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甲斐荘楠音の全貌

2023-10-10 00:10:42 | 美術
東京ステーションギャラリーで「甲斐荘楠音の全貌-絵画、演劇、映画を越境する個性」を見てきました。

こちらも実際に行ってからかなり日が経ってしまいましたね…。「あやしい絵」展で甲斐荘楠音の作品に衝撃を受けて以来、この展覧会も開催を心待ちにしていました。展覧会では甲斐荘楠音を画家のみならず、映画人、趣味人として、さまざまな芸術を越境する表現者として紹介しています。

展覧会の序章は「描く人」から。甲斐荘の画業を紹介しています。あやしい絵展でも強烈なインパクトを放っていた「横櫛」と「幻覚」が。あらためて見ても妖しい絵…謎めいた微笑みを浮かべる女、踊る女の燃えるような赤が眼に焼き付くよう。「春宵(花びら)」はそのタイトルとは裏腹に、醜怪な太夫が異様…。第1章は「こだわる人」。人の動きに対するこだわりをスケッチなどで紹介しています。「籐椅子に凭れる女」がなんとも艶めかしい…透ける黒衣の下の白い肌。甲斐荘は裸を肌香(はだか)と称していたそうですが、彼の描く女からは色香が匂い立つようです。そして、メトロポリタン美術館から里帰りした「春」。ある意味、画業のピークともいえそうな作品。色鮮やかな着物を身にまとい、物憂げな表情を浮かべる女性の瑞々しさ、艶やかさ…。

第2章は「演じる人」には、舞台のスケッチや女形に扮した甲斐荘の写真が。彼の描く女性は、女性を客体として描くというより、自ら成り代わろうとするかのような迫真性があります。第3章は「越境する人」。甲斐荘による映画衣装の数々が並びます。斬新な意匠からも彼の多才ぶりが明らかです。それにしても、こんなにたくさんの映画の衣装を手掛けていたのか、と茫然としてしまいます。溝口健二の「雨月物語」や「残菊物語」は見ましたが、この衣装も彼の仕事だったのですね…。終章は「数奇な人」。畢生の、そして未完の大作が圧巻。「虹のかけ橋(七妍)」は金地を背景に豪奢な衣装を纏った七人の太夫がずらり並ぶさまが壮観。そして、「畜生塚」…豊臣秀吉が甥で養子の秀次を自害させ、その妻妾子三十人余を三条河原で処刑したという史実に基づいた作品です。裸の女たちの悲嘆、絶望、諦念、祈り…甲斐荘は何を思い、この作品を描き続けたのでしょうか…。

というわけで、甲斐荘楠音な独特の世界を堪能してまいりました。あまりにも独特すぎて、本当に個展で見てなんぼの人だと思いましたよ…。綺麗ごとだけではすまない彼の作品は、国画創作協会の展覧会で土田麦僊に「穢い絵は会場を穢くしますから」と、出品を断られたこともありました。しかし、甲斐荘は「穢いが、生きて居ろ」と…その願いどおり、彼の描いた女たちは画布の上で生き続けるのでしょう…。
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