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アートネタなど日々のあれこれ

君たちはどう生きるか

2024-01-09 00:05:03 | 映画
TOHOシネマズ渋谷で「君たちはどう生きるか」を見てきました。

宮﨑駿監督の10年ぶりの監督作品です。不肖わたくし、ジブリ作品を映画館で見るのはかなり久しぶりなのですが、ふと、思い立って行ってきました。子どもたちを連れて行こうかとも思ったのですが、なんとなく一人で…。一切情報を明かさない、宣伝も行わないという異例な状況で公開されたこの作品、見た方の間ではかなり賛否両論あるようなのですが、いったいどんな作品なのか…。

太平洋戦争で母を失った少年が、父の再婚後、姿を消した継母を探すうちに異界にさ迷いこみ…というストーリーです。が、設定が入れ子構造になっているので、難解というイメージを与えるのかもしれません。自分はひたすら映像と音楽の美しさを堪能しました。どちらも非常に美しく、瑞々しい。宮崎監督も久石譲氏もそれなりのご年齢のはずですが、まったくそういうことを感じさせません。むしろ、お二人が本当にやりたかったのはこういうことなのでは、という気すらしてきます。映像の、とりわけ空と海の美しさ。そぎ落とされた音も美しく響きます。一方、世界で最も怖いのは「悪意」ということも知らしめます。死を起点に生と世界を極上の映像と音で伝えるこの作品は監督が次世代へ向けたメッセージかもしれず…。

ところで、この作品、タイトルは吉野源三郎作「君たちはどう生きるか」からとられていますが、原作とはなっていないようです。せっかくだから、小説の方も読んでみようか…と買ってみたら、裏表紙にこんな言葉が書いてありました。

「君自身が心から感じたことや、しみじみと心を動かされたことと、くれぐれも大切にしなくてはならない」
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もじ イメージ Graphic

2024-01-08 00:29:38 | 美術
21_21DESIGN SIGHTで「もじ イメージ Graphic 展」を見てきました。

この展覧会は1990年代以降のグラフィックデザインを、日本語の文字とデザインの歴史を基に紐解いていくという展覧会です。国内外54組のグラフィックデザイナーやアーティストのプロジェクトが紹介され、ボリューミーかつ刺激的な展覧会となっていました。

ギャラリー1の展示は「日本語の文字とデザインをめぐる断章」。日本語の書記体系のデザインの歴史的展開、そして戦後のグラフィックデザインの作品の紹介をしています。まず、各国の文字の紹介があったのですが、日本語の特殊性-漢字、ひらがな、カタカナを併用―の特殊性がわかります。作品は主に戦後から80年代のポスターなどが展示されていましたが、杉浦康平、亀倉雄策、田中一光、横尾忠則…といった、錚々たる人々のパワフルな作品が続きます。

ギャラリー2の展示は「辺境のグラフィックデザイン」。グローバル時代のなかで日本のグラフィック文化が生み出してきたものと今後の可能性を、海外の動向を混じえ、13のセクションに分けて解説しています。テーマは「テクノロジーとポエジー」「造形と感性」「メディアとマテリアル」「言葉とイラストレーション」「キャラクターと文字」などなど…。本、雑誌、漫画、ポスター、看板、諸々のプロダクト…膨大な量の作品が展示されていましたが、いつか見た記憶のあるものもたくさん…あの作品はこの方が、という発見も多々ありました。見ていると当時の時代の空気までがよみがえってくるようです。そして、同じ文字がデザインによってここまでイメージが変わってくる、ということを目の当たりにして、文字による表現がここまで多様だったということに今さらながら衝撃を受けました。文字はコミュニケショーンツールですが、文字自体が作品ともなりメッセージともなるのですね…。「デザイナーと言葉」のセクションではデザイナーの言葉が紹介されていましたが、原研哉さんの「デザインのデザイン」というテキストのなかの「見慣れたものを未知なるものとして再発見できる感性も同じく創造性」「生活の中から新しい問いを発見していう営みがデザイン」という言葉が印象的でした。

そんなわけで、膨大な物量にクラクラしながらも楽しんでまいりました。展覧会のディレクターズメッセージエモver.にもあったように、「世界に類を見ない複雑怪奇な」日本語の書字スタイル。これからどのような変容を見せていくのか、日本人の一人として楽しみではあります…。
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春の画

2024-01-07 00:37:11 | 映画
シネスイッチ銀座で「春の画」を見てきました。

春の画…つまりは春画の魅力に迫ったドキュメンタリーです。江戸時代には葛飾北斎、喜多川歌麿、鳥居清長、鈴木春信といった名だたる浮世絵師たちが春画を手がけ、極上の作品を生み出しました。しかし、明治になると、春画はわいせつ物として取り締まりの対象となり、姿を消すことに…。そして、長い時を経て、2015年に永青文庫で日本初の春画展が開催され…私も見に行きました…が、その後、春画を眼にする機会はほとんどなく…。この映画では長く秘されてきた春画の美と神秘の謎に迫ります(以下、ネタバレ気味です)。

この映画では春画の一級品が数多く登場…歌麿の「歌まくら」、鳥居清長の「袖の巻」、鈴木春信の「風流艶色真似ゑもん」、北斎の「喜能会之故真通(蛸と海女)」、歌川国貞の「正写相生源氏」などなど…一生分の春画を見たような気すらしました。しかも無修正&大画面で。春画の復刻プロジェクトも紹介されていて、キワモノかと思われた春画が、実は絵師のみならず彫師・刷師の技術の粋が集約されたものだったことがわかります。とりわけ、陰影表現ならぬ陰毛表現の技術が凄い。作品の一部はアニメーション化されていて、声優さんの迫真の演技も相まってけっこう生々しかったですね。春画と一口にいっても、耽美なもの、笑えるもの、グロいもの、怖い絵、などなど実にバリエーションが豊富。このアイデアはいったいどこから湧いてくるのだろう…と思ってしまいますが、やはり人間存在の根本に関わるテーマなので、創り手の飽くなき探求心をそそるのやもしれません。そんなわけで、エロスとアートの狭間にある春画の魅力をお腹いっぱい堪能…。

ちなみに、この映画は監督もプロデューサーも女性の方です。そして、朝吹真理子さん、春画―ルさん、橋本麻里さん、ヴィヴィアン佐藤さん、横尾忠則氏、会田誠氏、木村了子さんなどが登場し、春画の魅力を語っています。音楽は原摩利彦さん。洗練された雅な感覚がこの映画の世界観にマッチしていました。

映画を見た後、隣のギャラリーアートハウスで開催されていた「銀座の小さな春画展」にも行ってきました(展覧会は既に終了しています)。北斎の海女と蛸の絵も出ていましたよ…たしかに映画を見てから実物を見ると、違って見えてくるような気がしますよね。それにしても、江戸時代から数百年を経た銀座のど真ん中で、人々がひっそりと春画に見入っている図というのもなかなかに乙でした。
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