文化人類学者、上田紀行著「生きる意味」を読んでいる。
この本の著者は、ますます大きくなる日本の経済格差、人間をヒトという心を持た
ない労働力に見立てた効率一辺倒の企業システム、修身雇用制の崩壊、行き場
を失った若者たちの増える自殺や無差別殺人など、今の日本を取り巻く状況を、
正しい分析と洞察力で10年前に鋭く予測していたのである。
戦後の半世紀で日本は目覚ましい経済成長を遂げた。経済成長こそがすべての
幸せにつながると誰もが信じて疑わなかった。日本経済は米国に次ぐ世界第二
の規模になりGDPはドイツ、フランス、英国を合せたよりも大きい500兆円までに
なった。そして1992年日本のバブルが弾けた。
その後の日本経済は低迷し右肩上がりの成長は過去のこととなった。経済成長
の時代は終わったのである。我々は成長時代に味わった過去の蜜の「甘さ」が
忘れられず、小泉政権が掲げる骨太の方針なる構造改革路線を突き進んだ。
しかしその結果は、労働の流動化を促すという名目で企業は効率化を図って従
業員をリストラし、人材派遣業の大幅な緩和で非正規従業員を増やし、賃金の
低下と労働環境の悪化を招いた。
今また安倍政権は性懲りもなく経済成長を掲げて過去の繁栄をもう一度と呼び
かけている。経済成長を我々はこれまで宗教のように信じてきたけれど、それは
間違っていたのである。成長という手段が目的のようになってしまっているけれ
ど、本来目的とすべきは中味であって成長を示す数値ではない。騙されてはなら
ない。
経済成長して富が増えても配分は常に一握りの上層部だけに偏り、国民には十
分に回ってこない。実体経済が上向いたわけでもないのに、アベノミクスとやらで
株価だけ上がったところで、大企業と投資家は儲けても、一般国民には何の恩恵
もない。
これからはもう、我々は「経済成長教」を信奉することはやめ、中身のない繁栄な
どにはおさらばして、成長の中身がどういうものなのかハッキリ見極める力を持た
なくてはならない。
とても素晴らしい内容の本だと思います。皆さんも是非ご一読を!