現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

神沢利子「白いジャケツの少年」いないいないばあや所収

2018-03-24 08:52:00 | 参考文献
 主人公の幼女は、アルバムの白いジャケツの少年が一番上のにいさんだと聞かされて、不思議な気もちがします。
 なぜなら、一番上のにいさんはずっと大きくて、いつも主人公たちに対して威張っているからです。
 写真の白いジャケツの少年はもっと幼く、まわりには誰もいません。
 そのころは、上のにいさん以外、誰も生まれていなかったと聞かされて、さらに不思議な思いがします。
 主人公は六人兄弟で、上のにいさんと下のにいさんは三歳離れていますが、あとはみんな年子です。
 だから、一人っ子状態の上のにいさんの写真がたくさんあるのです。
 自分が生まれる前の世界があること、人間は成長して変わっていくこと、そしてこの作品では書かれていませんが自分が死んだ後の世界もあることの不思議さ。
 これらは、誰もが幼少期に感じることでしょう。
 私も子どものころ、死ぬことが怖くて怖くて(それは生まれる前のことが思い出せないことと一体でした)、死ぬ前に不老不死の薬が発明されることをどんなに願ったことでしょう。
 不思議なことに、その恐怖は自分の初めての子どもが生まれた時に薄れました。
 おそらくそれは、子孫を残すことのできたDNAのなせる技なのかもしれません。
 さて、このような普遍的な子どもの恐れを描いた作品はそれまでもありましたが、神沢のこの短編集ほど優れたものはなかったかもしれません。
 「いないいなばあや」が、1979年の児童文学者協会賞を獲得したのも至極妥当なことのよう思えます。
 その当時の協会賞やその候補の作品群をながめてみると、いかに当時の児童文学の世界が今よりも文学的に優れていたかがわかります。
 そして、当時の子どもたちの文学に対する受容力も、現在よりもはるかに高かったのだと思われます。

いないいないばあや (岩波少年少女の本)
クリエーター情報なし
岩波書店
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