F老人の気ままな島暮らし日記

尾道市生口島で気ままな島暮らしの日々。

読書記録044「群青-日本海軍の礎を築いた男(植松三十里)」

2011年08月07日 08時23分55秒 | 読書記録

やっと本書を入手することができ、一気に読みました。長崎海軍伝習所艦長要員第1期生、まさに、日本最初の艦長で、徳川幕府の「連合艦隊司令長官」(軍艦奉行)となる「矢田掘景蔵」の生涯を描いています。新田次郎文学賞を受賞した作品です。

はったり屋の勝海舟と対照的な律儀な性格で、咸臨丸による太平洋往復航海の最初の艦長候補であったが、艦の保全、乗員の安全を考えると経験不足であり、不安な航海は無理という極めて常識的な判断で断る。「提督」として乗艦した木村摂津守とは子供のころからの同志であった。人望、知識、技能の無い勝海舟は帰国直後、航海中の責任放棄などの罪により海軍を追われるのであるが、現在はすべてが勝の業績のように思われている。指揮官としては矢田掘の方が数段優れていますが、政治家ではありません。日本伝統の「サイレントネービー」の最初の具現者かもしれません。

榎本武揚の独断による幕府艦隊の脱走の際は官軍と引渡しの調整をしていたため同行せず、結果的に「逃げた海軍総裁」と言われ、明治政府においても冷遇されます。

軍艦奉行並となり、初めて官名をつけるとき、塩飽水夫の名を世に示すため「讃岐守」としたこと、母親の死によって失語症になる長女が数年後に言葉を取り戻す、日本標準時の必要性を説くといったエピソードは感動するだけでなく、小説としての面白さを倍加しています。

植松三十里さんの小説は「彫残二人」などを読みましたが、吉村昭さんを思わせるすばらしい歴史小説を書かれます。巻末の参考資料一覧を見ただけでも丹念さが想像されます。陸軍軍医部長になる林研海に嫁ぐ長女をはじめとする家族のその後も知りたくなります。

P1030109a