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現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

台風クラブ

2024-08-13 10:54:30 | 映画

 1985年公開の日本映画です。

 台風がやってくる数日前から始まり、台風直撃時にピークを迎え、台風一過の晴天で映画は終わります。

 それに合わせて高まっていく田舎の中学生たち(男子三名、女子五名)の熱狂を描いています。

 それぞれに、日常生活や学校や将来に不満や不安を抱いている彼らが、台風の猛烈な風雨の中でそれらを解き放っていく姿が、子どもたちの持つ計り知れないエネルギーを感じさせてくれます。

 特に、ラストの少し前で、土砂降りの中で下着姿(やがてはそれも脱ぎ捨てて)で踊り狂うシーンは、当時評判になりました。

 また、学校に残ったグループ(男子二名、女子四名)とは別行動で、都内にプチ家出をした少女を演じた工藤夕貴の清新な演技も魅力的です。

 

 

 

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彼女は夢で踊る

2024-08-12 12:30:45 | 映画

 2019年公開(広島において。全国公開は2020年)の日本映画です。

 2019年まで広島に実在していたストリップ劇場を舞台に、そこに若い頃から勤めて閉館時は社長だった男性を主役にして、踊り子たちやスタッフたちとの人間関係を描いています。

 男性の過去(劇場に勤めはじめる頃や踊り子の一人への失恋など)と現在(閉館か存続かの間に苦悩する姿、かつて恋した踊り子の幻を見るなど)を自由に行き来して、彼とストリップとの関わりを浮き彫りにしていきます。

 ストリップのシーンも含めて全体に幻想的な映像が美しく、観客を主人公と一体化させることに成功しています。

 また、全編に流れるラジオヘッドの「クリープ」が雰囲気にぴったりで痺れます。

 男性に限らず女性にも、このような劇場が今でもあるなら、ストリップを見てみたいという気にさせます。

 

 

 

 

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トイ・ストーリー3

2024-08-09 09:20:24 | 映画

 2010年に公開された人気アニメ映画の第三作です。
 初めは子ども向けに作られていたこのシリーズが、持ち主の成長と共に次第にどちらかというと大人向けに変化しています。
 トイ・ストーリーと共に育った観客たちはそれ以上の速さで成長しているので、この設定はビジネス的には必然かもしれません。
 この作品では、児童文学の大きなテーマのひとつである「子ども時代にサヨナラする日」が、非常にうまく描かれています。
 具体的には、主人公のウッディたちの持ち主のアンディが他の都市にあるカレッジに入学する時に、おもちゃたち(子ども時代の象徴)とサヨナラします。
 アンディがいつも彼と一緒だったウッディ(彼の子ども時代に獲得した重要な価値観(友情、優しさ、勇気、あきらめないこと、思いやりなど)の象徴)だけは一緒に連れていき、他の仲間たちは屋根裏部屋に保存しようとします。
 彼のおもちゃたちに対する思いの深さにも感動しますが、ウッディ以外のおもちゃたちが自分たちの役目が終了したことを受け止め、自分たちの今後の運命を受け入れる姿に心を打たれました。
 このシーンには、ミルンの「プー横丁にたった家」のラストで、クリストファー・ロビンが、プーさん以外のおもちゃたちとサヨナラするシーンとピタリと重なります。
 手違いで廃棄されそうになったり、独裁者が支配する保育園へ寄贈されたりしたことから、ウッディたちの戦いが始まるのですが、その冒険活劇をとおして、観客は前述した重要な価値観を十二分に追体験できます。
 ラストで、アンディ自身の手で、おもちゃたちは新しい持ち主に手渡されます。
 そして、ウッディも自分自身の意志で、アンディと一緒に行ける特権的な立場を捨てて、仲間たちと新しい持ち主と暮らす人生を選択します。
 アンディとウッディのお別れのシーンでは、本当の意味での「子ども時代にサヨナラする」時なので、二人の気持ちを思うと涙がおさえられませんでした。
 このシリーズは、持ち主側は児童文学で言うところの成長物語なのですが、おもちゃたちは年を取らないピーターパン的な存在です。
 そのため、この人気シリーズを続けるためには、新しい持ち主に移行するのは必要な手法です。
 ご存じのように、2019年に「トイ・ストーリー4」(その記事を参照してください)が公開されて、日本でも大ヒットしました。


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アラバマ物語

2024-07-31 10:52:30 | 映画

 1962年のアメリカ映画です。
 主演のグレゴリー・ペックは、この作品でアカデミー主演男優賞を受賞しました。
 1932年から1933年にかけての、アメリカ南部のアラバマ州の田舎町を舞台にした作品で、大きく分けると三つの要素から構成されています。
 一番目は、当時6歳(翌年は7歳で小学校一年生になります)の少女(当時ベストセラーになってピューリツァー賞も受賞した原作者の子ども時代)の目を通して描かれた田舎町の大人の世界(四年前に妻を亡くして、一人で(黒人の家政婦に手助けてしてもらっています)主人公と4歳年上の兄を育てている弁護士の父や隣人たち(特に近所の家に軟禁されている精神障碍者の青年をブーと呼んで恐れています)を、ノスタルジーも含めて鮮やかに描いていて、この部分はまさに児童文学の世界そのものです。
 二番目は、父が弁護を引き受けた、黒人男性による白人女性への暴行レイプ事件(完全な冤罪で、真相は女性側が誘惑しようとしているところを彼女の父親に見つかり、彼女は父親から暴行を受けるとともに父と口裏を合わせて罪を黒人男性になすりつけました)の裁判の行方(裁判の前に被告は白人たちにリンチされそうになり、父親(弁護士)や子どもたち(主人公と兄と友だち)の頑張りや機智で命を救われます。無実は明らか(暴行の犯人は左利き(被害者の父親は左利きです)なのに、被告の黒人青年は子どもの頃の事故で左腕が使えません)なのに、陪審員(全員が白人男性)は有罪の評決をし、絶望した黒人青年は脱走して、不運にも警告の銃弾が当たって死んでしまいます)。
 三番目は、その後に、裁判で黒人を弁護したのを逆恨みした被害者(?)女性の父親(暴行の真犯人)に子どもたちが襲われた事件(子どもたちは実は心優しい青年のブー(名優ロバート・デュバルが無名時代に演じました)によって救われ、犯人はブーともみ合って死にますが、弁護士一家に同情的だった保安官の機智により事故死扱いになります)。
 人種、女性、障碍者への差別に対して真っ向から取り組み、しかもそれを子どもの目を通すことにより、より鮮明に描いている点が特に優れています。
 また、背景として大恐慌後の農民たちプワーホワイトの困窮する姿も描いていて、こうした差別の問題を(権力者もプアーホワイトも一緒くたにして)白人たちの責任とする単純な二項対立の構造に陥ることも免れています。
 さらに、公民権運動が勝利する前の1962年にこの映画が作られて大ヒットしたことも、歴史的に大きな意味を持っていると言えます。
 個人的な事ですが、理想の父親像と言うと、真っ先に浮かぶのがこの映画でグレゴリー・ペックが演じた優しくて頼もしく子どもたちが心から尊敬できる弁護士なのですが、実際に自分が父親になってみると遠く及ばなかったことは言うまでもありません。

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ネバーエンディングストーリー

2024-07-21 08:15:19 | 映画

 1984年公開のドイツ・アメリカ映画です。

 ミヒャエル・エンデの児童文学の映画化(原作の前半部分で、後に続編が作られました)のファンタジー映画です。

 いじめられっ子の主人公が、本の中の不思議な世界、ファンタージェンが虚無に滅ばされるのを救うのに、自身が本の世界に参加します。

 主な登場人物(勇者、女王など)はすべて子供で、楽しい世界が展開されます。

 CGがまだ一般的ではない時代の特殊撮影なので、手作り感が満載で楽しめます。

 特に、重要な働きをする空飛ぶ竜のファルコンは、顔がぶす犬っぽくて、かわいらしいです。

 また、全編に流れるリマールのテーマ曲がさわやかで、作品世界にすごくマッチングしています。

 

 

 

 

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オズの魔法使

2024-07-20 10:58:58 | 映画

 1939年公開のアメリカのミュージカル映画です。
 1900年に書かれたボームの児童文学「オズの魔法使い」(こちらには送り仮名の「い」がついていますが、映画の邦題はなぜか「い」が抜けています)が原作ですが、上映時間制限(いわゆる100分映画です)により短縮するために、かなり大幅にストーリーは変えられています。
 しかし、アカデミー主題歌賞を獲得した「オーバー・ザ・レインボー(虹の彼方に)」を初めとした今でも耳に残る楽曲の数々(アカデミー作曲賞を受賞)とダンス、当時は珍しかったカラー映像(カンザス(主人公の女の子ドロシーの故郷)のシーンはモノクロで、オズの国にいる場面だけをカラーにして効果をあげています)が、ファンタジー世界(当時はそういった言葉は一般的ではありませんでしたが)を見事に再現しています。
 CGなどまったくなく、特殊撮影さえ珍しい時代に、ファンタジー世界を創り出すためにいろいろな工夫がなされ、そのため安易なCGには到底できないような独特の味わいを生み出しています。
 特に、主人公と一緒に旅するかかし、ブリキの木こり、ライオンには、カンザスにあるドロシーのおじさんおばさんの農場で働いていた三人の男たち(ドロシーとは仲良しです)を、メーキャップでそれぞれのキャラクターに変身させているアイデアは素晴らしいです。
 特殊メイクとはとても言えないレベルですが、その手作り感が作品に親しみを与えています。
 また、マンチキン(小さな人たち)の国、黄色いレンガの道(つまり、エルトン・ジョンも歌っている「イエロー・ブリック・ロード」ですね)、あたり一面のケシ畑、エメラルドの都などは、現在のディズニーランドのアトラクションなどに雰囲気は似ていますが、はるかに美しくできています(まあ、当然、この映画のセットの方が先なので、ディズニーランドに影響を与えているのでしょうが)。
 主役のドロシーを演じた当時16歳だったジュディ―・ガーランドは、美しい歌声と達者な演技でアカデミー特別賞を受賞しました。
 なお、映画監督のヴィンセント・ミネリとの間に生まれた娘のライザ・ミネリも、1972年公開の「キャバレー」でアカデミー主演女優賞を受賞しているので、史上唯一の母子受賞となっています。
 実は父親のヴィンセント・ミネリもアカデミー監督賞を受賞していますので、ライザ・ミネリは恐るべきアカデミー賞血統ですね。


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スタンド・バイ・ミー

2024-07-19 09:23:43 | 映画

 1986年公開のアメリカ映画です。

 スティーブン・キングの原作はホラーなのですが、映画では四人の少年たち(特に、主人公のゴーディとリーダーのクリスの二人の間)の友情を中心に描いて、日本でも大ヒットしました。

 ブルーベリー摘みに行って行方不明になった少年の死体の在り処を、ひょんなことから知った彼らは、死体を探しに線路伝いに森へ行くことになります(発見者になればヒーローになれるかもしれないのです)。

 冒険旅行の間のエピソードは、1960年代のアメリカの田舎町の少年たちの風俗をそっくりいかしていて、どれも生き生きとしています。

 また、作家志望の主人公が語る劇中劇も、いかにもスティーブン・キングらしいブラック・ユーモアがきいていて効果的です。

 しかし、この映画で描こうとしているのは、そうした表面上のストーリーではなく、語り手でもある主人公の内面なのです。

 アメリカン・フットボールの花形選手だった兄を事故で失い、そのショックから立ち直れないでいる両親のために自分のアイデンティティを失いかけていたゴーディは、この死体探しのための冒険旅行の間に、クリス(若き日のリバー・フェニックスが演じていてすごくかっこいいです)との友情を確かめることによって、立ち直るきっかけをつかみます。 

 そういった意味では、ラストに流れるベン・E・キングの名曲「スタンド・バイ・ミー」は、この作品(特に映画で描こうとした事)にはピッタリで、映画の題名もこれにしたのは正解でした(原作の題名は、Body(死体)という味もそっけもないものです)。

 

 

 

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ペーパームーン

2024-07-11 11:42:11 | 映画

 1973年公開のアメリカ映画です。

 詐欺師(聖書を使った詐欺や釣り銭を使ったトリックなどのちゃちい物です)の親子(?)の珍道中を描いた一種のロードムービーの趣のあるコメディです。

 実際の親子であるライアン・オニールとテータム・オニールが、息ぴったりの演技を見せています。

 特に、テータムは、この演技でアカデミー賞の助演女優賞を最年少で受賞しました。

 大恐慌後のアメリカの雰囲気を、わざと白黒にした映像が良く表しています。

 しゃれた題名は、紙で作ったお月さま(血のつながっていない親子)でも、信じ合えば本物になることを意味しています。

 

 

 

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トッツィー

2024-07-08 12:03:05 | 映画

 1982年公開のアメリカ映画です。

 主演のダスティン・ホフマンが、男女二人を演じるという、彼でなければできないんじゃないかと思われるような難役に挑んでいます。

 うまいけれど理屈っぽくて仕事がない俳優が、女性に扮してテレビの連続ドラマの役を獲得したことから、いろいろなハプニングが起こるコメディです。

 彼が演じた自立した女性像が好評を得て、彼女は一躍人気者になります。

 しかし、虚像の女性と、実像の男性の間の矛盾で、本人はにっちもさっちもいかなくなります。

 特に、好きになった人の父親に気に入られて求婚されるシーンは、けっこう笑えます。

 ただし、好きになった人にはレズビアンに、別の女友達にはゲイに思われるところは、現代のLGBTQの観点では、微妙かもしれません。

 出演者も芸達者ばかりでそれぞれみせますが、特に相手役のジェシカ・ラングは、彼女に刺激を受けて、男にふりまわされる女性から自立を目指す女性を魅力的に演じています。

 

 

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或る夜の出来事

2024-06-19 14:24:29 | 映画

 1934年公開のアメリカ映画です。

 じゃじゃ馬娘の大富豪の令嬢が家出して、ふとしたことから新聞記者の青年と出会って恋に落ちるという典型的なア・ボーイ・ミーツ・ア・ガールの映画です。

 こうしたありふれた設定でも、名匠フランク・キャプラの手にかかると映画史上に残る傑作になります。

 しゃれた会話、魅力的な登場人物、わくわくするような音楽が合体して、アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞の主要五部門を独占しました。

 クラーク・ゲーブルの溌溂とした男前ぶり(古い言葉ですがこれがピッタリときます)とクローデット・コルベールのコケティッシュな魅力が存分に発揮されて、古き良き時代の映画の典型を見る思いです。

 

 

 

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Mr.Boo!ミスター・ブー

2024-06-12 08:00:36 | 映画

 1976年公開(日本公開は1979年)の香港映画です。

 ホイ三兄弟が出演するドタバタ・コメディ(監督はマイケル・ホイ、音楽はサミュエル・ホイが担当)です。

 日本では全く期待されていなかった穴埋め映画に過ぎなかったのですが、意外にヒットしたので、彼らの他の映画もミスター・ブーのシリーズもの(実際は違うのですが)として公開されました。

 くだらないギャグやコントの連発なのですが、当時の香港の人々のヴァイタリティが良く出ていて日本でもおおいに受けました。

 彼らやジャッキー・チェンの映画に描かれていた当時の香港には、猥雑だけど何とも言えない魅力があって、一度は行ってみたい外国のひとつでした。

 1999年に中国に返還されてからの変貌はご存じの通りで、まさに隔世の感があります。

 

 

 

 

 

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レインマン

2024-05-30 08:22:36 | 映画

 第61回アカデミー賞で作品賞を受賞した映画です。
 自閉症の兄がいることを知った弟が、父の遺産を独占することになった兄を病院から連れ出し、管財人に遺産の半分を要求します。
 兄のいた故郷のシンシナチからロサンゼルスへ飛行機で帰ろうとしますが、飛行機や高速道路を極端に恐れる兄のために、一週間かけて一般道を運転して帰る羽目になります。
 その間のいろいろな事件を通して、二人は互いに兄弟としての愛情に目覚めます。
 主演男優賞を獲得した兄役のダスティン・ホフマンの名演技はもちろんすごいのですが、弟役の人気俳優トム・クルーズも数多い出演作の中で一番の演技でしょう。
 この映画が、自閉症についてどのくらい医学的に正しいのかは分かりませんが、少なくともこの映画を見た観客は、自閉症の人たちやその家族について理解しようと努めはじめることは間違いないでしょう。

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緑の光線

2024-05-27 09:15:16 | 映画

 1986年のフランス映画です。
 ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞しています。
 パリで秘書をしている主人公の若い女性は、ヴァカンスの二週間前に、女友達から一緒に行くはずだったギリシャ旅行をキャンセルされて途方にくれます。
 あわてて、周囲の人たちに一緒にヴァカンスに連れて行って欲しいと頼みます。
 周りの人はみんな優しくて、いろいろと提案してくれるのですが、彼女はどれも気に入りません。
 自分の家族は、アイルランドに一緒に行こうと誘ってくれたのですが、アイルランドは寒いし雨が降るし海がないからいやだと断ります。
 昔の恋人は、自分が持っている山の家(部屋?)を貸してあげると言ってくれますが、一人じゃいやだと断ります。
 女友達たちに相談すると、一人旅や団体旅行を勧めてくれますが、そんなのみじめだと言い張ります。
 とうとう泣き出してしまった彼女を、女友達の一人が同情して、自分も参加する彼女の家族のヴァカンスに誘ってくれます。
 そこは海辺で彼女が望む太陽もたっぷりある素敵な所ですし、女友達の家族もみんな親切なのですが、彼女は少しも打ち解けず(例えば、彼女はベジタリアンなのですが、他のみんなが子羊のローストを食べている最中に、空気も読まずに動物を食べる行為を公然と批判します)、女友達が仕事の都合で途中で帰ることになった時に一緒にパリへ戻ってしまいます。
 しかし、パリでの休暇にも満足できず(若い男にナンパされそうになって、あわてて逃げます)に、また昔の恋人に電話して、彼の山の部屋を借りてその場所まで行ったのですが、やはり一人旅と山間地(彼女は、ヴァカンスは海と太陽がある所でと決めつけています)は耐えられずに、部屋にも入らずにパリへ帰ってきてしまいます。
 パリでの休暇はやはり満足がいかないのですが、偶然出会った女友達に、今度は彼女の家族が所有している海辺の部屋を借りることができます。
 そこでのヴァカンスは、有名なビーチも太陽もたっぷりあって、やはり一人旅のスウェーデンの若い女性とも知り合って、楽しくなりそうでした。
 でも、若い二人連れの男たちにナンパされると、ノリノリの奔放なスウェーデンの女性(海辺ではトップレスですごして、夜は男漁りをしています)についていけずに、その場を逃げ出してしまいます。
 最期に、パリへ帰る列車を待つ間に待合所で知り合った、彼女と同じ読書好き(その時に彼女が読んでいて彼の方も知っていた本がドストエフスキーの「白痴」というのは、舞台が1986年のフランスだとしてもちょっと無理があるように思えます)の若い男(家具職人見習い)と知り合って、ようやくヴァカンスに満足します。
 「緑の光線」というのは、ジュール・ヴェルヌ(「海底二万マイル」や「八十日間世界一周」や「月世界旅行」で有名なフランスの小説家でSFの祖と言われていて、「十五少年漂流記(二年間の休暇)」などで児童文学作家としても知られています)の小説の題名で、自然現象としては太陽が海に沈む時に光の屈折や反射のために一番波長の短い緑色だけが一瞬見えることです。
 フランスでは、ヴェルヌの小説の影響もあって、それを見ると幸運が訪れると信じられているようです。
 映画では、浜辺で老人グループがヴェルヌの作品について話していて科学的な説明もしている場面に、主人公が偶然出くわす(ご都合主義ですね)のですが、そのころでもまだヴェルヌの作品が読まれていたのかは興味深いです。
 他の記事にも書きましたが、1945年のフランスで、主人公の視覚障碍者の少女が、ヴェルヌの「海底二万マイル」の点字本(当時では貴重品です)を熱心に読むシーンが出てくる小説(アンソニー・ドーア「すべての見えない光」(その記事を参照してください)もありました。
 フランス人(たぶんパリなどの大都市の住人に限られていると思いますが)のヴァカンスへの異常な情熱(他の記事で紹介した映画にもたくさん出てきます)やイージーゴーイングな男女の出会いにたいする風刺がヨーロッパで評価されたのでしょうが、日本人の目で見ると主人公がわがまますぎるように思えますし、最期は女友達たちが彼女を評して言ったいわゆる「「白馬の王子様」を待っている女性」に、実際に「白馬の王子」様(彼女の好みに合っているだけでそんなに魅力的ではありませんが、それまで彼女をナンパしようとした男たちがいかにも軽薄でひどいので、観客もそれよりはましに感じられます)が現れるラストも感心しませんでした(おまけに、実際に「緑の光線」を二人で見ます)。
 この作品でも、「木と市長と文化会館 または七つの偶然」(その記事を参照してください)と同様に、相手を論破しようとする議論好きなフランス人(攻撃的な人もいますが、穏やかな人もいます)がたくさん出てきますが、それは監督のエリック・ロメールの好みなだけなのかもしれません。
 

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昨日、今日、明日

2024-05-24 08:54:28 | 映画

 1963年公開のイタリア映画です。

 翌年、アカデミー賞の外国語映画部門で受賞しました。

 以下の三話からなるオムニバス形式の映画で、イタリア女性の過去、未来、現在を描いています。

ナポリのアデレーナ

 失業中の頼りない亭主を支えるたくましい女性が描かれています。

 闇たばこ売りを摘発されますが、妊娠中及び出産後六ヶ月は逮捕されないことを知り、次々に子供を作って収監を逃れ、とうとう七人も子供が生まれます。

 妻の方は七人産んでもますますたくましく美しく輝いていますが、夫の方はげっそりしてしまって、八人目はとうとう期限までに妊娠できずに、彼女は刑務所に収監されてしまいます。

 しかし、周囲の人々のカンパと請願によって、無事釈放されます。

ミラノのアンナ

 仕事中毒の夫に愛想を尽かせて、留守中に浮気をしている有閑マダムが描かれます。

 彼女の高級車の運転を誤って事故を起こした、頼りない作家の浮気相手をさっさと見限って、その場を立ち去ります。

ローマのマーラ

 魅力的で気のいい高級娼婦が描かれています。

 彼女のアパートの隣に住む老夫婦の所へ休暇で来た、孫の神学生に一目惚れされて、大騒動(彼女に魅了されて、神学校をやめると言い出す。さらに、彼女の正体を知って絶望し、外人部隊へ入ると言い出す)が起きますが、根は善良な彼女のおかげで神学生も気を取り直して学校へ戻ります。

 三話を通して、主役のソフィア・ローレンの魅力が全開です。

 たくましい下町の主婦、奔放な有閑マダム、気立てのいい高級娼婦、どれをとっても、彼女の明るさ、素晴らしい肢体、美しさなどが存分に発揮されています。

 それを引き立てる相手役のマルチェロ・マストロヤンニの演技も素晴らしいです。

 女房の尻にしかれている気弱な亭主、頼りないインテリ風の浮気相手、マーラに振り回されるボンボン育ちの気のいい上客、どれにおいても、彼の人のよさと軽妙な持ち味が生きています。

 彼ら名優たちを自在に操って、明るくユーモアたっぷりにイタリア社会の断面を描いて見せた、名匠ウ゛ィットリオ・デ・シーカ監督の腕前はさすがです。

 

 

 

 

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フライド・グリーン・トマト

2024-05-23 10:15:20 | 映画

 1991年公開のアメリカ映画です。

 甘いものを食べすぎて太って、目的もなく怠惰に過ごしている自分と、テレビでのスポーツ観戦に夢中で自分に関心を持たない夫との生活(子供はすでに巣立っています)にうんざりしている主人公は、フェミニズム系のセミナーに参加したりしています。

 そんな彼女は、ひょんなことから老人施設にいる老婦人(他の人の付き添いできています)から、戦前にその地域に住んでいた二人の女性の友情についての話を、断続的に聞くことになります。

 二人は、さまざまな困難(最愛の人(一人にとっては兄で、もう一人にとっては恋人)の事故死、家庭内暴力、そこからの脱出、アメリカ南部における黒人に対する人種差別、子供の大怪我(片腕を失います)、夫による子供の誘拐、それを防ぐための殺人(実際は死体遺棄)、裁判、病気、死など)を、力を合わせて乗り越えていきます。

 主人公は、この話を聞く過程で、自分のアイデンティティを取り戻して、自立した女性になっていきます。

 変わった題名は、二人の女性が営んでいたカフェの名物料理の名前です。

 主人公と老婦人を演じた、ともにアカデミー主演女優賞の受賞経験のある二人の名女優、キャシー・ベイツ(「ミザリー」)とジェシカ・タンディ(ドライビングMissデイジー)の演技が光ります。

 

 

 

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