1986年のフランス映画です。
ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞しています。
パリで秘書をしている主人公の若い女性は、ヴァカンスの二週間前に、女友達から一緒に行くはずだったギリシャ旅行をキャンセルされて途方にくれます。
あわてて、周囲の人たちに一緒にヴァカンスに連れて行って欲しいと頼みます。
周りの人はみんな優しくて、いろいろと提案してくれるのですが、彼女はどれも気に入りません。
自分の家族は、アイルランドに一緒に行こうと誘ってくれたのですが、アイルランドは寒いし雨が降るし海がないからいやだと断ります。
昔の恋人は、自分が持っている山の家(部屋?)を貸してあげると言ってくれますが、一人じゃいやだと断ります。
女友達たちに相談すると、一人旅や団体旅行を勧めてくれますが、そんなのみじめだと言い張ります。
とうとう泣き出してしまった彼女を、女友達の一人が同情して、自分も参加する彼女の家族のヴァカンスに誘ってくれます。
そこは海辺で彼女が望む太陽もたっぷりある素敵な所ですし、女友達の家族もみんな親切なのですが、彼女は少しも打ち解けず(例えば、彼女はベジタリアンなのですが、他のみんなが子羊のローストを食べている最中に、空気も読まずに動物を食べる行為を公然と批判します)、女友達が仕事の都合で途中で帰ることになった時に一緒にパリへ戻ってしまいます。
しかし、パリでの休暇にも満足できず(若い男にナンパされそうになって、あわてて逃げます)に、また昔の恋人に電話して、彼の山の部屋を借りてその場所まで行ったのですが、やはり一人旅と山間地(彼女は、ヴァカンスは海と太陽がある所でと決めつけています)は耐えられずに、部屋にも入らずにパリへ帰ってきてしまいます。
パリでの休暇はやはり満足がいかないのですが、偶然出会った女友達に、今度は彼女の家族が所有している海辺の部屋を借りることができます。
そこでのヴァカンスは、有名なビーチも太陽もたっぷりあって、やはり一人旅のスウェーデンの若い女性とも知り合って、楽しくなりそうでした。
でも、若い二人連れの男たちにナンパされると、ノリノリの奔放なスウェーデンの女性(海辺ではトップレスですごして、夜は男漁りをしています)についていけずに、その場を逃げ出してしまいます。
最期に、パリへ帰る列車を待つ間に待合所で知り合った、彼女と同じ読書好き(その時に彼女が読んでいて彼の方も知っていた本がドストエフスキーの「白痴」というのは、舞台が1986年のフランスだとしてもちょっと無理があるように思えます)の若い男(家具職人見習い)と知り合って、ようやくヴァカンスに満足します。
「緑の光線」というのは、ジュール・ヴェルヌ(「海底二万マイル」や「八十日間世界一周」や「月世界旅行」で有名なフランスの小説家でSFの祖と言われていて、「十五少年漂流記(二年間の休暇)」などで児童文学作家としても知られています)の小説の題名で、自然現象としては太陽が海に沈む時に光の屈折や反射のために一番波長の短い緑色だけが一瞬見えることです。
フランスでは、ヴェルヌの小説の影響もあって、それを見ると幸運が訪れると信じられているようです。
映画では、浜辺で老人グループがヴェルヌの作品について話していて科学的な説明もしている場面に、主人公が偶然出くわす(ご都合主義ですね)のですが、そのころでもまだヴェルヌの作品が読まれていたのかは興味深いです。
他の記事にも書きましたが、1945年のフランスで、主人公の視覚障碍者の少女が、ヴェルヌの「海底二万マイル」の点字本(当時では貴重品です)を熱心に読むシーンが出てくる小説(アンソニー・ドーア「すべての見えない光」(その記事を参照してください)もありました。
フランス人(たぶんパリなどの大都市の住人に限られていると思いますが)のヴァカンスへの異常な情熱(他の記事で紹介した映画にもたくさん出てきます)やイージーゴーイングな男女の出会いにたいする風刺がヨーロッパで評価されたのでしょうが、日本人の目で見ると主人公がわがまますぎるように思えますし、最期は女友達たちが彼女を評して言ったいわゆる「「白馬の王子様」を待っている女性」に、実際に「白馬の王子」様(彼女の好みに合っているだけでそんなに魅力的ではありませんが、それまで彼女をナンパしようとした男たちがいかにも軽薄でひどいので、観客もそれよりはましに感じられます)が現れるラストも感心しませんでした(おまけに、実際に「緑の光線」を二人で見ます)。
この作品でも、「木と市長と文化会館 または七つの偶然」(その記事を参照してください)と同様に、相手を論破しようとする議論好きなフランス人(攻撃的な人もいますが、穏やかな人もいます)がたくさん出てきますが、それは監督のエリック・ロメールの好みなだけなのかもしれません。
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