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第2回将棋電王戦と『われ敗れたり コンピュータ棋戦のすべてを語る』

2013年04月19日 04時54分44秒 | デジタル・インターネット
われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語るわれ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2012-02


3月23日より毎週土曜日に開催されている第2回電王戦も残すところあと1局となった。

第2局で初めて現役プロ男性棋士がコンピュータ相手に公式戦で敗北し、続く第3局もコンピュータが勝利した。第4局は珍しい持将棋(引き分け)となり、これまでプロ側の1勝2敗1分けとなっている。最終第5局に勝てば、2勝2敗1分けと五分の結果となる。

チェスにおいて初めて世界チャンピオンにコンピュータが勝利したのは1996年(ただし、1勝3敗2分け)。チェスに比べ複雑な将棋では人間を越える強さを得るには時間が掛かると見られていた。
しかし、2005年にBonanzaが登場し、翌年の世界コンピュータ将棋選手権で初出場初優勝を飾り、その思考ルーチンのソースを公開した。これを機にBonanza系のソフトが多数開発され、それとしのぎを削るように非Bonanza系のソフトも強くなっていった。

2007年に大和証券杯ネット将棋・最強戦特別記念対局として、渡辺明竜王とBonanzaが対局。結果は竜王の勝利だったが、互角に近いものだった。
2010年清水市代女流王将と「あから2010」が対戦し、コンピュータが勝利した。
そして、2012年日本将棋連盟会長で、永世棋聖、元名人である米長邦雄が第1回電王戦でボンクラーズと対戦した。

2003年に現役引退。対局当時68歳。49歳で名人獲得最年長の記録を作ったとはいえ、将棋は若い頃の方が強いとされるもの。『われ敗れたり』には対局が決まってから、改めて将棋に取り組む様子が語られている。

対局相手が決まってからは自宅でボンクラーズと繰り返し対戦し、その強さを認めている。「矢倉の繊細な駆け引きも、相振り飛車の機敏さも、横歩取りの激しい変化も見事に指しこなします」
そして、「『自分よりもコンピュータのほうが強い』ことを認め、それを受け入れた上で戦略を練ろうと考えるにいたった」。
勝負師の言だ。

Bonanza開発者保木邦仁氏のアドバイスを元に、ボンクラーズの初手「7六歩」に対して「6二玉」で応じる策を練った。人間相手であれば奇策どころか敗着にすらなりかねない手だろう。だが、だからこそコンピュータを惑わす手でもある。

終盤の正確性については、昔からコンピュータの強さは指摘されていた。従って、いかに序盤にリードを作るかが勝敗を分ける。しかし、単に優位に立てばいいという訳ではない。コンピュータ側は自分が不利と見なせばどんどんと勝負を仕掛けてくるだろう。それをミス無く対応するのは難しい。むしろコンピュータに自分が有利と思わせることが必要と考えた。

実戦は、美濃囲いで堅く守るボンクラーズに対して、角道を開けず、飛車と玉が近い米長の陣形は良いように見えない。だが、6筋から8筋にかけての位を取り、金銀桂といった駒で押し上げ、負けない形を作り上げていた。その後いくつかの失着により、形勢が大きく傾き、ボンクラーズの鋭い終盤が光った勝負となった。

米長は自身が対局を受ける前に、将棋界トップに位置する羽生善治とコンピュータとの対局料を7億800万円と宣言した。羽生は米長に「もしもコンピュータとどうしても戦わなければならないとすれば、私はまず、人間と戦うすべての棋戦を欠場します。そして、一年かけて、対戦相手であるコンピュータを研究し、対策を立てます」と語ったという。

コンピュータとの対戦と人間との対戦は全く異なる研究・準備が必要となる。現役を引退していた米長だからしっかりと対策を練ることが出来た。しかし、現役の棋士ではそれは難しい。

そうした中での第2回電王戦は、プロにとって厳しいものとなった。初戦は阿部光瑠四段が習甦に快勝したものの、第2局で佐藤慎一四段がPonanzaに敗れた。続く第3局も船江恒平五段がツツナカに敗れ、プロは1勝2敗と窮地に立たされた。この第3局は184手に及び、形勢は二転三転した。「途中は優勢になったと思いますが、終盤逆転を許したのは自分という人間の弱さが出てしまいました」と船江はコメントを残しているが、コンピュータ相手との戦いにおける人間の精神状態のあり様も興味深い。

第4局の塚田泰明九段は元王座でA級通算7期を誇る。現在はC級1組の48歳。対する「Puella α」はボンクラーズが改名したもの。負ければプロ側の敗北が決まるという重圧の中で、塚田はコンピュータが苦手とされる入玉を目指す。これに対し、Puella αも入玉に。塚田は敗勢だったが、相手のミスに助けられ持将棋に持ち込んだ。インタビューでは涙ぐむ場面も見られた。

4月20日。三浦弘行八段とGPS将棋による最終局が行われる。三浦は現在もA級に在籍する39歳。現役トッププロの一人。GPS将棋は東京大学大学院総合文化研究科によって開発された。

電王戦を観戦したファンの声で、「ここ数週間で『コンピュータがプロ棋士相手にやれるのか』から『プロ棋士がコンピュータ相手に善戦』に変わったのが凄い」というものを見かけた。将棋界にとっても、コンピュータによる情報処理といった研究にとっても、激動の日々だったと言えるだろう。

『われ敗れたり』に掲載されている羽生の第1回電王戦の感想に、

そのうちに棋譜だけでは、指し手が人間なのかコンピュータなのか、見分けがつかなくなると予想しています。
思考のプロセスはまったく異なっているにもかかわらず、現れる選択が似ているというのは、実に驚くべきことです。
これからは、コンピュータの計算処理能力から導かれる一手を、人間の知性で理解し、同じような結論を導き出せるかを、問われるような気がしてなりません。


とある。

Bonanzaの登場は、ソフト開発者の強さがソフトの強さだった時代から、膨大な棋譜データをソフト自身が分析・評価する時代へ、そして、そうしたプログラムの合議が元となる時代へと変貌させた。コンピュータの思考を将棋を通して読み解くとも言えようか。
もちろん、棋譜データから導かれたものである以上、「完全解」などということはあり得ない。ただ、単純なロジカルではなく、大局観などの感性も含めて、人の思考を照らし出す灯りにコンピュータはなるだろう。人とコンピュータの戦いが今後どうなっていくのか、わくわくして見ていきたい。


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
割と前に出てたんですね。 (名無し)
2013-04-25 20:21:55
これは興味の範囲にモロに入るので、今更ながら注文してみようかと。
純粋な計算能力に対してどうアプローチしていくかについてとか、人間との条件差についても言及されてればと期待します。
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この本では将棋の観点からがメインなので、コンピ... (奇天)
2013-04-27 08:00:25
第2回電王戦は夢枕獏が観戦記を書く予定となっていて、楽しみにしています。劇的でドラマ性に富む対局続きだったので、そういうストーリー性が前面に出て来るんじゃないかと予想していますが。SF的観点があるかどうか注目ですw
返信する
夢枕先生だと、小説風に書かれたら凄い下が空白な... (名無し)
2013-04-28 18:19:01
本の紹介とか雑記とかはそうでもないですから、まあ、大体空気は掴めますけどw

この方面での今後の展開は期待です。
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第1局の分は公開されていますね。観戦記と呼べる... (奇天)
2013-04-29 15:35:32
第2回将棋電王戦 第1局 電王戦記1.2 (筆者:夢枕獏)(1/2ページ) | ニコニコニュース
http://news.nicovideo.jp/watch/nw564135

第2回将棋電王戦 第1局 電王戦記3.4.5 (筆者:夢枕獏)(1/3ページ) | ニコニコニュース
http://news.nicovideo.jp/watch/nw567736
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読みましたw (名無し)
2013-04-30 15:01:44
小説モードの先生ですねw
このままのペースだと、これはこれで凄いような気が……w
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