東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

柘榴坂(新坂)

2012年06月06日 | 坂道

前回、桂坂聖坂を紹介したが、高輪台地の他の坂をいくつか紹介する。写真は以前(2011年9月)撮ったものである。

柘榴坂下 柘榴坂下 柘榴坂中腹 柘榴坂中腹 品川駅前の交差点で第一京浜を横断すると、そのまま西へまっすぐに延びる道があるが、ここが柘榴(ざくろ)坂である。横断してちょっと歩くと、一枚目の写真のように、緩やかな上り坂となる。

坂両側に大きなホテルなどがあるためか人通りも車も多く、賑やかなところである。坂上は、右折すると、台地の尾根道で北へと延びて二本榎通りに続いている。かつての浜辺から台地の上までかなりの高低差があるが、勾配は中程度よりも緩やかなので、かなり長い坂となっている。

一枚目に写っている横断歩道の先に、二枚目のように坂の標柱が立っている。このあたりがちょうど坂下になっている。標柱には次の説明がある。

「ざくろざか 坂名の起源は伝わっていない。ざくろの木があったためか。江戸時代はカギに曲り、明治に直通して新坂と呼んだ。」

芝三田二本榎高輪辺絵図(文久元年(1861)) 御江戸大絵図(天保十四年(1843)) 一枚目は、尾張屋板江戸切絵図の芝三田二本榎高輪辺絵図(文久元年(1861))の部分図であるが、海岸に沿う東海道から高山稲荷の所を西へ入る道があり、途中、クランク状(カギ)に曲がってから、まっすぐに西へ台地まで延びている。これが江戸末期の柘榴坂である。坂の北側が薩州殿となっているが、薩摩藩の下屋敷である。坂を挟んで反対側が有馬中務大輔で、久留米藩の下屋敷である。右端に前回の桂坂がある。

二枚目の御江戸大絵図(天保十四年(1843))にも、薩摩藩屋敷と久留米藩屋敷との間に西へ延びる道があるが、これがこの坂である。これにも途中カギの曲がりがあるが、位置が尾張屋板とちょっと違い、坂下側にある。これにも右端に桂坂がある。

近江屋板を見ると、カギの曲がりがやや坂上側に位置し、坂マーク△が坂上側にあり、坂下の稲荷前から上側がちょっと曲がっている。実測東京地図(明治十一年(1878))にはちょうど中ほど付近にカギの曲がりがあるので、尾張屋板があっているようである。

明治地図(明治四十年(1907))にはまだ現在のような道はない。戦前の昭和地図(昭和十六年(1941))では現在のようになっている。新坂ともよばれるが、明治以降にできたためそうよばれた。 現代地図を見ると、第一京浜の品川駅前の交差点から南へちょっとの所に高山神社があるが、ここが尾張屋板にある高山稲荷とすると、旧道はこの前を西へ延びていたことになる。

柘榴坂中腹 柘榴坂中腹 柘榴坂中腹 柘榴坂中腹 一~四枚目の写真は坂中腹で撮ったものである。まっすぐに上下しているが、途中勾配がかなり緩やかになる部分がある。まったくの当てずっぽうだが、そのあたりまでが新道で、それから上が旧道かもしれない。

この坂は、以前、島津山の方から高輪へ抜ける近道を通って、坂上に出た記憶がある(以前の記事)。そのときは、この坂を下らず、台地上の道を北へ桂坂上まで歩いた。この坂はそのとき以来の課題であったが、このときようやく歩くことができた。

永井荷風「断腸亭日乗」に次の記述がある。

大正八年(1919)「九月廿七日。秋晴の空雲翳なし。高輪南町に手頃の売家ありと聞き、徃きて見る。楽天居の門外を過ぎたれば契濶を陳べむと立寄りしが、主人は不在なり。猿町より二本榎を歩みて帰る。」

この坂の両側が高輪南町で、この日、荷風はこのあたりに売家を見に来た。ちょうど、麻布市兵衛町の偏奇館へ移る前で、引っ越し先をさかんに探していたときである(以前の記事)。

柘榴坂中腹 柘榴坂上 柘榴坂上 柘榴坂上 坂上近くにT字路の交差点があり、二、三枚目の写真はそのあたりから坂上を撮ったものである。坂上は、右折で、そのまま北へと続くが、反対に左折すると、細い道が南へ延びている(北側一方通行)。この小路を進むと上記の高輪への近道にいたる。

上記のT字路の交差点から南へ道が延びているが、これが上記の尾張屋板などにも見え、古くからの道のようで、御殿山の方へ続いている。今回、気がついたが、江戸切絵図に御殿山の方に鉄砲坂が見える。これは今はない坂とされている(横関)が、いつかその跡を訪ねてみたい。ただ、現代地図を見ると、このあたりは、鉄道(山手線など)や大きな道路が通っていて、ほとんど期待できないようであるが。

四枚目の写真のように、坂上にも標柱が立っている。このあたりから坂下までもどった。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
「嘉永・慶応 江戸切絵図(尾張屋清七板)」(人文社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図集 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
デジタル古地図シリーズ第一集【復刻】江戸切絵図(人文社)
デジタル古地図シリーズ第二集【復刻】三都 江戸・京・大坂(人文社)
「古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩」(人文社)
「古地図・現代図で歩く戦前昭和東京散歩」(人文社)
「東京人 特集 東京は坂の町」④april 2007 no.238(都市出版)
永井荷風「新版 断腸亭日乗」(岩波書店)
「江戸から東京へ明治の東京」(人文社)

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