MASTER PIECE

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1973年のピンボール

2012年11月25日 23時12分13秒 | 書籍



【風の歌を聴け】の後日談・・・


【僕】と【鼠】の登場人物は同じですが、二人は絡むことなく別々のストーリーとなっている。

日常のエピソードをまるでピンナップ写真みたいに切り取った文章表現です・・・
詩的で感性的で村上春樹の独特な世界観の漂う小説ですね・・・

前作もそうだったけど主人公の【僕】はあまりにもクールでスマートで都会的な若者ですが
どこか孤独な感じがします・・・
そんな感情も強く表に出さないのでストーリーや会話の淡々な進み具合が斬新に感じる。

「とにかく遠く離れた街の話を聞くのが好きだ。そういった街を僕は冬眠前の熊のように幾つも貯めこんでいる。」

「殆んど誰とも友だちになんか慣れないってこと?」と209。
「たぶんね」と僕。「殆んど誰とも友だちになんかなれない」

「魚はいるの?」ともう一人が訊ねた。「どんな池にも魚はいるさ」
「遠くから眺めた僕たちの姿はきっと品の良い記念碑のように見えたことだろう」

そんなクールな主人公【僕】も後半にはピンボールの【スペースシップ】探しに情熱を注ぐシーンがある。
この行動や感情は男としてよく分かります・・・
自分が夢中になったもの、失くしたものを探し求める欲求や感情が表現されていて一転して熱い男の印象です(笑)

そういえば【僕】の記憶では、死んでしまった幼馴染の【直子】や
住んでいたアパートの【髪の長い少女】そして爽やかな朝に別れていった【双子の姉妹】など
物語としては【僕】は彼女たちとの別れや喪失感漂う気持ちが、ピンボール探しに投影していると思う・・・

【風の歌を聴け】よりも複雑な構成になっていましたが
読み終えた感想としては、【僕】に感情移入してみると悪くない作品です。

ほろ苦さがのこる感傷的な作品でした。