ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

いまさら「ヤノマミ」

2011年08月23日 11時07分57秒 | 書籍
ヤノマミ
クリエーター情報なし
日本放送出版協会


大宅賞を同時受賞した国分拓「ヤノマミ」を、今さらながら読む。NHKの映像のほうは放映時に見ていたので、本のほうも出版直後から、ずっときになってはいた。だが、Nスぺがあまりに強烈だったことと、まわりで絶賛する人が何人かいたので、そんなものは読むべきではないと思っていたのだ。なにせ秘境もののノンフィクションで、かつ同じ日本人。どうしても自分の作品と比較してしまう。自分の書いていることがつまらなく感じてしまうことが怖くて、どうしても手が出なかった。

読んでみて驚いた。うすうす想像はしていたが、この本にはわたしがツアンポー峡谷で感じたことと、まったく同じことが書かれていた。国分さんはヤノマミという昔ながらの生活スタイルを守っている先住民との濃厚な接触を通じて、自然の中しか存在しない生と死に関する唯一の確かなことを知った。わたしは同じことをツアンポー峡谷における過酷な単独行を通して知った。ただし、「ヤノマミ」のほうが、生身の人間の行為や儀式を描くことでそれを表現しているので、読者にはストレートに伝わりやすのだろう。冒険という行為を通じて表現すると、どうしても抽象的になってしまう。

この本のことを、文化人類学的な視点で描いていると書いた書評や感想をいくつか目にしたが、わたしにはそうは思われなかった。むしろ学術的な記述を用いてヤノマミ族を解釈することを、つとめて避けているように感じた。生のまま人間が空っぽの受信体となり、受けた印象や衝撃、垣間見たシーンを、テレビモニターに映し出すかのように、分かりやすい文体で表現したことが、この本が成功した理由だろう。

ちなみに現在、北海道の実家にいる。小さいころに住んでいた家――今は空き家となっている――を、十数年ぶりに訪れ、打ちのめされた。

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