LOS ANGELES FLIGHT DIARY

愛機ビーチクラフトボナンザで南カリフォルニアの空を駆ける日本人飛行機乗りの日記。

昨年のジェネアビの販売傾向

2017-03-15 | 航空関連エッセイ

毎年のように確認しているGeneral Aviationの市場動向。一言で表すなら、今年もジェネアビ、ピストンエンジン機の衰退が激しい。ビジネスジェットやターボプロップに関しては、2000年代半ばの最盛期に比較して、32%程度の販売数減。ピストン機はというと、最盛期の63%減!!という悲惨さ。世界中の皆がピストン機に乗らなくなってしまった、そして買わなくなってしまった。

2016年、一番ピストン機を製造販売した会社はシーラス(Cirrus)、317機。ベーシックグレードのSR20は35機だが、SR22やSR22Tはそれぞれ133機と149機も売れている。訓練機というより、レジャー用途での購入が多いのが理由だろう。自分の目から見ても、機体本体はデザインも性能も、商品としての魅力に富んでいると思う。

販売数第二位はセスナ(Textron Aviation/Cessna Aircraft)。217機を販売している。Cirrusとは反対の傾向で、ベーシックグレードのセスナ172S スカイホークが100機を占める。個人レジャー向けのC182Tターボスカイレーンが50機、C206Hターボステーショネアーが36機。上位機種のノンターボは1機も売れてない。未だに100機のセスナ172が売れるのは凄いことだが、やはり機体の信頼性と飛行特性の素晴らしさ(誰でも飛ばせる秀逸な設計)が大きな理由だろう。1、2年に1回くらいセスナ172を飛ばす機会があるが、毎回唸らされる。素晴らしい機体だ。奇跡の機体といってもいい。

販売数第三位はイタリアのテクナム(TECNAM Aircraft)。なんと191機も販売している。ベーシックグレードから双発機まで万遍なく売れている。やはり設計が新しい!ということが、商品価値につながっているのだろう。過去4年間、毎年200機弱を売り続けている。すごいことだと思う。セスナ以外のアメリカの老舗が束になってかかっても、この販売数に敵わないのが悲しい。

販売数第四位はダイアモンド(Diamond Aircraft)、132機。DA20が20機、DA40が48機、DA42が34機、DA62が30機。特徴的なのは、DA42とDA62というピストン双発機の占める割合が極めて高いこと。理由は単純明快で、進歩がない双発機の市場にあって、極めて高い魅力の商品(機体)を提供し続けているから。極論を言えば、今現在、レジャー目的としてDA62以外の双発ピストン機を新品購入するなんて、金をドブに捨てているのと同じだと思う。それくらい、他社は停滞、ダイアモンド社は躍進している。グライダーの設計に端を発する同社の哲学が、全てのピストン機に受け継がれているのが素晴らしい。

販売数第五位はパイパー(Piper Aircraft)、93機。販売数としては悲惨。訓練向けのArcher IIIが42機売れている。その次はMalibu M350が26機で、高級レジャー機として根強い人気。唯一無二の存在なので、Malibuが売れるのは納得。コンセプト、作り、マイナーながら頻繁な内外装デザインの更新など、Malibuは商品としての魅力を保ち続けている。Piper社の他の機種では見られない厚遇を受けているMalibuだが、それだけ同社のドル箱なのだろう。双発機ではSeneca Vがわずか3機!、Seminoleが10機という寂しさ。パイパーの機体は好きだし、Senecaに至っては大好きだ。でも、新品で買う価値は見いだせない。いい加減、新しい魅了的な商品を出すべき。M350を新製品と呼ぶのとか、痛いマーケティングはやめた方がいい。

販売数第六位はビーチクラフト(Beechcraft/Textron Aviation)、45機。昨年の1割増しとなったが、やはり寂しい数。Bonanza G36が25機、Baron G58が20機売れた。いい機体なのはわかるが、未だに新品で売れるのが凄いし、ちょっと理解できない。企業として新製品を作るほどの体力は無いのだろうが、少なくともMooneyのようにコクピットを一新したりするなど、工夫がないことには未来がない。巨大なコクピットパネルに、申し訳程度のG1000をポン付けし、最新のグラスコクピット!と熱弁するのも寒い。Beechcraftの作りがいい!というのは真実だが、今の時代、それだけを唱えるのは宗教に近い。非常に残念だが、そう遠く無い未来、Beechcraft BonanzaとBaronは終焉を迎えるだろう。

ちょっと話題に出たMooneyは、中国マネーに屈した老舗。2014年に復活を遂げたが、2014年1機、2015年11機、そして2016年はわずか7機の販売にとどまっている。ドアが左右につけられたり、色々工夫はしているのだが、はやり設計が古すぎる。30万ドル程度で買う中古機の市場なら別だが、80万ドルという新品シングルエンジン高速機の市場で、それに見合う商品価値があるとは思えない。開発中のM10に期待したい。それまで中国経済が好調ならばいいが。

アクロ機のExtraは27機販売、CubCraftersは26機販売している。American ChampionはSuper Decathlonなどの高性能アクロ機が売れ、19機を販売。小さいながら、根強い人気がある市場。そこに特化した企業は強い。

ピストン機では悲惨なビーチクラフトとパイパー社だが、ターボプロップは別の話しで、両社とも大活躍。KingAirは106機、パイパーM500/M600は34機売れている。M600のライバル?と言えるかわからないが、シングルターボプロップのベストセラー、Daher TBM900とTBM930は54機も売れた。M500/600より遥かに高価なのに、商品価値が高いと販売は衰えない。スイスが誇るPilatusは100機の販売で、うちPC12は91機も売れている。唯一無二の存在、PC12の魅力は高いが、セスナがその市場を虎視眈々と狙っている。セスナキャラバンは84機、それを真似したQuest Kodiakは36機売れており、僻地で活躍する機体の需要は安定している。ちなみに一番うれたターボプロップはAir Tractor、112機。広大な農地を持つ北米では欠かせない働く機体。

 

あたり前だが、商品価値がそのまま販売数に直結している。古い設計でも多数売れ続ける機体は奇異な存在で、やはり古い設計の機体を"信頼性”という言葉で売り続けようとするのは無理がある。ピストン機の市場だけで言えば、ビーチクラフトもパイパーも終わったかなと思う。様々な法的規制と市場規模が影響しているのだろうが、ピストンジェネアビ機の市場では新陳代謝がない。古い機体は古い会社ごと消え去り、新しい機体は新しい会社から産まれてくるのしか、この業界の新陳代謝の道はないのかもしれない。


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