現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

若杉 冽「原発ホワイトアウト」

2018-03-08 08:52:50 | 参考文献
 現役の官僚が匿名で書いたというふれこみで、ベストセラーになった小説です。
 しかし、どこにも現役の官僚でなければ書けないような情報はなく、電力業界、政界、官僚組織、マスコミなどのゴシップ情報の羅列にすぎません。
 もっともそういった現役の官僚でなければ書けないような情報があれば、作中にも書かれていた国家公務員法違反になってしまうでしょう。
 また、プロローグと終章にとってつけたよう書かれている、三流のパニック映画のシナリオのような部分との整合性もまったくありません。
 現役官僚が書いたというよりは、ルポライター(おそらく複数)とエンターテインメント作家による合作のような感じを受けました。
 偶然の多用、荒唐無稽な設定、デフォルメされた登場人物、読者サービスの官能シーンなど、典型的な通俗小説の手法が用いれていますが、それも三流レベルです。
 もっとも、現役の官僚が書いたことになっているので、あまりうまくてもまずいかもしれません。
 この作品での一番の成功は、現役の官僚が書いたというふれこみと、それをゴーストライターならぬ「若杉冽」というゴーストオーサー(もしかすると、形だけ関わった官僚がいるかもしれませんが)にしたアイデア(編集者によるものか?)でしょう。
 ゴーストオーサーならば誰が書いたかは問題にならないし(ご丁寧に霞ヶ関で書いた人間を捜しているという情報まで流しています)、印税も発生しないので、ゴーストライターへの手間賃(おそらく原稿は買取でしょう)をのぞけば、出版社の丸儲けです。
 児童文学の世界でも、芸能人などの有名人を担ぎだして、そのネームバリューを利用したゴーストライターによるベストセラーはたくさんあります。
 それ自体は、出版社が生き残るためにやっているビジネスなので止めることはできませんが、読者たちには有限な時間しかないのですから、なるべく引っかからないように注意が必要です。
 今回は、私もまんまと引っかかってしまいました。

原発ホワイトアウト
クリエーター情報なし
講談社
コメント
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