現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

秋田雨雀 「先生とお墓」講談社版少年少女世界文学残集49現代童話集所収

2020-04-19 11:55:34 | 作品論
 尋常小学校三年生の時に一年間だけ教わった先生の思い出と、先生のお墓について書かれた掌編です。
 ほとんどストーリーはなく、先生のエピソードも、最初の授業の時に黒板に大きな○を書いて子どもたちの答えをすべて正解とした上で先生の答えは地球であったこと、なんだかわからないが先生に悪い噂が立ったこと、その後先生が寂しそうにしていたこと、教師をやめて東京で学生(旧制の大学か?)になったこと、肺病にかかってひとり寂しく死んだこと、遺言で町の墓地に葬られたこと、などだけです。
 しかし、その僅かな紙数の中で、読者に、生きること、世の中のこと、人の評価のこと、死ぬことなどが、ぼんやりとですが心に残ります。
 特に、墓石すらなく、友人の手書きのぼうくいと二本の常盤木と誰かが持ち込んだいくつかの自然石があるだけで、雑草の中に草萩の赤い花やすすきの白い穂が背伸びしている先生の墓を、すぐそばの大往生した大金持ちの立派な墓石のある墓と対比することで、読者の子どもたちに人生の意味を考えるきっかけを与える象徴性は、漠然としているだけに深く心の中に残ります。
 「おもしろく、はっきりわかりやすく」という、かつて「子どもと文学」(その記事を参照してください)が打ち出した路線を表面的になぞっただけの単一の価値観に支配されている現在の児童文学の状況を思うと、こうした象徴性を失ったことの大きさを改めて考えさせられます。


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交渉王、芳樹

2020-04-19 11:14:50 | 作品
 目の前のたなにも、その前のテーブルにも、いろいろなお菓子が並んでいる。色とりどりのパッケージが、あざやかだ。それぞれの中身を想像すると、食欲がそそられてくる。よだれがでてしまいそうだ。
(どれにしようかなあ?)
 芳樹は、目うつりがしてしまってこまった。あたりには、はかり売りのジェリーやクッキーなどのお菓子がはなつ甘い香りがただよっている。
(やっぱり来てよかったなあ)
 芳樹は、しみじみとそう思った。
 自転車で十分もかかる大正堂まで、明日の遠足のお菓子を買うために、わざわざやってきていたのだ。
 大正堂は、お菓子の問屋さんだ。でも、近くの人のために小売りもしている。
一個五円のガムやあめから、千円以上もする高級チョコレートまでなんでもそろっている。それも、すべて定価の二割から三割引きだった。
 遠足のおやつは、金額の上限が決められている。今回の場合は、三百円。だから、その買い出しにとって、大正堂以上にたのもしい味方はない。
 芳樹の学校のルールでは、三百円というのは定価ではなく実際に払うお金ということになっている。
(本当かな?)
 先生には確かめてないけれど、代々そういうことになっているから、まあいいんじゃないかな。
 だから、近くのお菓子屋さんやコンビニで、定価で買ったりしたら大損してしまう。スーパーなら、割引になっているけれど、大正堂ほどではなかった。

「よっちゃん、来てたの」
 そう声をかけてきたのは、同じクラスの裕香だ。奈々子や明日美も一緒にいる。
「うん、やっぱり、ここっきゃないよね」
 芳樹は、手に下げたお店の買い物かごを振ってみせた。
「そうだよね。みんな、ここに来るんだよね」
 裕香は、右だけのえくぼを見せながら、ニッコリとわらった。たしかに、店の中には、他にも、芳樹と同じ三年生の姿がチラホラ見えていた。みんな、考えることは同じようだ。
「よっちゃん、何を買うの?」
 裕香が聞いてきた。
「うーん、まだ決めてない」
 芳樹がそう答えると、
「じゃあ、遠足でかえっこしようね」
と、裕香がいった。
「うん、約束だよ」
 芳樹もうなずいた。
「じゃあね」
 裕香は小さく手を振って、先にいっている奈々子たちを追いかけていった。

 三百円円以内で、いかに工夫してバラエティに富んだ物を買いそろえるか。それが、芳樹たちにとっては腕の見せ所だ。ポイントは、安くてみんなに人気があって数の多いお菓子を買うこと。いくら自分が好きだからって、みんなに人気のないお菓子を買ってはだめだ。誰とも交換できずに、ひたすらそれを食べなければならないはめになる。それと、分けるのが難しい「イカの姿やき」みたいのも、遠足にはむかない。細かくさいて、分割するという奥の手もあるけれど、形や大きさが不ぞろいになる。交渉レートが複雑になって、めんどうくさくなってしまう。値段の高い一点豪華主義もだめだ。クラスの友だちの好みはバラエティに富んでいる。それに合わせて、品揃えをしておく必要があった。
 芳樹は、じっくりと店内を歩きまわっていた。そして、クラスのみんなの顔を順番に思い浮かべていった。
(えーっと)
 良平は、ハイチューが好きだろ。アルちゃんは、プチポテトに目がない。ゴンちゃんとは、チョコの交換レートが高い。女の子たち用には、ポイフル(果汁グミ)は欠かせない。
(いくらかな?)
 芳樹は、必要なお菓子を慎重に価格を確認していった。それから、たなからとって買い物かごに入れる。
 芳樹の頭の中には、見えないコンピューターがあるみたいだ。合計金額が、きちんと計算されていく。
(えーっと、あと百二十八円)
 芳樹は、値段を確認しながら最後のおかしをえらんでいた。
(どれにしようかな?)
 迷った末に、カールとスティックタイプのチョコレート菓子をかごに入れた。こういう数の多いお菓子は、交換の時に組み合わせるとなかなか効果的だ。思いかけずに高いお菓子と交換できるときがあって、貴重な戦力になる。
 芳樹は、もう一度合計値段を確認した。二百九十五円。
 最後に、一個五円のあめをかごに入れた。これでピッタリ三百円だ。
 芳樹は、かごをかかえて、レジの列に並んだ。

 翌朝、芳樹はいつもより早い時間に学校へ行った。
校門の前には、すでに観光バスが何台もとまっている。これに乗って、今日の目的地である県立七沢公園に向かうのだ。そこは広々とした公園で、ハイキングコースや民芸館、大きな芝生の広場などがある。
 校庭で、付き添いの先生の注意事項を聞いてから、みんなはバスに乗り込んだ。
「ねえ、スティックチョコ一個と、プチポテト三枚を、交換しない?」
 芳樹は、さっそく前の席のゴンちゃんに声をかけた。
 車内でお菓子を食べるのは、禁止されている。
 でも、交換するだけならかまわないだろう。芳樹の交渉は目的地に着く前から、もう始まっていた。
「いいよ」
 ゴンちゃんはあっさりOKした。
(うーん、プチポテト四枚でも良かったかな)
 芳樹は、ちょっぴり後悔していた。
(ゴンちゃんのスティックチョコのレートは、プチポテト四枚) 
 芳樹は、頭の中のメモリーにすばやくインプットした。
「ねえ、プチポテトとハイチュー二個と、交換しない?」
 次のターゲットは、通路をはさんで反対側の席にすわっているアルちゃんだった。

 ピリピリピリー。
 秋山先生のホイッスルがあたりに鳴り響いた。これで、お弁当の後の自由時間はおしまいだ。芳樹は、空のお弁当箱やレジャーシートをナップザックにつめてせおった。
「おーい、三班、集まれーっ」
 班長の康之くんが、大声で呼んでいる。芳樹も、他の班の人たちと一緒に、大急ぎで集合場所に並んだ。
(うまくいったなあ)
 整列しながらも、つい笑顔になってしまう。今日一日の物々交換の成果には、すごく満足していた。
 特に、お菓子の交換は、期待以上にうまくいった。ねらいどおりに、何回も交換を繰り返して、だんだん数を増やしていく。最終的には、十種類以上のお菓子やいろいろなお弁当のおかずを、交換で手に入れることができたのだ。まるで昔話のわらしべ長者みたいだ。
 芳樹の頭の中のコンピューターによると、初めは三百円だったお菓子が、五百円以上の価値を生み出した事になる。
 もっとも、芳樹が持ってきたのはお菓子だけではなかった。家からみかんを三個も持ってきていた。これを、一粒ずつお菓子と交換する裏技まで駆使していた。これは果物だから、三百円の中に入れなくてもOKだ。
 おまけに、去年の担任で教育委員会に出向中の小野沢先生が、ぼくたちのクラスにうまい棒を差し入れしてくれていた。ひとり一本ずつだったけれど、いらない子にもらったり、ハイチュー一個と交換したりして十一本もゲットしたのだ。
 四本(テリヤキバーガー味二本と、たこ焼味、チーズ味)食べたけれど、まだ七本ものこっていた。すごくリッチな気分だった。

 芳樹の交渉上手な才能は、今までにも何度も発揮されていた。
 少年野球チームの祝勝会。バーベキュー大会。子ども会のハイキング。催し物があるたびに、物々交換でいろいろな物を手に入れていた。
 最高にうまくいったのは、去年の運動会だった。
 たった十四本のプチキットカットを、食べきれないほど豪華なおやつに変身させた実績がある。手に入れたのは、ポテトチップスやチョコレートといったお菓子だけではなかった。から揚げやおにぎりやたまごやきなどまで、たっぷりと手に入れていた。
 まず、チョコレートが好きそうな子にねらいをつける。
「ねえ、このキットカットとうまい棒三本と交換しない?」
 このとき、相手の子に余っていそうな物をいうのがこつだ。たいていの場合、自分がいらない物は気前良くくれるものなのだ。
 そして、今度は、うまい棒を食べたそうな子を探していく。
「ねえ、うまい棒とグミ三個と交換しない?」
 これを、根気良く繰り返していった。
 相手が、うんといわない時は、違う組み合わせを提案した。
 最後には、最初からは想像できないほどたくさんの、お菓子やおかずを手に入れることができたのだ。
(交渉王、芳樹)
 ひそかに自分のことをそう呼んでいた。

 その晩、夕ご飯を食べているところだった。
「どうだった、遠足は?」
 にいちゃんの正樹が、芳樹にたずねた。
「うん、けっこう楽しかったよ」
 芳樹が答えると、
「どんなところが、おもしろかった?」
 今度はおかあさんが、おつゆをよそいながらたずねた。今日もおとうさんの帰りは遅いから、三人での夕食だ。
「うん、やっぱり自由行動の時間かなあ。みんなで、手つなぎおにをやったよ」
 芳樹がそういうと、
「なーんだ。そんなのいつでもできるじゃない」
 そういって、おかあさんは笑っていた。
「それと、お弁当とおやつかな」
 芳樹がつけくわえた。
「あら、そう。そんなにおいしかった? いつもと変わらないけどね」
 おかあさんは、自分のお弁当がほめられたと思って、よろこんでいた。
「うん、うちのもおいしかったけれど、他の子からもいろいろもらったんだ」
 芳樹は、今日の成果を思い出していた。
「あらあら、食いしん坊ねえ。ちゃんと自分のもお返しにあげたんでしょうね?」
「うん、ちゃんとあげたよ」
 芳樹はそう答えたけれど、交渉で得したことはおかあさんには内緒にしていた。

 ルルル、…。
 そのとき、電話がかかってきた。
「はい、石川ですが、…」
 おかあさんが電話に出た。
「あら、山本さん、…」
 おかあさんは笑顔であいさつしている。電話は、トシくんのおかあさんのようだ。
(なんだろう?)
 今日は遠足では違う班だったので、特にこころあたりはない。
 芳樹は、またご飯を食べ始めた。
「えっ、はあ、そうですか、…」
 おかあさんの表情が、急にけわしくなった。時々、チラチラとこちらを見ている。芳樹は、おちおちご飯を食べていられなくなってしまった。
「…、はい、どうも申し訳ありませんでした。よくいって聞かせますから」
 おかあさんは、ペコペコと何度もおじぎしながら、受話器をおろした。

「芳樹っ!」
 いつもだったら、おかあさんは芳樹のことを、「よっちゃん」と呼んでいる。きちんと名前を呼んだのは、怒っているしょうこだ。芳樹は、ビクッとしてはしをとめた。
「トシくんの遊戯王のカードを、何枚もまきあげたんだって? トシくんのおかあさんが、電話でそういってたわよ」
 おかあさんは、一気にまくし立てた。
「まきあげてなんかいないよ」
 芳樹が反論すると、
「うそおっしゃい。トシくんは、芳樹にまきあげられたっていってるのよ」
 おかあさんはそういって、芳樹をにらみつけた。
「そんなあ。トシくんがそんなこというはずないよ」
 芳樹は口をとがらせた。
「それに、何度も買ってあげたのに、いつのまにかカードが少なくなっているんだって、おかあさんがいってたわよ」
 おかあさんの怒鳴り声は、だんだん大きくなっている。どうやら、とうとうトシくんのおかあさんに、カードのことを気づかれてしまったらしい。
「違うよ。いいカードと交換したんで、枚数が減ったからじゃないかなあ」
 芳樹はそういいわけした。
「何よ、交換って?」
 おかあさんの声は、金切り声になってきた。
「だから、学校なんかで、みんなでカードの交換をしてるんだよ」
 芳樹は懸命に説明した。

 でも、たしかにクラスの中で何度も交換しているうちに、トシくんはだいぶ損していたかもしれない。
 いいカードと普通のカードの交換には、決まった相場(枚数)があるわけじゃない。だから、おっとりしているトシくんは、芳樹たちのいいカモになっていた。
「でも、トシくんのおかあさんは、すごく少なくなったっていってるのよ」
 おかあさんは、ぜんぜん納得してくれない。
「だから、何回も交換しているうちに減っちゃったんじゃないかな」
 芳樹は、けんめいに説明しようとした。
「あなたの方はどうなのよ。トシくんの分があなたの方にきてるんじゃないの?」
 とうとう話が、芳樹のカードの方にきてしまった。どうにもまずい展開だ。これだけは避けたかったところだった。
「それは、…」
 芳樹は口ごもってしまった。
「じゃあ、持っているカードを、みんな見せてごらんなさいよ」
 おかあさんの声は、すっかりヒステリックになっている。
「ごちそうさま」
 雰囲気が険悪になってきたので、にいちゃんはさっさと夕食をすませると、自分の部屋に逃げ込んだ。

 芳樹は、しぶしぶ自分の部屋へもどった。
 勉強机の一番下の引き出しをあけると、そこには芳樹のいろいろな宝物が入っている。
東京ドームで買った坂本選手のサインボール、野球大会の準優勝メダル、スイミングの十二級の合格証、…。
 大事なカードだけを入れているカードホルダーも、そこにはいっている。じつは、このカードホルダーも、にいちゃんがいらなくなったのを、ただでもらったものだ。
 芳樹は、カードホルダーを大事そうに取り出した。カードホルダーは、カードを一枚ずつビニールのケースに入れるようになっている。ほこりや傷がつかないようにカバーするとともに、一枚ずつ出さずにながめられる。
 それから、ベッドの下に手を突っ込んだ。そこには、あまり大切でない物がつっこんである。引っ張り出してみると、そこからはいろいろなものが出てきた。
幼稚園の卒園証書、七十点以下のテストの束、旧型のテレビゲーム、…。
大事ではないカードを入れたお菓子のアキカンも、そこにあるはずだ。
 芳樹はベッドの下をさんざん引っかきまわした後、ようやくアキカンをひっぱり出した。
 アキカンのふたを開けてみると、中にはごっそりとカードが入っている。種類別に輪ゴムでとめてあるから、どんなカードが何枚あるか、芳樹はすべて把握していた。
 そして、カードホルダーとアキカンを持って、おかあさんに見せにいった。
おかあさんは、カードホルダーをパラパラッとめくっていたが、そのときは何もいわれなかった。
 カードホルダーに入れてある遊戯王のカードは、どれもマニアだったらよだれをたらしそうなめずらしいものばかりだ。
でも、価値のわからないおかあさんには、どれも同じように見えたのだろう。

 次に、芳樹はアキカンのふたをあけて、ザザザッと中身を出した。
「えーっ、こんなに?! いったい何枚、持ってるのよ」
 おかあさんは、すっかりびっくりしている。たしかおかあさんの記憶では、芳樹には10枚入りのカード入りの袋を、1回か2回買ってやっただけだ。それが、いつのまにかすごく増えている。
「えーっと、たしか236枚だったかな」
 芳樹は、ボソボソっと小さな声でいった。
「なんで、こんなに増えてるのよ。おかあさんにだまって買ったりしてたの?」
 おかあさんの顔が、だんだんけわしくなってくる。
「まさかあ、だまって買ったりなんかしないよ。お小遣い帳はきちんとつけてるでしょ」
 芳樹が弁解すると、
「じゃあ、どうしたのよ。やっぱりトシくんなんかから、取り上げたんじゃないの?」
 おかあさんは、もう涙声になっている。
「だから、他のカードと交換したり、にいちゃんや他の子からいらないのをもらったりして、だんだんに増やしていったんだよ」
 芳樹は、けんめいに説明した。
「でも、交換したんなら、枚数は変わらないはずでしょ。どうして、あんたばかり数が増えて、トシくんは減っちゃうのよ」
 素人のおかあさんには、なかなか理解できないらしい。
「それが、交渉なんじゃない。例えば、トシくんがどうしても欲しいカードがあるとするよ。ぼくがそれをあげたら、お返しに一枚じゃなくて何枚かくれるんだよ」
 芳樹は、カードホルダーの中から一枚カードを抜き出した。
「例えば、このカードなんか、すごく人気があるんだよ。こういったカードだったら、普通のカードの三枚分ぐらいの価値があるんだよ」
 芳樹は普通のカードを三枚ならべて、おかあさんにカード交換の仕組みを説明した。

「でも、なんであんたが、いつもトシくんの欲しいカードを持ってるのよ?」
 それでも、まだ納得してくれない。
「それは、また別の子と交渉して、安く手に入れておくのさ。カードのだいたいの相場と、誰がどのカードを持っていて、何を欲しがっているかがわかれば、有利に交渉できるんだよ」
 そこのところは、芳樹はちょっと得意そうな声を出していた。
「うーん、…。でも、そんなの小学生がやることじゃないわ」
 どんなに芳樹が交渉について説明しても、おかあさんは納得してくれなかった。
「とにかく、トシくんにカードを返しなさい」
 おかあさんは、がんとしてトシくんにカードを返すようにいいはっていた。
「うん、わかったよ。でも、どれがトシくんのだったのか、覚えていないよ」
 芳樹は仕方なく、これ以上がんばるのをあきらめた。
「そうねえ。こんなにいっぱいあるんなら、トシくんが持っていた枚数分選んでもらいなさい」
 おかあさんは、カードを手にしながらいった、
「わかった。じゃあ、こっちのカードなら、必要なだけ持ってってもいいよ」
 芳樹は、アキカンに入っていたほうのカード渡しながらいった。
「そっちも返しなさいよ」
 おかあさんは、カードホルダーも取ろうとした。
「こっちは、ぜったいだめ!」
 芳樹は、あわててカードホルダーを自分の体の後ろに隠した。まったく、おかあさんは、これらのカードを集めるために、芳樹がどれだけ苦労したかぜんぜんわかっていないんだから。
 これでは、遊戯王は236枚だけど、実はポケモンカードは372枚も持っているなんて、とてもいえなくなってしまった。



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