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アートネタなど日々のあれこれ

芸術家・今井次郎

2021-11-14 11:43:01 | 映画
ユーロスペースで「芸術家・今井次郎」を見てきました。

不肖わたくし、今井次郎氏のことは知りませんでした。ユーロスペースのスケジュールを何となく見ていてこの映画を発見し、予告編が面白そうだったので、行ってみることに…。映画を見ていると、本当に時たまにですが、何と感想を書いていいかわからない、という作品に出くわすことがあります。あれこれ書いても伝えられない、伝わらないというか。この映画もそういう映画でした…(以下、ネタバレ気味です)。

今井次郎=JIROXは1952年生まれ。2012年に悪性リンパ腫で60歳で亡くなりました。80年代から音楽・演劇活動を続け、自らのアート作品を使ったパフォーマンス「JIROX DOLLS SHOW」でも独自の世界を展開しました。映画は主に「今井次郎トリビュートライブ」の模様、関係者へのインタビュー、本人のパフォーマンス映像などで構成されています。ライブでは今井氏の曲が演奏されていますが、これが何とも言いようのない美しさなのですよね。美しいを通り越してもはやイノセントというか…。パンクバンド「PUNGO」の活動も紹介されていましたが、面白い音楽でした。ご本人は楽器の練習とかをする気はあまりなかったようなのですが…。演劇活動でも不思議なというか天才的な存在感を発揮しています。「JIROX DOLLS SHOW」では半ばゴミのような素材を作って独特なオブジェを制作、自らパフォーマンスもしています。自分の頭を瓶で叩き続けていた時には、さすがに途中でスタッフの方に止められたのだとか。でも、ただひたすら天然な方だったのかというと、ある関係者の方は仲間たちの才能を引き出しながら、自分をどこに落とし込むかの見極めが絶妙だったというようなことも言っていましたね…。

そんな今井氏に2012年、悪性リンパ腫が発覚、入院することになります。すると今度は何と、病院食を使って「ミールアート」を始めます。映画では「作品」の写真が映し出されますが、その数が膨大でした。ほとんど毎食作っていたのではないかと思えるくらいです。常に恬淡としているように見えた氏ですが、どれだけ生きたかっただろう…と、切なくなりました。そもそも自分の頭をマッコリの瓶で叩きながら「幸せになっちゃお、Be Happy!」と歌っていた笑顔の裏には、もしかしたらとてつもない哀しみが潜んでいたのかもしれず…。

私が行った日には上映後に佐藤幸雄とわたしたち(佐藤幸雄さん+POP鈴木さん)のトーク&ライブがありました。佐藤さんが思い出話を続け、あ、時間がなくなっちゃった!と言って演奏した曲のあるフレーズが今でも耳に残っています…。



川端龍子VS高橋龍太郎コレクション

2021-11-03 11:36:30 | 美術
大田区立龍子記念館で「川端龍子VS高橋龍太郎コレクション」を見てきました。

不肖わたくし、こちらの記念館に伺うのは今回が初めてです。いつかは行ってみたいと思っていたものの、なかなか機会がなく…ですが、今回の企画展は川端龍子と現代のアーティストとのコラボが面白いことになっているらしい、ということで行ってまいりました。せっかくなので龍子公園の方も拝観してこよう、と開門時間にあわせて行きました。おうちが公園…ってなかなか凄い世界ですよね。「爆弾散華」の池もありました。アトリエは何と60畳!普段、その10分の1の空間に寝起きする身としては、もはや茫然とするしかありませんが、たしかにここなら巨大サイズの絵も伸び伸びと描けますよね…。持仏堂には龍子所蔵の仏像が納められ(現在は東博が保管)、龍子は毎朝夕の礼拝を欠かさなかったのだとか。そしてここにはなんと、伝俵屋宗達の襖が…(現在はレプリカの展示です)。

…というわけで、圧倒されたまま記念館の方へ。今回の展覧会は龍子の代表作と、大田区在住の精神科医であり現代アートのコレクターでもある高橋龍太郎氏が所蔵する4人のアーティストの作品とを対比して、お互いの魅力を再発見するという試みのようです。会場に入ると、のっけから龍子作の「香炉峰」がどーんと出現…いや、でかいです…そしてスケルトンの航空機が今見ても斬新。この作品に対峙して会田誠「紐育空爆之図」が。ホログラムのきらめきが鮮やかです。いつの世も戦争を繰り返してきた人類の悲劇を見るようです。「草の実」には鴻池朋子「ラ・プリマヴェーラ」が。「草の実」は龍子の作品の中でもとりわけ好きな作品です。会田誠氏も雑誌の特集でピックアップされていましたよね…。鴻池さんの「ミミオ―オデッセイ」も上映されていました。かわいいです…。会場にはところどころ龍子のデッサンも展示されています。川端龍子というと大作、というイメージが強いですが、小さめのデッサンもやはり線に無駄がないというか、迷いがないという感じの力があり、ついつい見入ってしまいます。龍子作の「源義経(ジンギスカン)」には山口晃「五武人図」が。龍子が日本画から洋画に転向した過程に共感するという山口氏のコメントが面白かったです。ひっそりと龍子の「夢」も展示されていました。この作品も好きなんですよね…ルドンの作品を思い出します。かと思うと、「逆説・生々流転」も。よほど大観先生に思うところがあったのでしょうか…。龍子作の「青不動」には天明屋尚「ネオ千手観音」が。ぱっと見、どちらの作品か分からなくなりそうなくらい、雰囲気が似ています…。展示の最後には龍子の持仏だった十一面観音菩薩立像が。仏はすべてを見そなわすのか…。そんなわけで、龍子と現代アーティストたち、両方の魅力を味わいつつコラボの妙を楽しむ、というコラボ展のお手本のような展覧会でした。にしても、やはり龍子の漢っぷりが際立っていましたかね…やはり、60畳の威力でしょうか…。

さて、例によって鑑賞後はお茶、ということで、旗の台の駅近くにある「コンパスコーヒー」に寄ってきました。テイクアウトのコーヒーを飲みながら、しばしぶらぶら…ホットのコーヒーが美味しい季節になりましたね…。