LOS ANGELES FLIGHT DIARY

愛機ビーチクラフトボナンザで南カリフォルニアの空を駆ける日本人飛行機乗りの日記。

目の前でProp Strike

2011-02-28 | 航空関連エッセイ

愛機グラマンでサンタモニカ空港に帰還した時の事。いつものように着陸後すぐにRwy21から左旋回して南側のインフィールドに出て、Taxiway Bの手前で停止。ここでサンタモニカ空港のグランドコントロールを呼んだ。すると、”すぐに左に曲がってセスナの後ろにつけて停止しろ!”と捲し立てるような言い方の管制官。何だこいつ?!とちょっと思ったが、少し様子が変だ。

右エンジンを停止させ、プロペラが完全にフェザーになっているBeechcraft Duchessが1機、Taxiway B3の辺りを西向きによたよたとタクシーしている。そのBeechcraft Duchessに道をゆずる為、他の機体が停止しているのだ。そもそも、なんで右のプロペラがフェザーになっているのか?と思った。サンタモニカ空港の構造を考えると、本当に右エンジン故障でプロペラをフェザーにして緊急着陸をしてきたのなら、Taxiway B3の辺りにいるはずがなく、B2やB1の辺りにいないとおかしい。そのBeechcraft Duchessはサンタモニカ空港ベースのフライトスクール、Justice Aviationの保有する訓練機で見慣れた機体。おそらく訓練生がランナップのプロペラフェザーチェックでProp Controlを思いっきり手前に引いてしまい、チェックリスト通りの300rpm以内の回転低下どころか、本当にプロペラをフェザーさせてしまったのではないか?と推測した。いずれにせよ、左エンジンだけでまっすぐにタクシーするのは大変。

自分も一度だけ経験があるが、給油の為の移動に両エンジンを始動するのが面倒で、ランプから右エンジンだけを始動させてBeechcraft Duchessをタクシーさせた事がある。当然ながら、これがとんでもなく不安定だった。

その問題のBeechcraft Duchessだが、不運にも左メインギアのタイヤの空気圧も低めだった。パンクしている程でもないが、あきらかに圧が少ない。お陰で、左エンジンのみのタクシーで機体は右にいきたがり、それを補正すべくノーズギアを左に操舵しながら機体は左右にフラフラとロールを繰り返し、空気圧の低い左メインギアのタイヤのせいで、そのフラフラしたロールとヨーが助長されている。”このままJustice Aviationまでタクシーできないから、一度Transient Parkingに停めて助けを呼ぶよ”、そのBeechcraft Duchessのパイロット(おそらく教官が交信しながら操縦している)。

そしてフラフラとしながらタクシーウェイからパーキング側に行くべく左に曲がろうとし、タクシーウェイとパーキングのわずかな高低差のある舗装路の上を通過する時、パシパシ!!!と火花が出た。こちらが見てる目の前でProp Strikeをしたのだ。ランディングギアが長く、腰高なBeechcraft Duchessだが、こんな程度の段差でProp Strikeをするとは驚きだった。左右にフラフラとロールしていたのと、左タイアの空気圧が低かったのと、左エンジンだけが回りながら左に曲がろうとした事の不安定さと、わずかな傾斜という全ての要素が重なり、比較的プロペラとグランドのクリアランスが高いBeechcraft DuchessでもProp Strikeしてしまったのだ。

”Shit!!! I just had a prop strike.”とパイロットが無線で叫ぶ。

”OK understand. I am sending you a help, stop the engine and wait right there please.”と管制官。

なかなか痛々しい光景だった。プロペラは交換かオーバーホール。左エンジンを下ろしてオーバーホールに準じたインスペクションを受けないといけない。あと、Prop Strikeという不名誉な経歴がこの機体について回る。これでしばらく、Justice AviationでMulti-engineの訓練ができなくなる。気の毒だ。

他人の失敗は自分の教訓になる。まずは左メインギアのタイヤの空気圧が低いまま出発したこと。ついつい面倒で、自分もやってしまいそうだ。それだけなら然程大きな問題でもなく、安全にタクシーできる。ただ、今回のように片発でタクシーしないといけないという他の要因が加わると辛い。野球で言えば既に1アウトの状態でゲームを開始するようなものだ。それから、左右にフラフラしている状態で、わずかな傾きがあるタクシーウェイからランプに向おうとした判断。普通の状態なら問題ないクリアランスだが、機体が左右にロールしている不安定な状態でわずかな傾斜に入るのは得策じゃない。あと、ランプには駐機用のチェーンもあるので、片方のエンジンを吹かしながらタクシーしていくのは賢明じゃない。この判断でさらに1アウトだ。片発で1アウト、空気圧の低いタイヤで1アウト、わずかな傾斜を乗り越え1アウト、合計3アウトでゲームオーバー。

飛行機遊びは楽しいが、気を引き締める所は引き締め、安全面で妥協はしちゃいけないなと思い知らされる。

 

 

(掲載している写真はProp Strike後にTransient Parkingに置かれた機体。右プロペラがフルフェザーになっているのが分る。)

 


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