの神さんに
 取り上げられし 嬉しさも
 余る色香の恥ずかしや』

次は流行の小歌を引用して、汐汲みの振り。
”返し歌”というのは、古い曲によくある手法だ。
”組歌”時代のなごりといえる。

『須磨の浦辺で汐汲むよりも
 君の心は汲みにくい さりとは
 実に誠と思わんせ

 繻子の袴のひだ取るよりも
 主の心が取りにくい さりとは
 実に誠と思わんせ
 しや ほんにえ』

『白鷺の 羽風に雪の散りて
 花の散りしく
 景色と見れど あたら眺めの
 雪ぞ散りなん 雪ぞ散りなん
 憎からぬ』


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

7-鷺娘

2009-07-28 | 時系列的長唄の見方(c)y.saionji
富士田吉治―6「鷺娘」


まずは鼓唄
(鼓のみの伴奏で唄う。謡曲や、曲舞の手法を取り入れたもの)
で始まる。

『妄執の雲晴れやらぬ朧夜の
 恋に迷いし 我が心』

そして普通の長唄になる。

『忍ぶ山 口舌の種の恋風が
 吹けども傘に雪もって
 積もる思いは淡雪の 
 消えてはかなき 恋路とや
 
 思い重なる胸の闇 
 せめて哀れと夕暮れに(せめて哀れと言っておくれ)
 ちらちら雪に 濡れ鷺の
 しょんぼりと可愛らし
 
 迷う心の細流れ
 ちょろちょろ水の一筋に
 怨みの外は白鷺の(怨むこと以外、知らない)
 水に慣れたる 足取りも
 濡れて雫と消ゆるもの

 我は涙に乾く間も(私の涙は乾く間がない)
 袖干しあえぬ月影に(人目を忍ぶ恋だから)
 忍ぶその夜の話を捨てて』(切ない逢瀬で我慢なの)


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚

6-鷺娘

2009-07-27 | 時系列的長唄の見方(c)y.saionji
富士田吉治―5「鷺娘」

「鷺娘」は、
【成就しない恋の業により、畜生道に落ちた娘が
 鷺に生まれ変わる。
 だが、未だ男への妄執絶ちがたく、
 迷い苦しみ、ついには地獄の責めに身悶えて
 死ぬ】という趣向。

初代菊之丞の「傾城道成寺」(3月6・7日に記載)をヒントに
二代目菊之丞が創作したものだ。

内容は、鷺の精が娘に化身して現れ、
前世で報われなかった男への恨み辛みをのべる。
そして一転、娘盛りの昔に戻り、種々の華やかな
振りを見せる。
そして”鐘入り”の代わりに衣装を”ぶっ返し”
(衣装の仕掛けの一つ。肩のところの仕付け糸を
引き抜き、衣装の模様を変える手法)、髪をくずして
後ジテの鷺の精になり、地獄の攻めを見せる、というもの。


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tea breaku・海中百景
photo by 和尚