aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

超写実絵画の襲来

2020-03-30 23:26:09 | 美術
Bunkamuraザ・ミュージアムで「超写実絵画の襲来」を見てきました。

こちらも開催を知ったときから楽しみにしていた展覧会です。ホキ美術館にもいつかは行ってみたいと思っていたのですが、家から遠いこともあり、なかなか行く機会もなく・・・ですが、向こうの方から来てくれたので、ありがたく行ってまいりました。

展示は森本壮介「未来」から。白いブラウスと桜色のスカートの清楚な女性。透けるような衣服の描写が綺麗。この絵は震災の日に倒れたものの、事なきを得たのだとか。野田弘「摩周湖・夏天」の吸い込まれるような青、「聖なるもの THE-Ⅳ」は細密描写に神が宿るかのようです。展覧会のメインビジュアルにもなっている生島浩の「5:55」を見ると、綺麗なお姉さんは好きですか、という昔のCMをついつい思い出してしまいます。アントニオ・ロペスとも交流のあった礒江毅の「横たわる男」はどこかピエタのようでもあり・・・。石黒賢一郎の「存在の在処」は高校教師だった父親の定年の日を描いた作品ですが、時の流れまで感じさせます。もう一つのメインビジュアルにもなっている五味文彦「いにしえの王は語る」はまさに王者の風格の樹木。島村信之「幻想ロブスター」からは氏の甲殻類好きが如実に伝わってきます。原雅幸の清澄な風景画、「モンテプルチアーノ」の前からは動けなくなってしまいました。諏訪敦の「玉眼(大野慶人立像)」の迫真。藤原秀一の「萩と猫」の愛らしさ。塩谷亮の「月恍」の深く鮮やかな緑。鶴友那の「ながれとどまりうずまききえる」からは流れる川の水音が聴こえてくるようです。

会場では何人かの作家さんのインタビュー映像も流されていました。皆さん、写真以上の何か表現するために、さまざまな思いを込めているようです。野田氏の「全生命をかけて見つめる」という言葉には胸を衝かれる思いがしました・・・。

新型コロナウイルスの関係で、展覧会どころか出歩くこともままならない日々になりました。今まだわずかに開催が継続されている展覧会もありますが、それすらもう時間の問題かもしれず・・・。子どもたちが毎日学校に行ったり、家族でお出かけしたり、展覧会を見に行ったり、という「普通の日々」がどれだけありがたいものだったのか、思い知らされます。収束するのはいつになるのか・・・その時には世界全体が違うフェーズに移っているような気もします・・・。

うたのはじまり

2020-03-16 19:25:28 | 映画
シアターイメージフォーラムで「うたのはじまり」を見てきました。

ろうの写真家、齋藤陽道さんと「うたのはじまり」を追った映画です。「絵文字」初体験も含め、今まで知ることのなかった音の世界に目覚めさせられました(以下、ネタバレ気味です)。

齋藤陽道さんのことを初めて知ったのはワタリウム美術館での展覧会でした。彼の写真はやはり特別でした・・・見ているだけで何だか泣けそうになってくるというか。何げない瞬間を何げなく撮ったような写真なのに、世界はこんなに綺麗なのかと思わされます。この映画では、彼はなぜ写真を撮るのか、ということにも触れています。見ることを通して伝えることを選んだのでしょうか・・・。そして、映画で見る陽道さんは写真からイメージしていた人物像とほぼ一致していました。そう、ある一点を除いては。彼は実はレスラーでもあったのですね。ドッグレッグス(障害者プロレス団体)で、リングにも立っていたのでした。リングネームは「陽ノ道(ひのみち)」。もっとも彼にとってはレスリングはコミュニケーションでもあったようです。

陽道さんが、樹君の誕生を機に歌に目覚める・・・のですが、そこに至るまでには相当な葛藤がありました。彼にとって、音楽は「単なる振動」でした。そして、音声でコミュニケートできないということは、聴者には想像もつかないようなストレスなのですね。同じくろうの写真家である奥様との間に生まれた樹君は聴者でした。歌が嫌いだったはずなのに、樹君を寝かしつけるために子守唄を歌い出す陽道さん。パパと一緒のお風呂の中で「だいじょうぶのうた」を歌う樹君。その姿を見ていると何だか泣けてきそうでした。この子は両親を安心させるために、そして、うたの幸せを伝えるために生まれてきたのかもしれない、と。

ところで、この映画には通常版と絵字幕版とがあるのですが、私が見たのは絵字幕版です。絵字幕を手掛けたのは、画家でありミュージシャンでもある小指さん。彼女は音楽を聴いて頭に思い浮かんだイメージを五線譜に描くという「スコア・ドローイング」をしています。この映画では、映画の中で流れる歌をスコア・ドローイングした字幕が流れます。どことなくカンディンスキーを彷彿とさせますが、不思議な生き物を見ているような独特の美しさがあり、音楽とセットで見ると本当に面白く、また楽しいのです・・・。

この映画は「うたのはじまり」というタイトルですが、それだけにとどまらず、表現することについても多くのことが語られていて、陽道さんの写真のイノセントな世界がどのようにして生まれたのかの一端を垣間見られるようでもありました。願わくば、映画でも陽道さんの写真をもう少し見てみたかったかな・・・。それにしても、映画のラスト、陽道さんと樹君の姿は本当に幸せそうで、御一家がいつまでも幸せでありますように・・・と祈らずにはいられませんでした。